アンジェイ・ワイダ監督作、映画「残像」を観ました

パワフルな作品だったな…。社会主義政権下のポーランドで抑圧された芸術家の不器用な生き方を描く。冒頭に出てくる弟子たちに語る「人は認識したものしか見ていない」という言葉が心に残る。ポーランドの巨匠、アンジェイ・ワイダ最後の作品「残像」

舞台は1949年から1952年のスターリン主義下のポーランド。ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキという画家の亡くなる直前の4年間を描いた作品だ。すでに妻で前衛彫刻家のコブロとは離婚。彼女の葬式にも参列できなかった。1人娘を引き取るもののきちんと面倒を見ることが出来ず、師を慕う若い女生徒が出入りする父のアパート出てしまう。

政府の意向にそうしかない大学の職を追われ、芸術家としてのライセンスも取り上げられた画家は、画材も購入できない。配給の切符も貰えず生活も貧窮していく。彼を慕う弟子たちが何とか仕事を探してくるのだが、最後はプロパガンダ用の似顔絵看板まで描く羽目に。しかしそこも追われ、健康を蝕まれた画家が倒れこんだショー・ウインドウの、天上から吊るされたとおぼしきマネキンが揺れるところが「灰とダイヤモンド」の朽ち果てた教会のシーンを思い出させた。

それにしても主演俳優さんが素晴らしい。だが、彼の笑顔を見れるのは冒頭のシーンだけだ。 すでに先の大戦で片腕と片足をなくしている画家。それだけで、すでに彼の人生は壮絶だったと想像する。しかしこの「唯一明るい」転がって丘を降りて来る冒頭のシーンは最後の最後まで印象に残る。弟子たちも彼に続けと、丘を転げ降りる。師の教えを聞く弟子たちの目がキラキラと輝く。

それにしても、こういう芸術家、きっと社会主義下のポーランドではたくさんいただろうな。ちなみに映画を見終わったあと心配になるお嬢さんのその後だが、彼女は無事成長して精神科医となり両親の回想録を書き、2001年に亡くなっているそうだ。

映画のタイトルになっている「残像 Powidoki(英:Afterimage)」は、ストゥシェミンスキの太陽を見た時に目の中に残るイメージという作品のタイトルから取られている。その作品はこのページで見る事ができる(ポーランドの文化を紹介しているCulture.plこのページ。彼の若いころの写真も見ることが出来る。該当作品はページの下の方にカラフルに掲載されている)


さて、いつも気になる映画を見た感想/文化人コメントですが… 今回は悔しいけど森監督の言葉が残ったかな。そう、こういう状況下で一番怖いのは「悪い人は誰もいない」ということ。(森監督は私は映画監督としては、あまり好きではないのであった。が、このコメントは気がきいている)

佐々木俊尚さんの「どんなイデオロギーであろうが、過度な正義はつねに危険であり、政治にすべてを集約させようとすることは多様性を殺す」というのもさすがだ。

あとこちらも悔しいけど、ろくでなし子さんのコメントはウマい!と思ったね。是非こちらのページでお読みください。

東京ではワイダ監督にゆかりのある岩波ホールで上映中。ちなみに岩波っていつもそうなんだけど、早い回は年配の方で埋まっているので、若者(あそこの映画館においては私も若者の部類に入る)は夕方か夜の回に見ましょう。 私は平日の夕方4時の回を見ましたが、岩波にしては少なかったかな…。もっとたくさんの人に見てほしい。