ノンフィクションライターの高野秀行さん。気がつけば周りにもファンが結構いた。そんな彼らに「ムベンベ」の次は何を読んだらいいかと聞いたら「早稲田三畳」「ソマリランド」「西南シルクロード」をそれぞれ推薦され、まずはこれ行ってみました。「謎の独立国家 ソマリランド」
Amazonから届いて速攻、買ったことを後悔した。うわ、ブあっつい本だなぁ、これ…読めるかなぁ、と。しかも自分にとっては地理的にもっとも知識のないアフリカ。中東やイスラムも関係してくる。
が、そんな心配は必要なし。読み始めたら、もうスイスイ。さすが高野さんの本は読みやすい。っていうか、早稲田探検部時代に書かれた「ムベンベ」とほとんど文体が変わらないのがいい! いや〜引き込まれる、引き込まれる。引き込まれ、こんなブ厚い本をあっという間に読破してしまった。
THE BLUE HEARTSの情熱の薔薇「見てきた物や聞いた事 今まで覚えた全部 でたらめだったら面白い そんな気持ちわかるでしょ」で始るこのノンフィクション、とにかくビックリの連続なのだ。読んでいてまったく飽きない。
海賊で有名なソマリアが、こんな国だとは全然知らなかった。まぁ、でも一時のアイルランドも「=(イコール)テロ」のレッテル貼られてたんだから、同じようなもんか。ほんとにわたしたちが知っていることは少ない。そして知っていたとしても、だいぶバイヤスがかかっている事が多いんだな、ってのを実感したのだった。
ソマリアはいわゆるアフリカの角といわれるここに位置している。エチオピアやケニアの隣り。インド洋に面している。治安もめちゃくちゃなこの国の中に、なんと独立して平和で安全で穏やかな国家があるという。しかもちゃんと民主主義を確立させている。それがソマリランドだ。このソマリランド、そして海賊国家のプントランド、戦国時代でグッチャグチャな南部ソマリア。この3つがあわさって、いわゆる国際社会が呼ぶところのソマリアを形成しているのだという。というか「ソマリア」という考え方自体、国際社会が言っているだけで、住んでいる本人たちは別の国だ、同じ国だといろいろ主張がある…というわけだ。
ソマリランドはなぜ平和な独立を可能にしたのか。この謎が分れば、もしかしたら世界の紛争はすべて解決できるかもしれない…と高野さんが考えたかどうかは分らないけど…というか、そういう平和とか環境問題とかにあえて背を向けているふりをしているのだ、高野さんは。そのくせ気取った知識人よりよっぽどいろいろ考えている! かっこいいよなぁ!!… いずれにせよ「誰も行かない変な国、誰も知らない変な国。これは自分が行くしかない」と思った、ということで、辺境魂に火がついたというわけだ。
角幡唯介さんが対談本「地図のない場所で眠りたい」でこの本の帯に書かれた「西欧民主主義破れたり!!」というキャッチコピーを褒めていたけど、ホント、ヨーロッパ生まれの民主主義がこんなに機能しない中で、この本はなんだかとっても目鱗なのであった。
高野さん、このソマリランドにすっかり入れあげ、最初ソマリランドだけを取材して、その取材が上手く雑誌に売り込めなかったことに業を煮やし、結局危険なプントランドや南ソマリアにも潜入操作を試みちゃったのがすごい。このヘンはとにかく護衛が付かないと異動することもまったく出来ず、ひたすらお金を使いながら(ホントに読んでて心配になってくる)調査は続くのだった。
それにしてもややこしい。混みいった内戦の説明、難しい地名や氏族の名前… しかしながら高野さん、絶対に読者を置いてけぼりにしない。とにかく読者が付いてこれるように必死に説明してくれる。だから私たちはこの複雑な話について行ける。そしてユーモアのセンスも! 特に桃井かおりに似た女性には桃井なんとかと勝手に名付けたりするのには笑った。首都には京都モガディショとか、リアル北斗の拳・南部ソマリアとか、とにかく分りやすくなるように分りやすくなるようにという努力に手抜きはない。
しかしながら私のような読者はどちらかというとそういったあれこれ情報を追うよりも、ついつい高野さんの文章に引き込まれ、高野さん、いったいどうなっちゃうんだろう、という方向へ、どんどん読み進んでしまう感じだ。
