映画「インディアン・ランナー」を観ました



ショーン・ペンの初の監督作品1991年。暗い映画だ。だけど弟の気持ちが分かる。兄の気持ちが分かる。DVDで観ました。

ショーン・ペンは、ブルース・スプリングスティーンのこの曲にインスパイアされて、この映画を制作する決意をしたのだという。



出来のいい優等生の兄と、戦争にいって戻って来たトラブル・メーカーの弟の物語。弟は心の中にインディアンがいるのだという。それを上手くコントロールすることができない。最後の最後に人を殺めてしまい、国境を超えて逃げていく。それを追う警察官の兄。

山口洋さんがブログで絶賛していて、思わず速攻でDVDをポチったのが、すでに4年前。届いたDVDは観ないでそのまま放置していたのだけど、また山口さんがこちらの連載で再び絶賛してらして、これは絶対観なくちゃ!と思って、やっと観たのが、もう1週間前だったかもしれない。感想を書いておかなくちゃと思いつつ、今日になってしまった。

ショーン・ペンの最近の監督&脚本作「INTO THE WILD」は最高に素晴らしい映画だったしね。あれはホントに良かった。クラカワーの原作もすごいけど、映画の方が妙な説得力があったかも…。主演の子も良かったし…あの子も(実話だからね、これ)、何か音楽のようなもの、文章のようなもの…表現する何かがあれば命を落とすことはなかったかもしれない、と思った。そうでなければ… たとえ運よくアラスカでの時間を無事に過ごせて、あのお爺さんとこに戻れたとしても、きっとあのままで彼は何も変わらなかっただろう。そして結局、命を落とすまで旅を続けただろう。Happiness only real when shared....と彼が本の隅に書いたように、幸せは誰かとシェアすることによってリアルになる。

それぞれのエンディングがYou Tubeにあった。映画観てない人が先にこれを観ても良いと思うので、是非。まずは「インディアン・ランナー」の方。小さな男の子が車から出て来るシーンは…ちょっと忘れられないね。Life is good...my brother Frankで終るお兄ちゃんのセリフもグッと来る。



そして最後に「新しく生まれる子供は、神様がまだ人類に落胆してはいないというメッセージを運んでくれる」というタゴール(インドの詩人)の言葉を載せたのは、ショーン・ペンの優しさなんだろうか。これはパワフルな映画だ。結局、子供も妻も、彼の中の狂気を救うことは出来なかった。

「INTO THE WILD」のエンディングも素晴らしいよ。これは劇場で観て、しばらく席を立てなかった。彼も放浪の旅の途中でいろんな人に出会うんだが、それでも結局そこには留まることが出来ない。こちらの主役クリス・マッキャンドレスも人に迷惑をかけたり他人に攻撃的になったりすることはなかったとはいえ、やはり自分の中に「狂気」をかかえていたのだ。



これもすごく興味深い。INTO THE WILDの主役、クリス・マッキャンドレスのドキュメンタリー。作家のクラカワーがインタビューに答えて話をしている。



山口さんが書いていたが山口さんには音楽があった。そうやって自分を表現する手段を見つけた人は、狂気から一歩引いたところに自分の居場所を見つけ出すことが出来る。 さらにそれをシェアし受け止めてくれる相手がいれば、なおさらだ。

私たちがこれらの映画や本に惹かれるのは、山口洋にしても、私にしても彼らのような要素というか成分が、自分たちの中にもあると知っているからだ。すべて放り投げて、大事なものすべてをぶち壊してどこかに消えてしまいたいような、そんな気持ち。そんな狂気。
「インディアン・ランナー」のフランクは、「INTO THE WILD」のクリス・マッキャンドレスは、私たちだ。彼らは自分の中からわき上がる狂気に捕われてしまった。いや,山口さんの言うとおり狂っているのは、もしかしたら自分たちは普通だと思っている私たちの方かも。

それでも自分の気持ちをシェアできる何かの存在がいれば、(狂っているとはいえ)こちら側の世界に踏みとどまる事が出来る。そういうことかな…と思う。普通の人にとっては、それは家族とか、そういう存在だろう。私にとっては自分を頼りにしてくれているミュージシャン。山口さんにとっては音楽だ。

ショーン・ペンが監督/脚本の1作目「インディアン・ランナー」と3作目「INTO THE WILD」、2つは似たような事を言っているのかもしれないと思った。そして、2作目の作品「クロッシング・ガード」も観てみたくなった。