心と脳の白熱教室「楽観主義と悲観主義」


実はやっと今ごろになって気づいたことだが、人に何か相談する時は、何か自分でプロジェクトをやっている人に相談するのがいい、ということ。というのも、何か自分で行動している人は、良い意味での楽観主義で、他の人が何かやる時も励ましてくれるからだ。

そう思える体験が月曜日、火曜日と続けてあったので、これから来るであろうイバラの道に自分がくじける前に、そのことを自分用に書き付けておきたいと思った。

実は私は今、絶対に困難を極めるであろう難しい企画をかかえている。それでもそれを決行すべく、あれこれ試行錯誤しているのだが、大抵の人に、この件を相談すると「絶対に無理」「辞めた方がいい」と言われる。…というか、そこまではっきり言わなくても「それは今までやってきた事とだいぶ違うんじゃないの?」「それはMUSIC PLANTのお客さんに受け入れられるの?」「誰かライターとかで、そのアーティストに乗ってる人はいるわけ?」とか、すごく厳しく現実に話を向けられるのだ。いや、そうだろうな。この案件、確かにとてもイバラの道なのだよ…

でもこの件を月曜日に会ったとある人と、火曜日に会ったとある人に相談したら、二人ともすごく盛り上がって、その二人には「それはいい。きっと上手く行く」と励ましてもらえたのだ。で、この二人の共通点は何かというと、二人とも女性で、自分で自分責任かつ自分発のプロジェクトをかかえポジティブに生きている人たちだといういうことだ。火曜日に会った人などは、ほとんど初対面と言っていいくらい今まで知らない人だったのだが…。とても勇気をもらった。うん、私はがんばらねばならない。 

ここで実感したのは、自分で動く人はすごくポジティブ思考だ、ということだ。

で、この番組のことを思い出したのだった。先日のイシグロの「白熱教室」の後、次週予告〜みたいな感じで、こんな先生が紹介されていて、すごく興味があったから見たのだった。オックスフォード大学のエレーヌ・フォックス教授。ダブリン生まれのアイリッシュらしい。

なぜ世の中には楽観主義の人と悲観主義の人がいるのか。危機に直面しても前向きに頑張れる人がいる一方、過去を思い悩み続ける人もいる、と。この違いは何なのか、という話。2回に渡って放送されたのだが、2回とも録画していた。今、またこの録画を見直して、せっかくだから自分用に重要な内容をメモっておこうと思う。将来の自分が落込んだ時のために…

教授いわく、面白いエピソードがある、と。クリスマスに娘が二人いる男性が、それぞれの娘にプレゼントを用意した。娘二人はまるで性格が違う。1人は楽観主義。1人は悲観主義。悲観主義の娘の部屋に電子機器、タブレットなど子供がほしがるものを何でも入れておいた。楽観主義の子の部屋には馬糞をまき散らした。そしたら悲観主義の娘は「こんなにたくさんもらっても、全部使う電池が違うしマニュアルを読まなくちゃいけないから大変」「友達にひがまれる」と落ち込み、楽観主義の子は「パパ、すごい!! お馬さんが家にいるわよ!」と喜んだという。どうしてそんな風にどんな状況でも物事を楽観的に捕らえる人がいるのか。

私は楽観脳と悲観脳という心の仕組みを設定しました、と教授。心理学者は「認知バイアス」とこれらを呼ぶ。自分の思い込みや願望、恐怖のせいで、自分の置かれた状況に論理的な判断を下せなくなる心理パターンのこと。それが1人1人の性格によって左右されている、という。そのバイアスとは…

・帰属の誤り → 自分のせいなのか、世界のせいなのか。どう物事の理由付けするかで世界の見え方はまるで違う。

・注意のバイアス → ストループテスト。悲観的な人ほど悲観的な言葉に感傷的に反応する。

・解釈のバイアス → 人はいろんなことを言うけれど、それはあんまり意味がない。また物事が起きたとしても人によって捉え方はまるで違う。

・記憶のバイアス → 例:鬱病の人は悪いことばかりよく覚えていて、明るいことを忘れてしまう。本人の自覚はまったくないことが多い。

ここで生徒から質問が飛ぶ。「過去にトラウマ的な悲惨な経験をした人が楽観的な考え方になることは可能ですか?」

先生の答えは「例えばあなたが試験に落ちて、自分は頭が悪いから試験には受からないのだ、と悩んでいたとしましょう。そういう人には、“ではあなたは今までに試験に受かったことはありますか?”と尋ねます。大抵の人は、少なくとも何度かは試験に受かった経験があります。そういう風に1つ1つの経験を思い出させて行くというのも1つの方法です。また日記をつけて良いことも悪いことも書いて置く。それを見直して良いことを思い出す、という方法もあります。自分の記憶にバイアスが働いていることを知ることは、被験者にとってはとても良いことです」…なるほど… そんな風に記憶のバイアスを矯正していくわけですな… 