しかしこのカートという薬草?いわゆる大麻的なものなのだが、高野さん、大丈夫なんだろうか、と思いつつ… 中毒うんぬんの前に、この薬草によるひどい便秘に悩まされつつ(笑)、なんとかソマリ人たちの中にとけ込み、いろんな感覚を手にいれようとしている高野さんは凄すぎる。海賊行為の経費見積もりを始めてしまった時はハラハラした。まさか高野さん、ホントに海賊になっちゃうんじゃないか、と心配したよ!! しかも「お金じゃない、すごいドキュメンタリーを撮影して世界に送り出すのだ!」とか燃えちゃってるし…まったくもうヒヤヒヤだ。
でもそんな行為によってソマリ人の感覚を得ようとする感じ、すごくよくわかる。規模は小さいが、私もミュージシャンやマネジメントとのお金のやりとりで、彼らの本質や価値観を知ったり、シェアしたりするケースは少なくないからだ。(というかお金の感覚をシェアできなければ、一緒に仕事なんか出来ない)
それにしても、面白い。なるほど国際社会からながめて、誰がどうしたかとか、どことどこが癒着してるとか、そこにお金の流れがあるとか、思惑があるとか、そんなことを想像するのは興味深い。が、「しかしそういう自分の手の届かないことを考えるのは後回しにしよう。自分が欲しいのは実感なのだ」という高野さんの一言がめちゃくちゃ響いた。そうなのだ、自分が欲しいのは現地の人が考えていることを本当に分かち合っている、という実感なのだ。
とにかくパワフルな一冊だった。このあとソマリアに関する書籍などをあさってみたくもなったが… 違う、違う、わたしが必要なのは極地、極地…ということで、今、もう一度、角幡唯介さんの「アグルーカ」を読み直してみようと思ったのだった。幸いなことにわたしのバカな頭はほとんど本の内容を忘れている(笑)先日のBBC制作のドキュメンタリーを観た頭には、また新鮮に入ってくることだろう。
高野さんのこの本も読み終わったとたん、複雑な歴史みたいなことはすべて忘れた。覚えていることは「人間はすごいな!」と言うことだ。そしてヨーロッパが生み出した民主主義とやらが、ホントはウソっぱちだった…とまでは言わないが、ホントに人々が平和に生活していくためには、どうしたらいいのかを考えた。平和に生きようと、みんな必死に努力してるんだ、ってこと。そしてその方法は、何も前例にならったものでなくてもいい、って事。日本なんかより、よっぽどすごい民主主義があるよ、ソマリランドには。もっと自由な価値観で生きていいんだよ、ってこと。高野さんの旅自体も、ものすごく良い終わり方をする。めちゃくちゃポジティブな本だよ、これ。高野さん、ありがとう。この本を書いてくれて。世界は広くて、人間はすごい。
Amazonから届いて速攻、買ったことを後悔した。うわ、ブあっつい本だなぁ、これ…読めるかなぁ、と。しかも自分にとっては地理的にもっとも知識のないアフリカ。中東やイスラムも関係してくる。
が、そんな心配は必要なし。読み始めたら、もうスイスイ。さすが高野さんの本は読みやすい。っていうか、早稲田探検部時代に書かれた「ムベンベ」とほとんど文体が変わらないのがいい! いや〜引き込まれる、引き込まれる。引き込まれ、こんなブ厚い本をあっという間に読破してしまった。
THE BLUE HEARTSの情熱の薔薇「見てきた物や聞いた事 今まで覚えた全部 でたらめだったら面白い そんな気持ちわかるでしょ」で始るこのノンフィクション、とにかくビックリの連続なのだ。読んでいてまったく飽きない。
海賊で有名なソマリアが、こんな国だとは全然知らなかった。まぁ、でも一時のアイルランドも「=(イコール)テロ」のレッテル貼られてたんだから、同じようなもんか。ほんとにわたしたちが知っていることは少ない。そして知っていたとしても、だいぶバイヤスがかかっている事が多いんだな、ってのを実感したのだった。
ソマリアはいわゆるアフリカの角といわれるここに位置している。エチオピアやケニアの隣り。インド洋に面している。治安もめちゃくちゃなこの国の中に、なんと独立して平和で安全で穏やかな国家があるという。しかもちゃんと民主主義を確立させている。それがソマリランドだ。このソマリランド、そして海賊国家のプントランド、戦国時代でグッチャグチャな南部ソマリア。この3つがあわさって、いわゆる国際社会が呼ぶところのソマリアを形成しているのだという。というか「ソマリア」という考え方自体、国際社会が言っているだけで、住んでいる本人たちは別の国だ、同じ国だといろいろ主張がある…というわけだ。
