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2016年8月7日日曜日

すごい男のすごい物語 アーネスト・シャックルトン「エンデュアランス号漂流記」を読みました

いやー、すごかった! すごい本をまたもや読んでしまった。サー・アーネスト・シャックルトン。いや,読まないといけないと思ったんですよ,一応。だって彼,アイルランド生まれの人だから。この力強い精神と絶対負けない力はアイルランドのものだなー。そしてユーモアのセンスと正義感! やっぱりアイリッシュ最高!!!

シャックルトンを英国人と捕らえている人が多いのは非常にもったいない。またスコットより評価が低いのも、なんだか解せない。確かに探検家としては南極点到達も横断も何も達成してない。でもこれ、すごすぎでしょ。隊長として隊員1人も死なせない。このシャックルトンの素晴らしさには、現代社会の我々も学ぶところはほんとに多い。いやー ホントにスコットの南極探検紀よりも、元気もらえるわー。こっちの方が過酷さはもうひどいってもんじゃないんだけど、あくまで生きのびるためのものすごい力が、もうなんつーか、もー、超感動なのであった。

シャックルトンについては、記録も写真も豊富に残っているので、Shakletonで画像検索すればあれこれ見ることが出来る。その力強いリーダーシップとぶれない精神力は、隊を全滅させたスコットのリーダーシップとよく比較される。どう考えても地面が凍ったり溶けたり、人数もすごく多かったり、シャックルトンの方がスコットよりも状況は過酷である。スコットなんて、あと20kmでデポに到達できたのに全員死んじゃったんだから!! 絶対に歩けたよ、スコット!

そう、シャックルトンは、今から100年くらい前、スコットと同じ時代の人だ。スコットが南極で亡くなったあと、極点到達がノルウェーにやられた悔しさをバネに英国探検チームは今度は初の大陸横断の成功の夢を勝ち取ろうと南極へと旅立つ。しかし、氷の海にやられ、大陸に到達する前に氷にとじこめられてしまう。(これもすごいんだ。映像が残っているけど、船の周りの氷を人力で掻き出したりノコギリで切ったり…でも南極の海は恐い。どんどん凍ってしまうのだ)


この地図の右上にある南ジョージア島。ここには捕鯨基地があり、ここからシャックルトンのエンデュアランス号は出発したのだけど、そこからぐっと下がったところに書かれているように、南極に近づきながらも、その圧倒的な氷の海の真ん中に閉じこめられてしまう。シャックルトンの希望は、そのまま氷に閉じこめられたまま、北へ(あったかい方へ)と漂流、そしてなんとか全員生きのびることだった。

だが、そうは問屋がおろさない。ついに船は氷に押しつぶされる形で傾き、もう駄目だと判断した一行は荷物をすべて氷の上へ避難させ、そこをキャンプ地とした。ちなみに下は海です。海。そしてエンデュランス号は、最後には氷の圧力に負けてバキバキバキ…と沈没。南極の氷は恐いのだ。

だが、シャクルトンは希望を捨てず、沈没したエンデュアランス号を見放すと、3つのボートでこの場所を離れる。北へ!! そして必死の想いでエレファント島へ上陸。ただここは何にもない無人島。シャックルトンたちがここで生き残っていることを知っている者は地球上には誰もいない。文明からの距離1000kmなんぼ。しかし多くの隊員がかなり消耗しており、全員で動くほどの力はない。なので、ここで22名の乗り組み員を残し、シャックルトンを含む6人は、この場所からもっとも近い文明社会へ向けて、今回の旅の出発点である南ジョージア島へ戻り全員救出のための援助を求めるために出発するのだった。この南極の荒海へ!!! ホントはチリに向った方が良かったのかもしれない。だが、塩の流れ、その他もろもろ加味すれば、南ジョージア島に向う方が賢明だと判断したのだ。この島を見過ごせば、そのまま大海原のまっただ中。そこで生き延びる術はない。

このすごい荒波と南極の寒さと,凄い、凄すぎる状況の中(ちなみに彼らよりデカい船が同じ嵐で沈没したりしている)、奇跡といっても間違いではないがシャックルトンたちは南ジョージア島になんとかたどりつく。この間が、とにかく本当に過酷だったとシャックルトンは回想する。特に水がなくなったとき。顔や身体は塩風でべっとべと。喉の乾きは超過酷!! 死ぬ思いをしてやっと島が見えた時は、本当に助かった!と思った。しかしここでも試練が。

