さとなおこと佐藤尚之さん「明日のプランニング」を読みました

来た! 来た! 来た! 久々のさとなお本。さとなおさんの本、大好きである。今まで読んだ本、どれもたくさんの元気がもらえた。不安な今の時代に仕事をする仕事人たち、不安で不安で焦る気持ちの人たちを、大丈夫だよと落ち着かせてくれる。ちょっと立ち止まって周りを見回すゆとりをくれる。そんな本。いつもありがとう、さとなおさん!

というわけで一昨日はこれが届いたので、途中まで読んだグリーンランドの冒険小説を中断し、こちらを優先で読み始めてしまった。昨日の営業の移動中と今日ご飯食べながら読んでたら(私は1人でご飯を食べる時は活字がないと食べられない)あっという間に読み終わってました。そのくらいスイスイ読める平易な文章がホントにさすが、さとなお流である。

今回もとても面白い。なぜか伝わらないと嘆く広告関係者、プランナー、何かを伝えたいと思って仕事をしている人たち必読の書である。

「情報砂1時代の生活者」情報まみれのこの時代。この情報量は、ちょっと常軌を逸している、というのをまずは認識しないといけない。とはいえ情報を追いかけている人は実はほんの一部なんだけど、その人たちにとっての情報量は、ホントにたいへんな量になっている。その人たちにこちらの情報を届けるのは本当に難しい。だってそれは本当に砂の1粒なのだから。

そして業界全体が、その難しさのあまり、伝える事のそもそもの目的を見失っていると、さとなおさんは指摘する。そう、本当は… 伝える仕事は、伝えることで相手に喜んでもらう楽しい仕事だったのに。そのことが私たちの使命だったはずなのに、みんなその本来の目的を忘れている。それを確認しつつ本は進む。

2005年以降、情報量は爆発した。ほんの1年の情報量は、今や人類史それまでの情報量を軽く越えてしまったのだそうだ。

確かに2005年より前、伝える仕事はもっと楽だった。私の感覚では…ウチでは「もうレーベルでは食べていけない、3年かけてプロモーターになろう」と確信したのが2006年。それははっきりと覚えている。ロビン・ヒッチコックをピーター・バックなどR.E.M.の連中と一緒にバンドで呼んだ年。一方でヴェーセンのツアーが、やっとペイラインにのせることが出来るようになった年でもある。それまでウチにとってツアーとは宣伝費を使って行うCDの宣伝の場だった。でもそれじゃあダメだ、と確信したのが2006年。

だから2005年だという情報量の爆発。この感覚は覚えている。2005年より以前にインターネットを使いこなし、ホームページを自分で作れる人はそれだけでネット上ではかなり有利だった。私はホームページを立ち上げたのは何年かもう忘れたが、2004年にはヴェーセン日記という日記をスタートさせ(今思えばブログみたいなもん。ホームページの形式だったけど)2007年にはFacebookページも初めている。

でも今じゃほとんどの企業が当たり前にHPを持ち、FBやTwitter、LINEなどのSNSを利用している。だからそれらを使いこなしているというだけでは、もう全然勝算がなくなってしまった。私なんぞは、なんとか人より早くはじめて、固定のお客さんが付いていてくれるから生き残っていけているものの、今から個人音楽事務所はじめる人は大変だろうなと思う。まさに情報は砂の1粒。この時代を生きるものにとって情報はすでにウザく、ウルサいものなのだ。あなたがいかに発信しようが、誰もそれを聞いてはくれない。

一方で情報に積極的に接触しないマイルドヤンキーはおそらく全国に何千万人もいる。彼らはネットは使うもののそれはミクシィやLINEに限られていて、積極的に検索したりするようなことは一切しない。この点も忘れてはいけない。ただ… ウチの場合に限って言えば、そういう人はそもそも私がやっているような音楽に興味を持たないんだよね…。そういう人たちはエグザイルや浜崎あゆみを聞き、キムタクの出ているドラマを見ながら、自民党政権を支えているわけだ。またグレーゾーンと言われるエリアも、もちろん無視できない。それは理解できる。

ただし…言ってしまえば、ウチのインフルエンサーになってくれるような人は、そもそもマイルドヤンキーのゾーンにはいない。またウチも、そのゾーンに届くようにとマスメディアに向って広告を打つ予算もまったくない。となると、ウチはやはり情報砂1粒エリアのゾーンに向って、どんなに大変でも頑張るしかないのだ。

もちろんマスではないけど、各音楽メディアも無視できない。音楽雑誌が売れないとか言われてずいぶんたつが、伝わらないという事は、そんな問題に起因していないように思える。確かに一部の音楽雑誌はすべて広告タイアップだからということで完全に読者の信頼を失っていたりもするが。

さとなおさんはそんな中で砂1時代にとっては「友人知人」という最強のメディアが今後重要だと指摘している。つまりは口コミだ。

そしてファンベースを構築していくこと。その人たちに、なんとか心ある声で他の人に伝えてもらうこと… つまり情報発信者は姑息な手ではなく、とにかく誠意をもって伝えていくこと。それにつきる、という。ほんとうに当たり前のことなのだが… 確かに忘れがちな事実でもある。ついつい惰性でブログを書き、くだらないことを発信したりしていないか、自分?

