佐藤大介『中高生から考える死刑制度 死に値する罪ってなに?』を読みました


ブックレビューがたまっています。

わかりやすい本が出た。今まで読んだ死刑関係の本で一番わかりやすかったが、当然かも。「中高生から考える」本だから。佐藤さん、頑張ったなぁ!(著者はリアルの知人です)

でもこうやって若い世代に伝えていくのは重要なことだ。早く死刑のない日本になってほしいと心からそう思う。日本にはまだ死刑制度があると言うと、多くの外国人にびっくりされるんだ。欧州人と普段仕事をしている私としては、本当にこれはなんとかしてもらいたいと思っているのだ。

著者の佐藤大介さんは共同通信の記者で、得意分野は死刑、そして韓国のあれこれ、インドのあれこれ… 素顔は音楽好き(特にJAZZ)の素敵な記者さんだ。

私は何度かリアルイベントでご一緒したことがあるし、日向敏文さんを取材していただいたこともある。死刑に関する書籍ではこちらも拝読させていただいたけれど、今回のは、さらにうんとわかりやすい。

佐藤さんが出演されている動画を参考までに貼っておく。


報道特集1930


この本の冒頭にも書かれていることだけど、佐藤さんは死刑は反対の立場を取っている。それをしっかり説明した上で、なるべく冷静にこの問題を解きほぐしているのが本書だ。

とにかくわかりやすいことこともそうだけど、今回読んで思ったのは、こういう死刑制度やいろんなことは、常に情報をアップデートしていかないとダメだな、ということだ。

中高校生じゃなくて、だいぶ歳をとり、しかも死刑制度には注目してきた私でさえも知らないことが、まだたくさんあった。

たとえば、今回新しく知ったのは、死刑、そして今でもそれが絞首刑のまま据え置かれている根拠が、すごいということ。もしかしたら前にも読んだことあるかもしれないことなんだけど、時々読んだりしないと、こうして忘れてる。

絞首刑の根拠は150年前に法令にあるのだそうだ。つまり、まだ内閣制度も整っていなかった頃の法令が、まだ威力を発している、ということ。

しかし、日本人っていろんなことをアップデートするのが苦手だよね。一度決めちゃうと(っていうか、決めること自体も苦手だけど)それを変えることができない。

それは平和も自由も人から与えられた国に住んでいるからだろうか。とにかく自分の努力で変えていこう、失敗してもいいから良くしていこうみたいな意志が弱すぎる。だから今の時代取り残された斜陽の国になるんだよな。よくわからるわー

使い古されたiPhoneやパソコンをアップデートしないでデレデレ使っているのは、日本人に多いのだそうだ。いや、私もそういうところあるから、あまり人のことを責めることはできない。

でも、死刑制度もそういうところないか? 変えるのが、苦手な日本人。自分が困らなければ、別姓だって認めようとしない? いや多少困ったとしても、知らない未来よりも知ってる不便な現在を確保したがる? それが私たちなのかも。

だからこそまだCDが売れ続け、格安スマホにせずDocomoやSofrbankのままの人が多いのかも。もちろん再び言うが、私もそういうことについて、あまり文句を言えない性格ではあるのだが(笑)

この本では、また、お隣の国、韓国のモラトリアム状態を例をあげ、詳しく説明されていた。これも思ってたより、全然複雑だった。現実は、単純ではないな…と。

佐藤さんの説明はなかなかわかりやすい。ほんと韓国同様、日本も国際社会との関係性の中で生きていかないといけない。そのためには、もしかすると国内に対して、そして国外に対して、違う顔を見せていく必要もあるのかもしれない、と佐藤さん。

本当に! 本当にそう思うよ。

それでも!いいではないか、人を公的に殺さなくていい未来が来るのであるなら!と私なんぞは思う。死刑絶対反対の立場をとる私は、すぐそう思ってしまうのだけど、多くの人はどうなんだろう。

あと駐日英国大使のロングボトムさんの話もすごくよかった。最近、英国と一緒に武器開発(だったっけ?)のなんたらとかいうニュースがあったり、皇室が英国を訪ねたり、なかなか親密な2国間だけれど、こんなふうに英国大使館が、積極的にこの件に関わってきているなんて知らなかった。

ちなみにロングボトムさんは、日本語も堪能で、スポーツを愛する素敵なママさんでもある。

そして、ここでもやはり指摘されている。「死刑の廃止はどこの国でも(国民ではなく)勇気あるリーダーによって実行される」とのこと。そうなんだよ、「勇気あるリーダー」がいないんだよ、この国は。

国民投票とかがあれば、また別なのかもしれないけれど、そういった制度もないウチらにとっては、そういうリーダーを選挙で選ぶしか、死刑制度廃止の道はないのだろうか、と思う。

そして日本と英国の関係は、日本が死刑を廃止することで「さらによくなる」と彼女によって明言されている。そして「英国政府はいかなる場合でも死刑には反対の立場です」と。

