映画『ブレッドウィナー』やっと見ました。いや〜、すばらしい。これは絶対に見ないといけない作品です。
タイトルのThe Breadwinnerとは、一家の稼ぎ手、担い手ということを意味しています。アフガニスタンのタリバン政権下で、小さな女の子が家族のため奮闘するストーリーです。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』で知られるアイルランドのアニメーション・スタジオ、カートゥーン・サルーン最新作。タリバン政権下のアフガニスタン、カブールの町で、家族のために髪を切り”少年”になった少女の、勇気の物語。『ブレンダンとケルズの秘密』の共同監督ノラ・トゥーミー単独監督デビュー作。第90回アカデミー賞ノミネート。アニー賞最優秀インディペンデント作品賞を女性監督として初受賞。原作はカナダの作家・平和活動家のデボラ・エリス。UNHCR特別大使でもあるアンジェリーナ・ジョリーがプロデューサーとして参加している。
いや〜、いや〜、いや〜
子供の視線というのは、どうしてこうなんだろう。是枝監督が描く子供たち、スウェーデンのグレタさん、そしてこのタリバン政権下で生き延びるために頑張る女の子たち。
タリバン政権下の女性には権利がない。ブルカをかぶり自由に歩くこともできない、明るい未来がまったく見えない過酷な状況で生きる彼女たちだが、それを過剰にお涙頂戴的なセンチメンタリズムに陥ることもなく、たんたんと描いていくのが本作だ。
ナチスの迫害のもとで生き残るユダヤ人の話とかでも、そういうのが多かったけど、極限下においても人間の豊かな想像力が人生に生きる希望を与えている、ということが強く感じられる。そういうパワフルな作品だ。この作品では「想像力」はパヴァーナが弟に、友だちに話して聞かせる物語のことだ。
劇場で購入したパンフレットに書いてあったが、本作の監督のノラ・トゥーミーは野菜工場のベルトコンベアーの前で単純作業に終日あけくれていた経験を持つそうで、耳栓をしてイヤーマフをしてラジオも音楽も聴くことができない中、なんとかその時間をやりすごすため心の中で無心に物語をつむいでいた経験があるそうだ。そんな経験がこの映画に大きな影響を与えている。映画ではリアルなストーリーとパヴァーナが語る物語が並行して進んでいくが、物語のアニメーションはちょっと「切り絵風」な画像で、これまた味があり象の怪獣と戦うお兄ちゃんの姿が勇ましいながらもユーモラスだ。
それにしても、この国における彼女たちの人生は過酷だ。もともとは豊かな土地だったアフガニスタンに、大国に振り回せれこんなひどい状況になってしまった。奇しくも緒方貞子さんや中村哲医師も亡くなってしまった。彼らがもっとも気にかけていた国アフガニスタン。この状況をもっと多くの人に知ってほしい。
国名を聞いただけで、怖くて辛い映画だと想像し見にいかない人がいたら、それは残念だ。これは見にいかないといけない作品なのだから…。それにちっとも怖くない。たしかにひどいシーンはたくさんあるが、その中でも子供たちは正義感にあふれ、したたかに生き残っていく。その姿に励まされる。
しかしこうしてバラバラになってしまった家族が、また一緒になれる日は来るのだろうか。でもエンディングに向けて大きな希望は確かにある。勉強や教育の中に。人間の想像力、創造力の中に。そんな子供たちの強かさこそ、ぜひ大きなスクリーンで感じることをおすすめします。
それにしても、すごいなー、アイリッシュの正義パワーは。つい先日も世界の環境問題をうれうヒギンズ大統領のクリスマススピーチをリツィートしたばかりだったけど、小さい国なのにこんなパワフルで素敵な映画を届けてくれるのだから。原作はカナダ人女性らしい。だから映画権を持っていたのがカナダの会社だったらしく制作チームに入っているんだけど、この作品をここまでのものにしあげたのは、やはりカートゥーン・サルーン=アイルランド人たちなのだ。
だから私はよく言うんだ、アイリッシュと仕事するとお酒がすごくて大変でしょ、って言ってくる連中に。「いいえ、彼らは正義感にあふれる人たちで、こちらとしても決して裏切られることはないと安心して仕事ができます。確かに世代によっては締め切りは守られないけど、とても楽しい人たちでお酒も大好き。でも、私が困った時は精一杯助けてくれる最高の仲間はいつもアイルランド人です」って。
それにしてもカートゥーン・サルーンの作品に駄作なし。10分ほどの小作品『レイト・アフタヌーン』の同時上映というおまけも、しっかりプロダクションチームと人間関係を作ってきたチャイルドフィルムさんならではの企画。そして来年秋には公開になるらしい『ブレンダン〜』『ソング・オブ・ザ・シー』に続く「ケルト3部作」の新作の情報など、ファンなら、今すぐ恵比寿に行くべし!! 平日のアフタヌーン上映でしたが、かなり入ってましたよ。予約してから行った方がいいかも。
資料としてパンフレットはもちろん原作本『生きのびるために』も劇場でゲット。なんと2002年の発売から、第13刷という静かなヒットぶり。素晴らしい出版社だな。こういう愛情ある人たちのおかげで素晴らしい作品が私たちのもとに届けられる。同じ物語のシリーズに、なんとアイルランドの飢饉で生き残る少女の物語(『ノリー・ライアンの歌』)も。そっちも帰宅してからポチった。やばい。しばらく世界の子供たちのこと、そしてこの映画のことを考え、そして自分の好奇心が止まりそうにない。あぁ、自分はいったいこの現実に対して何ができるのだろう。
PS
ところでこのノラ・トゥーミー監督だけど、2002年イヌイットの民話を題材にした『From Darkness』という映画も制作してるんだよ。8分ほどの小品。いいなぁ、ノラ監督もイヌイット好きなんだね。