ウチは広告代理店じゃないけど…伝える力は絶対に失いたくない。これは、もちろん自分の好きな音楽をやるためである。伝える力がないものは… 生きていくためにヘンな仕事をしないといけない。どんな音楽でも良いのであれば… もしかしたらメディアに乗りやすいものやYou Tubeでヒットしそうな物に手を出していたかもしれない。でもこれがあくまで音楽の仕事だということが重要なのだ。私にとっては私が本当にいいな、と思う音楽の仕事をやらないと、まったく仕事をしている意味がないのだ。

それにしても、この本、音楽業界の人たちにも読んでもらいたいと思うよ。特に仕事がない仕事がないと愚痴るライターさんたち。音楽雑誌。だって彼らが本気を出せば絶対に彼らは強いメディアは構築できるんだから。それがネット上であれ、紙の上であれ、電波の上であれ。だからせめてSNSとかやる時間があるのであれば、もっときちんとした発信の場を持ってもらいたいと思う。それによって各自が伝える力を持てば、みんなでまた良い音楽を広める力が持てるんじゃないだろうか、と私は信じているのだ。そんなの夢かな。しかし、それをきちんと出来ている人が少ないがゆえに、きちんとやるだけで頭1つ分、情報の砂の山から抜け出せると思うんだけどな…

とにかく2005年以降,情報はうざくて迷惑なものなのだ。それを自覚しないといけない。そしてその中から自分が発信するものを選んでもらわなければいけない。本当に今は難しい時代なのだ、と。

さとなおさんは、5年おきに情報社会の過渡期があらわれ、今この時点で未来を予測したところで意味がない、ともしている。確かに。未来を心配しすぎるとろくでもない。これからは変化の時代なのだ。とにかく現状を見極め、今できることをすべてやって、誠実に生きていくしかない。だからこそ…大きな会社でもないウチが個人で生き残っているわけなんだから。今の仕事が10年遅かったらと思うと、ちょっと恐いが… でもそんなことを思っても言ってもしょうがないわけで…。そもそも10年遅くても早くても、今いる大切なミュージシャンたちとは出会えなかった。だったら私は今以外の時代には生きたいとは思わない。

以下,本を読んで印象に残ったさとなおさんの言葉をメモ。

「少人数でもいいからしっかり届ける」

「ファンからオーガニックな言葉を引き出す」

「アンバサダー・マーケティング」

そしてあらためて「AKBの手法」熱狂的ファンを裏切らない

「ほら、あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの」(モンゴル800)

「自分の個を出すこと」
これも私は非常に有利な立場にある。大抵の音楽事務所/レコード会社は決定権のあるボスと現場担当者は別の人間だ。でもウチにおいては決定権がある私が現場をやることでネットへの情報公開も早いし、それによってお客さんと強く結びつくことが出来る。そりゃー50近くなってもツアーすることはホントにつらいけど、私がやっているからこそ、という事は山ほどある。

そして最後の松井の言葉にある「120%(20%のラッキー)でもいけない。100%を出すこと」というのは、さとなおさんもおっしゃる通り、すごく響いた。これこそ冷製なプロフェッショナルリズムなのだと思う。ここでは詳しくは説明しないので、ぜひ本を買って読んでほしい。冷製に、きちんと判断して…きっちり100%。それが大事なのだ。80でも120でもいけない。

ただ最後まで読んで思ったのは、ウチの場合の問題は広告屋でも何でもないのだから、伝えたあと実際にお客さんのお財布をどうやって開いてもらうか、今後の課題はそこかもしれないなと思っている。ここのブログもそうだけど、FBページもTiwtterも、実際の事業の売り上げから比較したらびっくりするほど多くの人が注目してくれている。アーティスト来日中ともなれば、それも大変な量だ。が、実際の公演となれば、ウチの事業は大きな公演で300名程度、小さな公演だと100名がせいぜいなのだ。つまり…コンサートには来ないのに、ここを興味だけで見ている人がすごく多いってこと。

ここに興味を持ってブログを読みに来てくれている人を、いつ、どんなきっかけで実際にチケットやCDの購入に導き、体験したり聞いたりしてもらうことで結果ほんとうに心からウチのファンになってもらえるのか。そこが今後の課題なような気がする。それはそれでまた考えていかないといけない。例えば乱暴な例だが年間売り上げがウチの何千倍もあるような大手プロモーターさんでもFacebookページやTwitterではウチのせいぜい10倍程度だったりもする。(もっとも大手さんは例えば大きなフェスや大きな公演は別アカウントにしたり、あれこれプロジェクトが多いからそうなるんだろうけど。会社のファンではなく、個々のイベントのファンだという認識か?)

「ファンだけを見て100%を出し切ろう」

「悩むのはやめて、伝えたい相手の笑顔を見に行こう」

かなり前に東浩紀さんがラジオか何かで発言してた「オレはなんだかんだ言って自分の村のことしか考えてないから」ってのをちょっと思い出す。

私もなんだかんだいってMUSIC PLANT村のことしか考えてない。自分のミュージシャンたちとお客さんと一緒にこれからも頑張ろう。

ミュージシャンたちよ。なかなかギャラを上げてあげられないけど、私も頑張るからね。これからもよろしく。そして、お客さん、これからもあきれず付いて来てください。良い音楽と出会えることだけは保障しますんで… 



と、いうわけで、伝わったか伝わらなかったか分からないけど(笑)、ウォリス・バード。いよいよ来日します。5月30日(土)Star Pines Cafeにて6時より。現在チケットはe+で販売中。当日券もたぶん大丈夫です。

ずいぶん前の映像だと思うけど、いいね。ホントいい曲! この曲はほぼ100%コンサートでもやりますよ。