彼らが辿り着いたのは、集落があるのと反対の島の西側なのよ! ボロボロになった船にはこれ以上の航海が出来る余力は残っていない。仕方なく、弱った仲間2名+面倒見係1名を残し、道具も装備もないままシャックルトンを含む3人は山を越えて1日半寝ないで歩き続けて決死の山越えを成功させる。

遠くから汽笛が聞こえる!! やっとたどりついた人のいる場所!!!(涙)そして!!! 再びシャクルトンたちは頑丈な船にのってすぐに島の反対側へ助けを待つ3名を拾いに再び出発!! そして最後の最後はエレファント島に残る乗組員たちも4ケ月ぶりに無事救出させるのだ。すごすぎるよー

この過酷な旅を通して特筆すべきは彼らのユーモアの力だ。お茶したり食事をしたりする集会部屋を「リッツ」(高級ホテルの名前)と名付けたり…人間ってこんなに強いんだ、と何度も感動させられる。シャックルトンは本の中で、このように記述している。

「時に応じて、人間はきわめてとぼしい手段で生命を維持していけるものだ。そして文明社会のもろもろの飾りは、過酷な現実のなかではたちまち捨て去られてしまうものだ。こういったおり、最小限、食物と避難場所がえられさえすれば、人はなんとか生きのびることができる。しかも笑いを忘れない人間本来の姿があらわれるものである」

乗組員たちをどう引っ張って行くかということについて、シャックルトンはホントに素晴らしいリーダーだった。例えば、エレファント島(最初に漂着した未開の無人島)の初上陸の名誉を一番弱っているメンバーに譲ろうと、最初に彼を担ぎおこして上陸させた、などなど。(しかしその彼は足が凍傷にやられ、歩くことが出来ず、へなへなとその場に座りこんでしまったそう。他の隊員があわてて彼を乾いた場所へ移動させた)

食べ物がなくても超楽観主義。彼らは犬、そのうちアザラシ、ペンギンを捕らえて食べるようになる。

「人間という動物の味覚はなんでもおいしく食べられるようになっている、と私は考える。動物のなかには、その動物が常食としているものと違った食べ物では、死んでしまうものがある」

いや、ホント人間強い!! そして、やっと母国に戻れば世界は第1次大戦の真っ最中。人間はこんな必死の想いで守った大切な命を粗末にして、バカでもある…

「われわれが去ってきた冷たい氷の世界と違って、戦争とはなんと陰惨で熱いものなのだろう」



エレファント島を出発。信じられない,こんな小さなボートで嵐をくぐりぬける

隊長ぉーーーっっ!

最近発表されたエンデュアランス号の写真の1つ。すごい斜め…右上がシャックルトン

ワンコでかい!! かわいい! この写真、気に入って自分のiPadの壁紙にした
しかし陸路で戻れないと判断された時点でワンコは殺されて食べられちゃう。
南極は厳しいのだ。

すごい。ホントにすごい。でも全員助かるという結末はすでに知りながら読んでいたせいか、すごい状況ながら、妙に明るい本だと思った。これはホントに元気になる。毎日生きてるか死んでるか分からない人は読んだ方がいい。こんなにすごい物語はない。っていうか、死なないんだよ。死なないと思ってるやつは死なない。そういうことだ。

エンデュアランス号については、いろんな人の本が出ているらしいが、本人が書いた本のダイジェストであるこの文庫が一番だと思われる。ちなみに英語で読める人なら、すでにPDになって青空文庫化しているので、Kindleで無料でダウンロードできます。



PS
あ、そうそう、それから角幡唯介さんが紹介してた「サードマン」のエピソードも、この本の中に発見した。人間は遭難しかかったり、何か大きな危機を迎えると、隣りに神様(?)がやってきて自分と一緒に歩いてくれるというのだ。そして「歩け、ほら足を前に出して。喉がかわいたか、ほら、水を飲んで」とかずっっと声をかけて励ましてくれるというのだ。『隊長、あの時,確かに我々以外もう1人いましたよね』ううう、泣けるぜ! そしてサードマンは人を奇跡の生還へと導いてくれる。シャックルトンはサードマンに出会っている。角幡さんがツアンポーで出会えなかったサードマンに(笑)

PPS
映像もこうやって、けっこう残っている。ナショジオ制作のドキュメントが秀逸〜