角幡唯介『書くことの不純』を読みました。やっぱり角幡文学は素晴らしい。



帯をとると…



こんな感じ。


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いやーーー 角幡さん、やっぱりいいわ。もう読みながら感動の嵐。こういうの、こういうのが角幡文学なんですよ。今回も期待を裏切らない傑作でした。やっぱりいいよなぁ。

これ、角幡さんが昔から言ってるテーマだよね。「書く行為」が冒険・探検する自分をどんどん侵食していく。それに関する自分の中の葛藤に向いあう内容だ。『極夜行』にもあった。北極で飢えて、まだ殺しても、食べてもいない犬を描写する言葉が頭の中をぐるぐると回っていた、と。

角幡さんは私にとってリアルに一緒の時代を生きる作家だ。私は角幡さんより10歳くらい上だけど、なぜかこの世代の特に男性には妙に共鳴できる人が多い。私の精神年齢が、普通の58歳よりも子供っぽいのか、彼らが成熟しているのか? とにかく同世代な気分がしてしまうのだ。

特に角幡さんの本を読むとまるで自分のために書かれた本みたいで、とても冷静ではいられない。深く深く入り込んでしまう。

今回、読んでて嬉しかったのは、自分が普通に読んでいた本が、続々と登場したこと。そりゃあ角幡さんの書評に結構影響受けている自分だから、当然ことかもしれないけれど。

まずこの本に登場する加藤典洋さんのこの著書(『日本人の自画像』)は読んだことがないので、さっそく冒険研究所書店さんに注文するとして、他のクルティカの『アート・オブ・フリーダム』や、神々の山嶺(いただき)』、そして栗城史多のことを書いた『デス・ゾーン』などは、ぜひ角幡さんに詳しいことを話してほしかったので、すごく嬉しかった。

『アート・オブ・フリーダム』いいよねぇ、ほんといい本だった。私の感想はここ

そして栗城劇場本も(私の感想はここ)。ほんとこの人は痛い存在だった。そしてこの本は、本当に素晴らしい超一級のノンフィクションだった。

「神々の山」はやたら改行が多くて、文章が漫画ちっくだなぁと思いつつ読んだ。こちらも感想はここ。

とはいえ、角幡さんの書評はすごく読んでいて面白いのだが、それに惹かれて対象の本を読んでも結構がっかりすることは多い。沢木耕太郎や開高健とか、そして「神々の山」についても私にはあまり響かなかった。

でも角幡さんの本に対する感想やそれに付随する考察は、本当に面白い。

そしてこの本では、リアルな知り合いでもある川内有緒も登場したりして、すごく面白い(冒険芸術論)。川内さんも自分で小屋を作ったり、子連れで旅をしたり冒険家意識が高い人だ。彼女の人生自体も冒険だ。

そして私も川内さんの発言同様、角幡さんの冒険は芸術だと思う。芸術に値するか、外から判断して外部が「芸術」と呼ぶ…というよりも、角幡さんのそれは作家自身の表現活動だという意味で。そういう意味で、角幡さんの行動はあきらかに芸術家のそれだと思う。

この本は「探検家の社会的意味」と言うところからスタートしていく。

ほんと考える。たとえば同じ北極冒険家の荻田泰永さんはほんとうにスペックが高い人だよなぁ、とみていて感心してしまう。おそらく角幡さんと同じ悩みを抱えながら、しかし荻田さんは書店という自身ベースを運営し、地域に貢献し、100マイルアドベンチャーで教育的にも社会に貢献し、かなり着実に自分の場所に着地しつつあるところがすごいと思う。

一方の角幡さんはどんどん芸術家と化し、ますます漂流していく。これもまためちゃくちゃかっこいい。そういや角幡さんの本に『漂流』ってあったよね。あれは遠洋漁業の漁師さんをあくまで「羨ましそうに眺めている角幡さん」「漂流したい角幡さん」っていう印象が残った。

それを角幡さんは、今、ご本人の自覚があるのかわからないけど実践しつつある。すごいね。

それにしてもこの本で角幡さんが言う「外部からの影響」で作られていく自分…と言うのは、本当に考えさせられる。

「このズレにも人はいつしか慣れ、内部と外部は一体化し、気にならなくなるのだろうか?」という角幡さんの疑問には、私自身は自分を振り返ってイエスと答えるしかない。

私はそういう軽い人間だ。たまたま外国のミュージシャンと出会った。その人のことが好きになり、ミーハー心も手伝って、喜んでもらえるから、周りの人に褒めてもらえるからといってこの道を進んできたにすぎない。

