松田美緒さん、新作「ラ・セルヴァ」について語る



松田美緒さんは、もちろん「辺境の歌コンサート」や「北とぴあ日本の伝統音楽祭」でご一緒して素晴らし歌手だって知ってたし、いつもフリーダム!って感じで自由で、例えば京都のウォリス・バードのコンサートに来てくださって、がんがん打ち上げでウオリスと歌合戦しちゃうなど、本当に根っからの歌手で、大尊敬しているのだけど…

今回、出張が重なりバタバタの夏、いろんなご縁で新作のプロモーションをお手伝いすることになった。

新作のコンセプトを聞いて、「へぇー、ウルグアイねー」と思った。正直南米の音楽は私はまったく知識がない。ウルグアイどころか、ウーゴのこともまったく分かっておらずおらず、ライターさんから「南米のマッカートニーと言われているすごい人だよ」と言われ、あわててお勉強する始末…

そして先日、音楽評論家の林田直樹さんに松田さんの話を聞いていただくという場をZOOMでもうけて、こんな資料ができました。よかったら、ぜひご覧ください。


「今までにないタイプのアルバムに仕上がったと思います。今までの私の作品のことはもう忘れて、って感じ(笑)。『クレオール・ニッポン』は歌の背景を探り、そこに寄り添うような作品だったけれど、もっとすべてを取っ払って、ただただ音の中にいるみたいな感じの作品になりました
 
「ウーゴからは、10月の終りくらいから音源を送ってもらい、こちらで歌入れをしたのは今年の2月。シングルの「Hurry!」はリストの中にすでにあって、私がずっと前から歌いたかった曲でした」
 
(ウルグアイのルーツミュージックってどんな感じなのでしょう)
 
「例えばカンドンベというのはアフリカの太鼓がベースになっています。ウルグアイって、豊かなアフリカの影響がある場所。ウルグアイには「カンドンベ」以外にも「ミロンガ」とか「ムルガ」といった伝統音楽が根付いています。「ミロンガ」はアルゼンチンのタンゴの元になったといわれているダンスです。でもアルゼンチンでは、もっとヨーロピアンな感じ。一方でウルグアイにはもっとプリミティブな感じのミロンガが残っています」
 
「ウルグアイの音楽というと、もっとアフリカな感じなんです。アルゼンチンとパラグアイ戦争で生き残った黒人たちがウルグアイに逃げてきた。ウルグアイにもタンゴはあって「クンパルシータ」はウルグアイのタンゴ。タンゴはラ・プラタ川沿岸の雑多な港町に共通する文化ですが、ウルグアイには黒人のリズムが色濃くあって、一方でアルゼンチンのタンゴはそこまでではないですね」
 
ウルグアイはアルゼンチンの隣、ブラジルの下にある小さな国です。ウルグアイは小さいけどブラジルの影響を受けているし、ラ・プラタ川を挟んでアルゼンチンとの共通の文化があります」
 
ウルグアイでは、人が優しくてとても親切。一方で音楽はキレッキレ(笑)。今回のサウンドもとてもモダンになっている。コンテンポラリー感がある。でも同時にウルグアイの伝統もテーマになっている。根があるからこそ、クール。まさにウーゴの存在そのものだと思います」
 
「ウーゴは現在79歳。フュージョンのOPAで一世を風靡、でもルーツへのリスペクトをいつも忘れない。ウルグアイはいろんなルーツが混ざった国なんです。アルゼンチンのようにヨーロッパ志向ではないし、ブラジルのように巨大でもない」
 
「一つ象徴的なお話をします。ウルグアイのモンテビデオの黒人居住地には、戦争で逃げてきたアルメニア人、ユダヤ人、イタリア
人、スペイン人などが暮らした場所があります。クアレイン通り1080番地、古い修道院跡地です。ここはウーゴ曰く、カンドンベのゆりかごでした。マージナルな人たちが身を寄せて暮らし、文化のゆりかごになった」
 
だからデジタルでもウーゴの指先から出ると実にオーガニックなんです。ウーゴはイタリア系で、人情、人間らしい感じにあふれていて、あれは血から来る古代のものだと思う。宇宙的、ビックバン的なものがウーゴの中にあります」
 
「ウーゴのご両親はウルグアイ生まれだけど、おじいちゃんの代は南イタリア、ナポリの人たち。そういうルーツがすごく感じられる」
 
「彼と出会ったのは、2007年のブエノスアイレス、友達がJAZZ フェスを企画していて、そこに彼の演奏を聴いて、この人とやりたいと思いました。翌年ヤヒロトモヒロさんとのツアーでウーゴが来日し、誘われて参加しました。その時、一番最初の共演で私が彼の演奏でファドを歌い、二人で泣いてお互いを理解しあったんです。そして、2009年レコーディングや南米ツアーと共演は続きました」
 
(どうしてそこまで共感しあえたのでしょうか?)
 
「ファドのルーツはウーゴの持っているものとは違うものですが、ただ表現者として叫ぶ人は嫌いみたいなことは言ってましたね。ファドでも正直な曲、素直さがあるもの、あまり叫ばないのが好きなのだそうです。歌詞を大切にしていて、丁寧に伝えるという歌い方が好きみたい」
 
今回のアルバムのテーマ、密林は南米の先住民のメタファー、というか生命のメタファーなんです。人間は密林から離れられない。命を育む森というイメージ。ウーゴの音楽宇宙。自分たちが何者かどこから私たちはきているのか教えてくれる、光が教えてくれている。そんなイメージです」
 
(例えば現在ヨーロッパでも地中海周辺は難民がとても大きな問題となっている。いったい私たちはどこからやってきてどこへ行くのかが、人類的な大テーマになっている。移動する人たち。それによって歌もまた移動していく)
 
私は最終的に人類が言語を超えて一つになればいいと思っているんです。バベルの塔が崩れる前の感覚を取り戻す感じ。Before Babel」という音楽を作りたい。すべてジャンルの垣根もない。音楽って本来そういうものだと思う」
 
このアルバムは、ウルグアイというより、ウーゴの宇宙なんです。ウーゴが私にあうと思って選んでくれた曲。ウーゴ自身の曲もあれば、人の曲、伝統音楽もある」
 
「そういえば、作品を誰かに完全に任せたのは初めて。ウーゴとは過去に2枚参加してもらったけど、それは私の選曲であり、共同プロデュースでした」
 
「でも今回はすべてウーゴにお任せして、そして出来たトラックに日本からのレスポンスとしてあのプロモーションビデオを作りました。これが私のウーゴの音楽のインタープリテーション。これは地球規模の音楽なのだ、と」    
       
2021.9.20談)(協力:林田直樹


なお10月14日に林田さんとのトークイベントもあり。さらに詳しい新作の話が聞きたい方は参加必須です。感染対策ばっちりして行いますので、皆さん是非いらしてください。私も会場におります。詳細はこちら。https://miomatsuda.com/schedule/1708/

佐々木俊尚さんにも応援いただいちゃった! 佐々木さん、ありがとうございます。