本田哲也/田端信太郎「広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい」を読みました

本屋で買ってしまった。ついつい… いや、どうやったらより多くのお客さんにリーチするのか、とか、いつも考えているんですよ。小さな音楽事務所を運営している事業主としてはね。ヴェーセンだって、なんだって、多くの人に聞いてもらいたいじゃないですか。こんなにすばらしい音楽なんだから。

この本のタイトルにもあるように広告に効果がないのは、もうなんかずいぶん前から、み〜んな分ってたことだよね。ましては音楽雑誌の広告は、すでに読者の方が「これタイアップ記事でしょ」と見抜いてしまう。もちろんそういうシステムを否定するわけではない。そういう広告主様たちが雑誌をささえ、タイアップが出来ないウチのような小さい音楽でも、大きな媒体さんの片隅に記事を載せてもらってきたのは事実だ。載せてくださっている媒体さんにほんとに感謝感謝。本当にありがたい事だ。

雑誌の衰退ということばかりではない。この本のタイトルにあるメディアには「インターネット」も含まれると思う。要はちょっと臭い言い方かもだけど、広告なら広告、メディアならメディア利用してもいいけど、その奥にどういう意図/態度があるか。どんな層を狙っているか、それを踏まえないと結局何を使っても広まらないんだよ、という事を言っているような気がする。広告/メディア全否定ということでは全然ないので誤解のなように。

まずこの本は、例の広告代理店周りの人たちの間で話題になったさとなおさんの発言も紹介し、シャープやソニーの没落に広告代理店の連中は責任はなかったのか。あれだけ広告費を使ってくれたのに、という話から始まる。もっと広告マンは反省した方がいいんじゃないか、と。その有名な投稿はここ。そしてここも必読。

知らなかったのだが、サザエさんはもうすでに東芝一社提供ではないらしい。もう誰も演説など聞かない。演説ではなく消費者と会話を。それが大事だとこの本は言う。

そしてなぜ人は動くのか。それを分析していくのだが、これが人数別になっていて、非常に分りやすい。


「1,000人を動かす」
例:青空文庫のボランティアの成功。800名のボランティアによってアップロードされる本。
例:プリン4,000個のご発注 ツイッターの呼びかけで完売

こんな風に1000人単位を動かすにはどうしたら良いのか>共感を得るものがピュアな理想に裏打ちされている/少ない参画者で大きなことを成し遂げるというレバレッジが効いている/達成すべきミッションが分りやすい。

→ 必要なのは、そしてそこにあるのは「使命感/同情心」ピュアな心で充分人は動く。純度は高い方がいい。



「10,000人を動かす」
例:堀江貴文さんのメールマガジン。15,000人
ちなみにメールマガジンの300名がライン。
例:Facebookのイベント告知ミス/数千人が少女の誕生日に集まってしまった。
例:ラブレターボランティア

1万単位の人を動かすには>人間の根源的な欲求や本能に訴えかける/コミュニティ形成を構造化する/全体としての連帯感を醸し出す

→ そこにあるのは:連帯感。共犯意識 



「100,000人を動かす」
例:ツイッター、パルス祭り 14万人
例:余命数ヶ月からドナー探し 15万人がサイトに集まり2万人が登録
例:カリスマ添乗員 ファンクラブ会員22,000人

10万単位>「自分ではない誰か」がつくるストーリーがある/共犯意識を高めることが行動を促す/(人が動いた)具体的な数字を発表する

→ そこにあるのは:スケベ心、お祭り心



「1,000,000人を動かす」
例:ネスカフェアンバサダー 10万人のアンバサダーが100万人にネスカフェを広める
例:温水洗浄便座普及率全国No.1  31万世帯へ普及
例:自宅でサロンを開くサロネーゼという生き方

