私のような仕事をしていると、町で外国人の買い物の手伝いをしているだけで「通訳さん」と呼ばれる。そしてホテルのロビーでアーティストを待っていれば「ガイドさん」と呼ばれる。また渋谷のバーでミュージシャン連れて飲んでれば「お姉さん、外資系?」と若い子に聞かれる。
「外資系?」はともかく、そんな時、「本当のガイドさん、本当の通訳さんの凄さを知らないくせに、このバカ者! それにオレはこのミュージシャンの来日に全責任を負ってる音楽プロデューサーなのじゃーっっ」と心の中で怒りの炎をメラメラとさせるのであった。めんどくさいから訂正もせず「はい、はい」と聞いているけど。
それにしても本物の通訳の染谷和美さんや丸山京子さんの凄さを知ってるのかよ!? ガイドの山下直子さんのすごい知識を知っているのかよ!?と思うのであった。
と、このように地雷というのはどこに埋まっているかわからないので、中年女性に町で話しかけるときは、皆さん注意しましょう(爆)
特に「通訳さん」は二カ国語以上話せればなれる職業と勘違いされることが多く、外国人の親をもつ人や留学経験のある人が「通訳になりたいんです」と言うのを聞くたびに「いいねぇー」と返しつつも「ふっ、そんな簡単なもんじゃないよ、通訳は。本物の通訳さん、みたことあるのかよ」と心の中でこれまた思う私は意地が悪い。うちの姪っ子も通訳になりたいと言っていた時期もあったので、一度、染谷さんの仕事を見学させてやりたいと思っていたところだ。
通訳さんはインタビューの指揮者だ。通訳さんがだめだと本当にすべてがなし崩しに壊れるのだ。今までも「英語なら大丈夫ですから」と言いながらやってきたインタビュアーが全然だめだめでアーティストや編集者がいらいらしたり、媒体がブッキングしたプロの通訳と言われる人が下手くそだったり、訳のテンポがわるかったりして、せっかく取ってきたインタビューが台無しになった経験もたくさんある。私も過去にたくさんたくさんたーくさん失敗しているのだ。だからどんなに媒体が通訳手配しますと言っても(ま、そういう媒体はもう滅多にないが)、私はこっちで通訳さんは手配するのだ。だってとにかくインタビューを成功させたいから。下手な通訳だと、自分が現場でイライラしちゃうから。
染谷さんの通訳は、脇で聞いていると本当に感動ものだ。毎回毎回、そうっか、英語ではこうやって言うんだとか、日本語ではこうやっていうんだとか、いちいち感動してしまう。本当に素晴らしい職人芸だと思う。
そんなわけで最近では、これも内緒の話だが、うちのアーティストの取材ブッキングする時に、「こちらで通訳は染谷さんをご用意してます」と言うと取材が取りやすいので、取材ブッキング時の「染谷カード」を存分に使わせてもらっているのだった。染谷さんを押さえることで、媒体の担当者や取材記者さんたち、DJさんたちはみんな安心する。このインタビューは大丈夫だとみんなが思ってくれるから。
染谷さんにお世話になった経験をかけばキリがない。そして仕事の現場外でも、歌詞対訳したミュージシャンのインストアライブに来てCDを買ってサイン会の列に並んでくれたり(もうサンプル盤お渡ししているのに!ですよ!)、今回のバンドにエイドでも、歌詞対訳者だからサンプル盤送るのに高額リターンを申し込んでくれたり…。染谷さんは絶妙な距離感で私の仕事を見守ってくれている。うううう、染谷さんありがとう。そして今回の「バンドにエイド」プロジェクトを、こちらから頼んだわけでもないのに、連載のコラム『Lost and Found in Translation』(Burrn!)でも、ご紹介をいただいたのだった。それを後輩のAkikoが発見して私に教えてくれた。なので、そのことを皆さんにお伝えしたくて今日のブログを書いている。
ここに書いてあるように染谷さんとは四半世紀以上… そうキングレコード時代(89年ごろ)からの仲間なのであった。一緒に会社にいた時期はすごく短いけど、染谷さんに「野崎のことはキング時代から知ってんだ」と言ってもらうたびに、染谷さんにも迷惑かけないように私もちゃんと仕事しなくちゃと思うのだ。
「バンドにエイド」だって、染谷さんのこのネーミングがなかったら、どんなにプロモーションするのが困難だったろうか。皆さんにも想像できると思う。ネーミング大事。デンつーに頼んだら、一行50万とか取られるよ!! いや、一文字50万かも?!
なので、ぜひぜひ染谷さんのBurrn!のコラムを、雑誌を購入の上、チェックしてほしい。
インタビューにおいて通訳さんについては心配する必要がない、ということがどんなに私の仕事を楽なものにしてくれていることかと思う。本当に私は周りの人脈に恵まれているのだ。それは公共の場でマスクをする必要がなかった、今となっては当たり前の時代を懐かしむ感覚にも似ている。次に染谷さんに取材通訳をお願いするのはいつになるのか。そして誰になるのか。楽しみで今からその日を待ち遠しく思っている。