ソマリランドはなぜ平和な独立を可能にしたのか。この謎が分れば、もしかしたら世界の紛争はすべて解決できるかもしれない…と高野さんが考えたかどうかは分らないけど…というか、そういう平和とか環境問題とかにあえて背を向けているふりをしているのだ、高野さんは。そのくせ気取った知識人よりよっぽどいろいろ考えている! かっこいいよなぁ!!… いずれにせよ「誰も行かない変な国、誰も知らない変な国。これは自分が行くしかない」と思った、ということで、辺境魂に火がついたというわけだ。
角幡唯介さんが対談本「地図のない場所で眠りたい」でこの本の帯に書かれた「西欧民主主義破れたり!!」というキャッチコピーを褒めていたけど、ホント、ヨーロッパ生まれの民主主義がこんなに機能しない中で、この本はなんだかとっても目鱗なのであった。
高野さん、このソマリランドにすっかり入れあげ、最初ソマリランドだけを取材して、その取材が上手く雑誌に売り込めなかったことに業を煮やし、結局危険なプントランドや南ソマリアにも潜入操作を試みちゃったのがすごい。このヘンはとにかく護衛が付かないと異動することもまったく出来ず、ひたすらお金を使いながら(ホントに読んでて心配になってくる)調査は続くのだった。
それにしてもややこしい。混みいった内戦の説明、難しい地名や氏族の名前… しかしながら高野さん、絶対に読者を置いてけぼりにしない。とにかく読者が付いてこれるように必死に説明してくれる。だから私たちはこの複雑な話について行ける。そしてユーモアのセンスも! 特に桃井かおりに似た女性には桃井なんとかと勝手に名付けたりするのには笑った。首都には京都モガディショとか、リアル北斗の拳・南部ソマリアとか、とにかく分りやすくなるように分りやすくなるようにという努力に手抜きはない。
しかしながら私のような読者はどちらかというとそういったあれこれ情報を追うよりも、ついつい高野さんの文章に引き込まれ、高野さん、いったいどうなっちゃうんだろう、という方向へ、どんどん読み進んでしまう感じだ。
しかしこのカートという薬草?いわゆる大麻的なものなのだが、高野さん、大丈夫なんだろうか、と思いつつ… 中毒うんぬんの前に、この薬草によるひどい便秘に悩まされつつ(笑)、なんとかソマリ人たちの中にとけ込み、いろんな感覚を手にいれようとしている高野さんは凄すぎる。海賊行為の経費見積もりを始めてしまった時はハラハラした。まさか高野さん、ホントに海賊になっちゃうんじゃないか、と心配したよ!! しかも「お金じゃない、すごいドキュメンタリーを撮影して世界に送り出すのだ!」とか燃えちゃってるし…まったくもうヒヤヒヤだ。
でもそんな行為によってソマリ人の感覚を得ようとする感じ、すごくよくわかる。規模は小さいが、私もミュージシャンやマネジメントとのお金のやりとりで、彼らの本質や価値観を知ったり、シェアしたりするケースは少なくないからだ。(というかお金の感覚をシェアできなければ、一緒に仕事なんか出来ない)
それにしても、面白い。なるほど国際社会からながめて、誰がどうしたかとか、どことどこが癒着してるとか、そこにお金の流れがあるとか、思惑があるとか、そんなことを想像するのは興味深い。が、「しかしそういう自分の手の届かないことを考えるのは後回しにしよう。自分が欲しいのは実感なのだ」という高野さんの一言がめちゃくちゃ響いた。そうなのだ、自分が欲しいのは現地の人が考えていることを本当に分かち合っている、という実感なのだ。
とにかくパワフルな一冊だった。このあとソマリアに関する書籍などをあさってみたくもなったが… 違う、違う、わたしが必要なのは極地、極地…ということで、今、もう一度、角幡唯介さんの「アグルーカ」を読み直してみようと思ったのだった。幸いなことにわたしのバカな頭はほとんど本の内容を忘れている(笑)先日のBBC制作のドキュメンタリーを観た頭には、また新鮮に入ってくることだろう。
高野さんのこの本も読み終わったとたん、複雑な歴史みたいなことはすべて忘れた。覚えていることは「人間はすごいな!」と言うことだ。そしてヨーロッパが生み出した民主主義とやらが、ホントはウソっぱちだった…とまでは言わないが、ホントに人々が平和に生活していくためには、どうしたらいいのかを考えた。平和に生きようと、みんな必死に努力してるんだ、ってこと。そしてその方法は、何も前例にならったものでなくてもいい、って事。日本なんかより、よっぽどすごい民主主義があるよ、ソマリランドには。もっと自由な価値観で生きていいんだよ、ってこと。高野さんの旅自体も、ものすごく良い終わり方をする。めちゃくちゃポジティブな本だよ、これ。高野さん、ありがとう。この本を書いてくれて。世界は広くて、人間はすごい。