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2017年1月5日木曜日

すっげーすっげーすっげー本だった。ジョン・クラカワー「空へ」


すごい。この本は凄かった!   おそらくだが、ここ数ヶ月読んだ中で一番凄かったかもしれない。角幡唯介さんにも影響を与えたジョン・クラカワーの名作。「荒野へ」(INTO THE WILD)も最高に素晴らしかったが、これは本人が当事者というのも相まって、もの凄い迫力。圧巻の内容でした。

前から角幡さんが話題にしているので気にはなっていたけど、川内有緒も大絶賛してて、すごく進められたので購入した。で、長らく積ん読してたけど、ついに着手したら、いや、面白いの、なんの…

というか、そもそもお風呂でいい加減に読み始めて、毎日1章ずつ読んでて、面白いなぁとボンヤリ思っていた。ここんとこ毎日、仕事で頭がいっぱいで、お風呂に入ると1日前に読んだことなど、すっかり忘れてんだけど(っつか、登場人物多くて名前が覚えられない)、それでも楽しく読めた。そして頂上に達し、下りに入ったら、ついに読むのを辞めることが出来なくなったよ。で、久々に読書で夜明けを見た。久々だ。そのくらいすごい本だった。

いや、まず言えるのは角幡さんに文章の感じが似ている、ということ。もちろんこっちは翻訳されていて、オリジナルは英語なんだけど。そして遭難ものとか聞くとビビる人がいるかもしれないけど、クラカワーのトーンは落ち着いている、ということ。非常に冷静だ。いや、冷静というか冷静でいるように努力している、とも言うべきか。本人も当事者だし、あまりにもすごい体験だから、書くにしても、もう少し時間がたってから書くよう心配した周りの人に奨められたそうだが… でも著者は書かずにはいられなかった、というのも分かる。著者は書くことしか生き続けられなかったのだろう。犠牲になった人たち、そして自分の情報ミス。そうして気持ちを整理しようとした。いや、整理なんか出来っこないのだが。そして、そんな葛藤も含めて、あれもこれもすべてがかっこいい(と言ってしまうと語弊があるかも、だが)。

この本はエヴェレストの現状をよく表している。この本は、96年の話だそうだが、今やエヴェレスト登山は商業登山が一般的だ。ナショジオに詳しい記事があるが、1シーズン500人以上が登頂という時もある。角幡さんも「エベレストには登らない」という連載をBE-PALで連載しているくらいで、もうエヴェレストに登ったところで、誰も褒めてくれやしない。大変な金額の入山料やら何やらお金がかかるのだが、今、エヴェレストに登れるのは、そんな大金が払えるお金持ちのアルピニスト達だけだ。エヴェレストに登るということは、非常な訓練を積んだり殺人的な身体能力があったり、ということでは、もうないのだ。単純にお金でエヴェレストに上げてもらう、ということなのだ。おかげで頂上付近はいつでも大渋滞。ディズニーランドのアトラクションよろしく2時間待ちとかザラなのだ。

まぁ、身体能力を競う事なんて、所詮こういうもんよ…と私なんぞはまたもや思ってしまうわけだが、ただ「山に登るしか生きられない」みたいな人たちのことは分かるような気がするのだ、私にだって。そして死ぬかもしれないという事、極限の状態、そしてそれによって描き出される圧倒的な「生きる意味」への興味は、私にだって尽きないのだ。あぁ、もう読ませるなぁ!!

クラカワー、かっこいいよ!!!!   角幡さん、 高野秀行さんに続くノンフィクション作家ブームが始まっちゃいそうで、困っている。

ところでこの遭難事故は映画「エヴェレスト3D」として映画化されて昨年盛り上がったようだが、特にクラカワーの著作を踏んでいないようなので、観る必要ないかな…と今は思っている。でも「野崎さん、あの映画、きっと好きですよ」という意見などありましたら、映画を観た方、是非お知らせください。(ざっくりネットでググったところでは、あまり評判は良くないように思える。映像は圧倒的だが、ストーリーに爽快感がない、など)

それにしても…いや〜すごい筆力である。このくらい読ませないと本は駄目だよなぁ。

エヴェレスト登山について著者はこう書いている。(カッコ内は私の意見)「登山の一番の価値は、このスポーツが自助努力を旨としているところにあると理解してきた(そう、本来登山とは自分で調べて,自分で努力し、そしてやっと山に登る、というのが本来なのだ)。個人の責任において事に当たり、重要な決定をなすところにあると。(そう、自分で決めて自分で実行するときに本来の喜びがある)だがガイドの顧客として契約書にサインした時点で、そういったものはすべて… いやそれ以上のものまで…あきらめざるをえないのだ、ということを私は発見した」

これって、人生と一緒じゃない? 自分の決定権、コントロール権を失ったら意味ないんだよ、ということをクラカワーは言っているのだ。

ちょっと前の話だけど、グレン・ティルブルックが参加してたLOVE HOPES AND STREGTHの事を思い出した。あれはチャリティで素晴らしい事業だと思うが、参加するには何百万というものすごいお金がかかる。正直、私にとってはアメリカのお金持ちが、自分のアウトドア趣味(およびアーティストおっかけ活動)になんとかして意味を持たせようとしている、としか思えなかった。いや、彼らのやっていることは素晴らしいし、私もそれなりの金額を寄附したよ。グレンも頑張って富士山登ってた。ドネーションで実際何人かほんとに救ったりしているし、もちろん親族を癌でなくせばいろいろ思うこともあるだろう…とは思ったのだが…(以下自粛)あれのことをちょっと思い出した。お金って、ホントいろんな価値観を左右しちゃうすごいパワーを持っている。

登山の意味、探検の意味を見つけることは本当に難しい。そしてそれは、ちょっとしたことですべて失われてしまうものだ。それは「生きる意味」「自由」と一緒だ。常に悩んで考えていないと、時には立ち止まって検証しないと、あっという間に失われてしまうものなのだ。



PS
この遭難事故、ホントに有名みたいで、You Tubeにたくさんドキュメンタリーとか上がってた。中にはクラカワーがしゃべっているものまで。エヴェレスト3Dとか見る必要もないかも。しかし映像でみるとまったく臨場感が違う。スーハースーハー言う息で呼吸がつらくなりそうだ。そっちに気を取られ、本質を見失いそうだ。やっぱり本の方が圧倒的に良い。