さらに「日記を書く事で1日の間に起きた良いことも悪いことも覚えておくきっかけになった、という被験者の言葉もありました。つまり日記を書くことそのものが注意バイアスの矯正にもなったわけです」良いことに意識的に注意を向けだすと、良いことに気付けるようになる、と教授。

しかし、生物として恐怖や危険を察知するためにネガティブ脳も非常に重要な役割がある、と教授は続ける。100%のポジティブ思考となってしまうと、それはそれで危険。

確かにメディアのニュースは悪いことばかり。政治家も悪いことばかり言って危機をあおり選挙に勝つ為に利用してきた。また宗教的指導者も恐怖をあおり、それによって人々を指導してきた。なぜ人は悪いことばかりが目につくのか。その理由は人間として生き残るために、実は常に悲観脳は楽観脳より若干強く設定されているのだ、と。だからどうしても悪いニュースの方が人の注目を集めてしまう。不安をあおられれば不安になってしまう。悪いことに多くの人がそうした現状に影響をうけ、さらにネガティブなバイアスが育ってしまう。

ここで生徒から質問「悲観脳を発達させる必要というのはあるのでしょうか」「実は悲観脳の訓練はとても容易なんです。恐怖のメカニズムの基盤となる脳の扁桃体ですが、例えば扁桃体に損傷を受けた人は、世の中に悪い人はいないと考え、他人に暗証番号などを教えてしまったり、危険が分からず車の前に飛び出してしまったりする傾向がある。危険を察知することが出来なくなってしまうんです。だから人間は常に、悲観脳の方が若干発達している状況にあるんです」

「では例えば悲観脳が重要な職業は?」という教授の質問に「何かの批評家。レストランや人気のある音楽を批評する人」「危険を察知する兵隊」…と生徒から声があがります。

教授「例えば医者。例えばパイロット。何かの危険や悪い可能性を察知する能力はとても重要です」

つまり…恐怖のシステムや悲観論を捕らえる時、それをすべて悪いことのように捕らえるべきではない、ということを教授は強調する。それは生物としても重要なこと。大変な職業をまっとうするために重要なこと。もっとみんな楽観的だったら…とも思うかもしれないけれど、実は恐怖のシステムには多くのプラス面がある。だから適度な悲観主義は、とても重要なんだ、と。

さて教授はある日ロンドンでニュースを見たのだという。1つはロンドンの地下鉄で自殺したお金持ちで社会的な地位もある男性の記事。彼は裕福だったのにもかかわらず鬱病に長年苦しみ最後は自殺してしまう。もう1つはテムズ川に自殺しようとして飛び込んだ女性を助けた男性の話。この男性は実はホームレスで最近では施設で生活していた。でも「なぜ迷うことなく女性を助けたのですか?」というインタビューに答えて彼は「誰にとっても人生はかけがえのないもの。あの女性にもきっと家族がいると思った」と話していたそうで、教授はすごく感銘を受けたのだそう。この男性二人のように楽観主義と悲観主義には、大きな根本的な違いがある、と。

また「楽観脳」は単なるポジティブ思考と単純に考えられがちだけど、実は教授によると他にも多くの要素がある。

人間にとって生きて行くために「幸福感」は重要だが、「幸福感」に一番重要なのは安心感や愛情。また金銭面の安心感は一定のレベルでは非常に重要。反対に余分な富はあまり意味をもたない。足りていれば、だいたいは幸福感を得られる…という研究結果が出ている。

幸福度が増さない理由の1つ。他人との比較。例えば私が車を買って大満足で帰宅したとしましょう。そのために頑張って貯金してきました。でもなんと私の隣人はもっと良い車を手にいれていたのです。私はがっかりします。つまり人間は、欲しいものを手にしても、自分よりさらに良い物を手にした人と比較しがちです。そしてさらに上の人を見る。こういったバイアスが不幸の原因になるのです。私たちは他人を意識することにこだわりがちです。例えば友達は准教授になって嬉しそうだったのに、その夢がかなった2日後には教授を目指そうと深刻な顔をしているのです。こういった思考が不幸の源なのです。自分自身の幸福度を高めたいというのなら、他人との比較を辞めること。大切なのは自分の人生であって、自分の人生を追求することが大切なのに、実際に人間は人との比較にあけくれているわけです、と指摘。

