映画「独裁者と小さな孫」を観ました〜これは最高!!!


戦争、内戦、テロ、混乱… すべての悪は、一部の悪人のせいだと語られて来た。世の中に存在する「悲劇」、「暴力」。でもそれは個人の責任ではない、我々普通の人間/すべての人々の責任である…ということを言いたいのだと思う、この映画は。こうやって人間の負の連鎖は絶対に止まらないのだ…ということも言いたいのだと思う、この映画は。

カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」を思い出した。人々は記憶を失うことによって、なんとか生きて行くのだ、と。第二次世界大戦の責任があまりに重いから、一定期間、政府は、人々は、国を、自分たちをそのダメージから立ち直らせるために、いろんなことを封印してきた。人々は善良で、そして一部の独裁者によってあの戦争はもたらされたのだ、と思い込もうとしてきた。でも今や、人は過去を見つめる体力もついたし勇気も十分ある。今こそちゃんと見つめよう、現実を…

そして世界を見回せば、この現実を直視しなかったおかげで、地球上においては戦争やテロがまだまだ終わっていない。つまり私たちのせいなんだよ、だからいつまでたっても、こうなんだよ、と。

……とか、書くとえらいシリアスな映画と思われるかもしれないけど、いや、面白い映画です。最初から最後までハラハラドキドキ楽しめる。試写で拝見させていただきました。「独裁者と小さな孫」

舞台はジョージア(旧グルジア)らしき場所だけど、設定としては架空の国だという。国中の電気をつけたり消したり… 国民の生活をおもちゃにして、はしゃぐ独裁者とその孫。ところが、孫がふざけて消した電気は二度ともとには戻らない。その瞬間にクーデターが起こったから。

こうして国を追われた独裁者は、孫をつれて必死の逃亡を試みる。

子供はめっちゃ可愛いが残酷な部分もあり、おじいちゃんはイヤな奴ぶりを十二分に発揮した名優さんである。二人は途中、いろんな人に出会い、時には一緒に旅をしながら、海をめざす。なんとか生き延びるために。

そして……。こういうはっきりしない終わり方は、すごく好きだ。こういう終わり方、ホントにホントにホントに大きな余韻を残す。こういうの、好き。分かるよ! 人間はこうやって、いつまでたっても大バカで、負の連鎖は簡単に途切れることが出来ない。悪を悪で、暴力を暴力で仕返ししてたら、いつまでたっても何も解決されないのだ。

あと特筆すべきは、音楽がいい!!!ということ。音楽がホンモノなのだ。まずくだらないお涙頂戴みたいなチープなサウンドトラックはいっさい流れない。でも独裁者が逃亡途中、納屋でギターを発見し、そこからギターを中心の音楽が始まる。音楽がなっている時は、誰かがギターを持っている時。だから、すごくいい。突然、売春宿で現れた男がめっちゃギター上手かったりとか、そういう感じ。いやいや、良いわ、ホント。

あと絶対に忘れてはならないポイントは、そこはかとなく流れるユーモアがあって、とにかくププっと笑わせる部分もたくさんある、ということ。長い映画は好きじゃないんだけど、なんと2時間が、あっという間。もうちょっと短くてもいいように思うけど、とにかく楽しめた。

…とか書いたあとに資料を読んだら、なーーーーんと、これ「カンダハール」のモフセン・マフマルバフ監督の作品ではないの!! いや〜、さすが監督。ホントに素晴らしい。監督のメッセージ、しかと(自分なりに)受け取りました。12月12日から全国あちこちで上映スタート。これは絶対にチェキラ!