結局のところ自分は音楽のことなんてちっともわかってない、というのは自分でも自覚がある。(それでも音楽馬鹿で、仕事にいい加減な音楽業界人間をいっぱいみてきたので、それはそれで絶対に自分はあぁなりたくないという自負もある)

「内在をつきつめると、かならず意味のある領域を超えて無意味な場所にたどりつくのだが、じつは純粋さというものはそこにしかない」

「純粋さはときに不気味で薄気味が悪かったりするが、しかし純粋さしかもちえないちからというものは絶対にあり、その力が人に感動を与えたり、畏怖させたりする」

… うーーーーんん、お見事! こういうのなんですよ、こういう言葉をくれるから角幡文学はやめられない。

「死」についての記述もいい。「死」はともかく、まもなく仕事を引退しようとしている自分には具体的に響く言葉が多かった。人の「生」は「死」によってしか完成しないという問いについて、それは仕事も一緒だなと思う。

それこそ、この本に登場する三島や、自死をとげた中村とうようさんみたいな生き方はどうなんだろうと私ですら思う。

いや、彼らは間違っている。「生きようとして死ぬ」というのが「死」の正解ならば、「仕事やめます」と宣言して止めるのは自殺と一緒なのか? 

でも最近流行っているよね、宣言してやめるの。この年末でやめます、来年の3月でやめます、と。それはいろんな意味があると思う。「衰えていく自分を晒したくない」とかいうのもあるけど、やっぱり究極の目的は「人に迷惑をかけたくない」ということだと思う。

これについては、また別途しっかりブログに今の自分の考えを書いておきたい。そんなこともたくさん読みながら考えた。

そういうことを考えさせてくれるから、角幡さんの本が私は大好きだ。

この本は「探検家の社会的意味」と言うところからスタートしていく。

ほんと考える。でも私はたとえば冒険研究所書店の荻田泰永さんは本当に探検家としてスペックが高い人だよなぁ、といつも感心してしまう。荻田さんの存在すべてが探検家のお手本みたいな人だ。植村直己さんが生きていたら、きっとこんなふうになっていたかもしれない。

おそらく冒険・探検の世界に荻田さんはこれからもますます貢献していくだろう。

そして、おそらくご本人は口には出さないけれど、角幡さんと同じ悩みを抱えながら、しかし荻田さんはチェリーガラードの「探検は知的好奇心の身体的表現」というテーマをかかげ、書店という基地を運営し、100マイルアドベンチャーで教育的にも社会に貢献し、かなり着実に自分の場所を固めつつある。本当に素晴らしい。

一方の角幡さんはどんどん芸術家と化し漂流していく。もしかしたら鎌倉に住むことも捨てて、グリーンランドにずっと行きっぱなしになってしまうのかもしれない。これもまた、めちゃくちゃかっこいい。

そして角幡さんは、書くことすら、いずれはやめてしまうのかもしれない(それについては、角幡さんはこの本の後書きで明確に否定しているから、読者の皆さん、ご安心を)。

角幡さんはそこでも悩む。「やればやるほど読者の価値観から遠ざかるばかり。いったいどのように書けば、この自分にしかわからない旅を読者に伝えることができるのか、もはや読者を置き去りにして独走しかないのだろうか、そんな諦念すら湧く」

『アグルーカの行方』は、私は今でももっとも好きな角幡文学の金字塔だ。あの北極を一緒に歩いた二人のそれぞれの進む道をリアルでみていられる私は本当にラッキーだ。これからもずっとずっと応援していきたい。

って、本を買うしかできないけど(笑)

さてこの角幡本に出てくる三島由紀夫の『金閣寺』も実は私は未読なので、ついにミシマを読むかーとこちらも冒険所書店さんに注文した。」「ミシマ」ってカタカナで書いた方が私にはしっくりくるが、「ムラカミ」同様、海外には時々強烈な彼らのファンが存在する。

「ミシマ」については、筋トレや体を鍛えることについても考えさせられた。長渕、松本、みんな身体鍛えすぎて頭がおかしくなった人たちのように私は思っている。

身体を鍛えることは精神健康上においてもとてもいいことだとされているのだが、もしかしたら、それは間違いなのかもしれない。そういう私も走ることをやめられないでいる。いや、走るのは体にいいので続けるわけだが、ほどほどにしないとな、と彼らをみていて思う。

一方で、いわゆる夏目漱石も太宰治も読んでもちっともひっかからなかったわたくすですが、果たして…

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この花束かわいいでしょ。近所のスーパーで400円ほど。小さな白い小花が効いてるよね。
菊が仏壇っぽいけど、自分一人しか見る人がいないし、長持ちするし。これで全然OK。

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