では、他人の目を気にせずにいる事を実現するにはどうしたらいいでしょうか。それは私にも分かりませんが、自分に正直でいること。自分は本当はどうしたいのか、ということを知ることが重要と考えます。

また幸せな人生を送るためには「心の回復力」が非常に重要。911の事件のあと2年にわたって心の研究をしてきた人たちがいた。実は心の回復力が早いのは「経験を多くしてきた人たち」だという研究結果になった。実際に事件で夫を亡くした女性がいた。でも彼女には生後3ケ月になる赤ちゃんがいた。赤ちゃんが笑ったり泣いたりする事で、女性は幸福を強く感じることが出来た。たちなおる力が強い人というのは、このようにネガティブな感情に対して鈍感というわけではありません。大変な事を経験してもなお、ポジティブな感情を持てているわけです。つまりコントロールする能力がとても重要なのです… なるほど。

マイケル・J・フォックスにインタビューする機会に恵まれました。彼はパーキンソン病だと診断されてから、もう仕事はないだろうと思ったそうです。彼はもともとはとても楽観主義の人間で、そんなエピソードをたくさん私に話してくれました。でもその彼でも病気を宣告された時は「もう終った」と思ったのだそうです。つまり、この点が重要です。万事が上手く運ぶことを考えることを楽観主義と考えがちですが、実はそうではありません。ただそんな時でさえ「なんとか状況は好転するだろう」という強い気持ちはあったのだそうです。

ここで重要なのは私が出会った何人もの楽観主義者の人に見られる傾向として、みんなが「現実的な楽観主義」という点です。物事というのは私たちの意志とは関係なく生じます。誰もが病気になる可能性もあります。私に必要なのは楽観主義とちょっとばかりの悲観主義なのです。私は楽観主義はこうだ、悲観主義はこうだと決めつけがちですが、本来誰しもが2つの混在する特質を持っているのです。

ロンドンの二人に話を戻します。二人の男性の間には大きな隔たりがあり、それは変えることはできないと思われがちですが、実は私たち心理学者は、その答えを見いだしています。今から本当に楽観主義に変わるための方法について話します。

楽観主義はポジティブ思考だという見方があります。もちろんポジティブ思考は、楽観主義の重要な要素です。でも私たちには、ポジティブ思考は楽観主義の唯一の要素ではないことが分かって来ています。

ここで教授が考える楽観主義の重要な要素。

 ・ポジティブな思考
 ・ポジティブな行動
 ・根気と粘り強さ
 ・自分の人生をコントロールしていると感覚

教授はこれら4つがすべて揃ってはじめて楽観主義は人が逆境に打ち勝ち、幸せに生きるための力となる、としています。

「楽観主義においては、実はどう考えるかということよりも、どう行動するかという事がもっと大切なのです」つまり行動することが、楽観主義の重要な構成要素の一つなのです、と。

そして粘り強さと根気。有名なエジソンの言葉に「僕は失敗しているのではない。成功しない方法を1万通り見つけただけだ」というものがあります。そして、こうした粘り強さや根気は、ビジネスにおいてとても重要な要素なのです。

そしてもう1つ重要なこと。それは「自分の人生を自分でコントロールしている」という感覚です。特に鬱の人にはこの感覚がありません。こうした感覚をいだくことは、本当に有益で、力になります。

私が強調したいのは、ポジティブ思考ではなく、楽観主義はポジティブな思考、行動、根気、コントロール感覚のそれぞれと深く結びついている、という点なのです。

例えばビジネスの立ち上げで考えてみます。最初のうちは困難を極めます。悲観的な人は
「もういい、これは上手くいかない」と諦めてしまいます。でも何度も挑戦し、失敗があっても前向きに頑張れる人には最終的に成功が訪れます。楽観主義とは単なるポジティブ思考ではない、ということ。ポジティブ思考だけではなく他の要素に起因することの方がとても重要なのです。皆さんが楽観主義を強化したいと思ったら、単にポジティブ思考を強化しても充分ではありません。ポジティブな行動を重ね、自分の人生をコントロールし、もっと粘り強くなることが必要なのです。

いいよー、この先生!! ありがとう。本も読んでみなくっちゃ!