一方の日本の政治家によれば「死刑制度廃止」は票に結びつかない。それどころか一部の支援者から文句が出る…と来たもんだ。これじゃ、ダメだよね。

さらに、この本の第3章の情報公開の項においては、千葉元大臣の本音を聞けた(というか、実際の様子が知れた)のが、すごく良かった。

千葉さんは、ずっと死刑廃止を推してきて、それなのに結局自分が法務大臣になった時、死刑を2名執行した。その本音や気持ちが知りたかった。当時の大臣という立場では何も言えないことは私でも想像できたけれど。

だからこの項はすごくよかった。千葉大臣(当時)が、あの絞首台の写真を公開したのにはすごかったよね。結局あまり話題にならなかったけど、あれは大きかった。そして千葉さん、なんと、死刑の執行も見学されたのだそうだ。

これは前例がなく一瞬ざわついた刑務官や関係者たち… でもそこは大臣の要望ならということで、粛々と見学は行われたそうである。すごいね。すごい覚悟だと思う。

彼女の責任感やいろんな気持ちに、政治家になるって、大臣になるってこういうことなんだろうなと多少同情めいたものも感じてしまったが、そこに彼女の本気度を感じた。私が彼女なら、私でもそうしたかもしれない。それはどんな職業でも一緒だ。

そういうことで、とにかく法に従い、その場における自分の責任を全うしつつ、やり過ごしていくしかないのだけれど。

千葉さん、著者の佐藤さんにもこの件を本音で語っているわけではない。でも佐藤の書き方が、これまた絶妙なんだ。私はそこに佐藤さんの優しさを見たと思った。このへんのくだりは、本当にぜひこの本を実際読んでみて。

あとこの項ではアメリカの保守派のジャーナリストさんの話も興味深かった。かっこいいな。みんなかっこいいよ。彼の死刑に対する意見はともかく、彼も自分の意思をしっかり貫いて自分の職業にあたっている。

一方の日本はどうなんだろう。死刑について情報が隠され、何も知らず、とにかく目を瞑って生きている。

ところで、今、日本で死刑はここ2年ほど執行されていないそうだ。それは何かというと実は袴田さん効果なのだそう。(ジャーナリストの青木理氏談による)

これが、うまく5年くらいモラトリアムとして時間が過ぎれば、もう死刑はなくなるんじゃないかとも思う。

というのも、多くの国で実践されているように、またEUのシンポジウムでも話題になっていたように死刑制度廃止は「慣れ」の部分が非常に大きいからだ。(こちら2012年に行った、EUの死刑制度廃止に向けてのシンポジウム。興味のなる方はぜひ。我ながらしっかりとレポートしている)

でもそれはそれで私はいやだな。それでは、また再び「なんとなく問題をやりすごしてしまって通過してしまった」日本ってことになってしまう。自分の意思で自分の未来を決めれないから、いつまでたってもこうなんだ。まるで出来の悪い息子を見るような目で自分の国を思う。

自分の思った通りに生きれなくて、自分の意思を表現しなくて、なにが人生だろうか…と私なんか思うんだけど、困った時に神風が吹いたり、あんな事故を起こした原発もやめられず、そのままズルズルというのが得意な国なんだから、まぁ、しょうがないよね。

ま、でも、それでもいいか。本当に死刑が廃止されるのであれば。私が生きている間に日本に死刑がなくなるといいんだけどなぁ。

一度佐藤さんにリアルで「いや、きっと私が生きているうちに死刑は無くならないと思う」と言ってしまったことがあって、それを今、ちょっと後悔している。佐藤さんは、わたしよりちょっと年齢が若いくらいなのだが、佐藤さんがこんなに頑張っているのに、ほんと失礼だよね、私。

いや、なくなる。きっと死刑はなくなる。時間はかかるかもだけど。人は殺しちゃいけない。ただただそれだけである。


フルックの来日公演はもうすぐ。7回目の来日ツアー。

FLOOK 2025 
22 April(火)南青山曼荼羅 SOLD OUT 
23 April(水) Shibuya www(こちらはスタンディング+多少椅子あり) 
24 April (木)Shibuya www(こちらは全員着席公演) 
26 April(土)春のケルト市(豊洲) 
27 April(日) 横浜 Thumbs Up 
28 April (月)名古屋 Tokuzo 
30 April (水)京都 磔磔 
詳細はこちら http://www.mplant.com/flook 


 ◎春のケルト市 THE MUSIC PLANTが主催するイベントとしての「春のケルト市」はこれが最後になります。ピーター・バラカンさんのDJ、そして豊田耕三さんもゲストで登場 
 
◎FLOOKの来日を盛り上げようというわけで、楽しいプレイベントをたくさん用意しました。すべて野崎立ち会っております(FLOOKの、一部の公演チケットも持って歩いてるので、よかったら私から買ってね!)
 
3月13日(木)~15日(土)  渋谷ヒカリエ8F ケルト書店 春のポップアップ  終了
4月5(土)、6日(日)高円寺ケルトまつり 
5日はケルト市+バグパイプ演奏+野崎とビートルズ専門家の藤本国彦さんとのトークイベント「ケルト文化とビートルズ」 
6日は本の長屋にて豊田耕三さんの新しいカルテット KOZO TOYOTA FLAT QUARTETのライブが行われます。 
豊洲文化センターにて。ケルト市のチケットをお持ちの方は無料。 

ニューアルバム「SANJU」配信でも聞けるようになった。いいね!