花、置いてみた…(笑) |
実は私は池田理代子作品は、圧倒的に『オルフェウスの窓』派なのだが、もちろん子供のころ『ベルばら』の洗礼を受けたので、ありがたくいただいた。私たちの世代が、ヨーロッパの歴史なんぞなんにも知らなくても「フランス革命」とか「マリー・アントワネット」についてちょこっと知っているのは、この漫画のおかげだ。
その「ベルバラ」を1人寿司の湯山女史が大人になってから読み返し、池田先生のインタビューやら何やらを集めたのがこの「手帖」なのである。読み終わって、また「ベルばら」を再読したくなった。私たちが子供のころ「くだらない」「読むとバカになる」と言われてきた漫画はこのように、私たちの世代の人生に大人になってもずっと寄り添っている。
確かに今になって再読してみたら、きっと「ベルばら」には、相当違った印象を持つだろう。なにせこれを書いたころ、池田理代子先生もお若かった。そもそもオスカルはカッコ良すぎだし(そのくせ最終的にはアンドレを自分から誘っている、とか何とかそのへんの湯山分析も細かい/笑)、 ロザリーは泣いてばっかり感情むき出しのイラつく女だし、アンドレは向上心のない情熱だけの一直線男だ。オスカルが革命とは何か、自由とは何かをきっちり研究して参加しているのに比べ、アンドレは何かを勉強したりしている様子がまったくない…など湯山氏の指摘はするどい。今、読んでみたら、かえって脇役のジェローデルやアランの方がまだインテリで味わい深く見えてくる事だろう。
それにしても、当時のベルサイユの様子(実は下水が完備されておらず、めっちゃ汚かったとか)も興味深い。特にびっくりしたのが、アントワネット妃の服を担当していたローズ・ベルタンが、当時としては奇跡の平民出身であり、また王妃の友人として処刑されるまでの王妃に差し入れをするなど、ずっと誠実であり続けた、という話は興味深かった。彼女の人生を書いた本があれば、これまた読んでみたい。
その他、フランス革命のあれこれ、ベルサイユ宮殿のあれこれ、当時の一般的な貴族の暮らしや夫婦関係… フェルゼンとアントワネットはプラトニックだったというより今はデキていたというのが一般的な解釈だそうで、そのヘンも面白かった。(そういや「ベルばら」では確か最後の最後に1回やっちゃってましたよね…/下品な表現失礼。そういや「ベルばら」はセックスシーンも妙に美しかった…)
湯山さんの著作を読むのは初めてである。「ひとり寿司」もまだ読んでないし… でも同世代なのかな…(調べたら、私より6つ上だった。子供の頃の年齢差は大きいので、かなり上の世代と言えるかも)とにかく面白かった。唯一ついていけなかったのは、現在活躍している俳優さんたちを「ベルばら」にリアル配役する、というもの。あがっている俳優の名前が私には1人も分らなかった…(爆)
ま,何はともあれ、いずれにしても私はやっぱり池田作品では「オルフェウスの窓」の、特にロシア革命時代が好きなのであるが、まぁ、こちらも今になって読んでみれば、どうにもこうにもメソメソなユリウスの存在がハナにつく。(メソメソでハナにつくといえば山岸凉子先生の「アラベスク」のノンナもそうだ。今読めば、子供のころめっちゃ冷たいと思えたユーリ先生は結構優しい。子供のころはなんだか無条件に主人公に感情移入していたのが不思議なくらいだ)
いつだったか池田先生の「窓」に関するインタビューを読んだことがあって、それにはあの作品の主人公はユリウスでもクラウスでもなく、イザークなのだ、という話を聞いて妙に腑に落ちた。そしてあれはロシア革命をまたいだ大恋愛の話ではなく、音楽の話なのだ、という事も。音楽は何かというのを追究しているイザークの話なのだ、と。
バックハウスとイザークが音楽を語るシーンは最高である。覚えている人も多いと思う。「きっと、君も僕も共に美しい音楽に満ちて生涯を送れるのです」あぁ、やばいわ〜 悶絶!
うーん、いいなぁ! 私も多少次元は違うけど、音楽にあふれた素晴らしい人生を歩んでいるよな。バックハウスの素晴らしさを世間が理解しないということの葛藤や、クラシックの純血の世界(いわゆる芸術的表現)と伝統音楽/酒場の音楽(いわゆるエンタテイメント)との対比もいいし、うーん、やっぱり「窓」は面白い。レーゲンスブルグは一度行ってみたい街である。ドイツはやっぱ南が圧倒的に可愛い。
あ、そうだ、もう1つ。この「手帖」グラビアやイラストがたくさん掲載され、池田先生の協力がなければ実現しなかった本だと言える。そういう意味でもファンは大満足だと思います。
PS
音楽にあふれた素晴らしい人生ということではこの人の人生も最高だよね。心臓発作で倒れたスコット・マッコイの復活ストーリー。CDのセールスが450枚でも5百万枚でも、コンサート会場がガラガラのバーでも満杯のスタジアムでも変わらない音楽野郎、スコット(笑)。そして登場するピーターがめちゃくちゃかっこよすぎる。ドラックじゃねぇのかという医者につめより検査を強行させ、もうステージには立てないという診断に楽器を持ち込んだりビートルズの曲を聞かせたりするセラピーを。数ヶ月後、スコットは奇跡の復活を果たす。「自分のキャリアで、いくつかの良い作品を残すことはできると思うけど、自分が死んだ後も演奏される曲を作ってみたい」というソングライターとしての本音も。
Not Ready To Die: Scott McCaughey’s Therapy Sessions https://t.co/Yw2rLtgQYa— 野崎洋子 (@mplantyoko) 2018年9月13日