100万>魅力的なラベリングを発明する/「世間体」が出現する/承認欲求を満たす

→ そこにあるのは:虚栄心、羨望心、ロマン心



「1,000万人を動かす」
例:日本のランニング人口 1,000万人
例:劇団四季のライオンキング お客総動員909万人
例:ことりっぷ 女性向け国内旅行ガイド

1000万>メディアを介さない「目撃体験」が始まる/シンボル性の高い「アイコン」が登場する/世の中すでにあるものを再定義する

→ そこにあるのは:横並び心



「1億人を動かす」
例:ハロウィン 国内認知度ほぼ100%
例:2億人以上のインド人男性の生活習慣を変える

1億人>人が動く「複数要素」が必要となる/新たな習慣を生み出す/ライフスタイルや価値観の違いに対応する

→ そこにあるのは:習慣



「10億人を動かす」
例:LINE 10億人
例:11億人を動かす世界最小の国=バチカン市国の戦略

10億人>人間の本能欲求と普遍的ニーズにこたえる/異なる人種を排除しない「寛容さ」が必要/非原語コミュニケーションを取り入れる

→ そこにあるのは:信仰心、コミュニケーション欲求



ね、分りやすいでしょ? もっともウチが関係あるのは1,000人単位のところぐらい。しかも別にこの素晴らしい音楽を分らない人に分ってもらおうと思っていない…。だから別に人が動いてくれなくてもいいわけなんだけど、この本はそれでも人を動かすことを諦めるな、と言う。ある程度評価は世間にゆだね、余裕を持ちながら、自分のビジネスになる何かがどこかにあると信じろ,と言う。

しかし、まぁ、なんだね。このテのビジネス本に言われるまでもなく、ウチみたいな小さな事務所の場合は、もう誠意をもって良い音楽を紹介していくしかないのだわ。で、たった1,000人規模なんだもの。CDだって1,000人も買ってもらえれば、もう充分なのである。コンサートだって1つのツアーで1,000人の人がチケットを買ってくれれば、もう充分だ。

あとはプリンのご発注の例にならい,ある程度同情を引くようなことでもここに書いてみようか(笑) でもだからといって、奈良の、ちょっと前にネットで話題になったレコード屋さんみたいな発言はしたくないんだよね。今日はお客が来るんだろうか、とか。それを世間に言ってどうする!と思う。言ったらお客が来るのであれば言ってみようか、とも思うが… 

でもそんな商売してて、実際店舗の家賃はどうしているのだろう? 最新の作品を仕入れることだって出来ないじゃないか。もしかして本当は店主は地主さんなのか?とか、会社勤めしてる奥さんに迷惑かけてんじゃないだろうかとか、借金するだけして返せないじゃないかとか、いろいろ考えちゃう。だって、あれじゃ,どう考えても回ってないでしょ? あれを諸手をあげて「素晴らしい店!」「みじめすぎて笑える!」とか面白がれない自分がいる。

かと思えば、先日は某インディー洋楽レーベルさんと打ち合わせして、正直ちょっとげんなりしてしまった。彼は私のアイディアを真剣に捉えているから、だからこそ下手なことは言えない、と誠実に考えてくれたんだろうが、とにかく「売れない」「絶対に売れない」ということばかり言っていた。そして「メディアに載っても商品動かないですよね」とも。なんか…そんなの言われなくても…みんな分ってることだよね。それをどうしようか、っていうためのミーティングなわけだからさ… そうやってやりたい事を実現させるのに自分がひるんでどうする、って思うわけよ。でもこういうミーティングはホントに多い。こういうミーティングはタバコ吸われるミーティングよりもっとイヤ!(笑)

そうなんだよ、みんな大変な想いをして自分の事業を続けている。アウグスの坂本社長、そしていつだかったお世話になった代官山ヒルサイドプラザ。もちろんお金を儲ける方法はある…のかもしれない。が、そこにいかない「やせ我慢」が私たちにはあるのだ。「美学」と言ってもいいかもしれない。それを馬鹿を呼ぶなら呼べ……「バカと言うなら言え。何度でも答えよう、その通りだ、と」(ゲバラ)

本当に自分の事業で自立してく、って大変なことだ。いつだったか、みのもんたがズタボロになって、それでも甘える飲食店の店主にカツをいれるという番組をやっていたが… あれに出てくる店主たちは本当にひどかった。借金が増えて行くことを知りながら自分を変えられない。店を変えられない。そして繁盛店に修行に行けば人に教えてもらってるのにメモすら取らない。何度も同じことを間違える…など… うーん,厳しい事言っているかな?

でも、何事も加減が大事だよね。私だって、あれほど事業が回らなくなったら、まずは周りに迷惑をかけないように早めに告知し廃業するんだが。だからこそ、私は真剣に、ホントに真剣に毎回毎回,大変な思いで公演を作る。

話がそれた。でもホント毎回毎回のツアー。規模が小さくてヒーヒー言ってます。ホントにホントに大変。いつウチの事務所だって潰れるか分りません。とにかく皆さん,チケット買ってください。特にヴェーセンとJPPの公演は大変なんです。9人のミュージシャンを海外から呼ぶだけでも大変ですが、渋谷の会場はとにかく高くて高くて… ま、頑張りまーす!

というわけで公演の詳細はここです。ここ! みんなチケット買ってぇ〜っっっ(必死)