川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』を読みました


読むのにすごく時間がかかってしまった。でもBetter than neverということで、感想文、アップします〜。

川内さんの本は、『バウルを探して』他、『パリの国連で夢を食う。』『晴れたら空に豆まいて』など名著が多いが、今回のも素晴らしい。まぁ、内容はタイトルとそのものなんだけど、いろんな部分で気付かされることが多くて、とても良い本でした。

まぁ、でも一番感じたのは、このコロナ禍で友達と感想を話し合うということがなくなってしまったということの喪失感なんだよね。

私は基本一匹狼で、コンサートも美術展も映画も一人で行くことが多い。自分のペースでゆっくり鑑賞したいし、そもそも人の都合なんぞうかがっていたら、やりたいことがちゃっちゃとやれないからだ。

でも楽しいのは、例えばコンサートとかが終わった時、知り合いや友人に偶然会うことだ。私たちが行く公演というのは、だいたい限られているから、この偶然はとても確率が高い。

場合によっては主催者や出演者に感動したよと感想を伝えたりできることもある。まぁ、ほとんど立ち話だけど、ちょこっとした苦労話を聞いたり、それは最高に楽しい時間だ。

もちろん打ち上げも参加したり、終わったあと観客通しでご飯に行ったりしてもいい。そこで感想を話し合うのが楽しいのだ。人の感想を聞くのも本当に楽しい。

まぁ、もちろん申し訳ないけど、会場出たとたん帰り道すがら「ここがダメなんだよね」「あれがダサかった」とか、批判合戦になったりすることもたまにあるんだけどさ(爆)。

あれが楽しいんだ。芸術は。

対象がアートでも音楽でもなんでも、とにかくその対象を三角形の頂点として、自分を他の誰かとつないでくれる、それがアートなんだわ。

この本は、そんな懐かしい時間をまざまざと思い出させてくれた。だからちょっと読んでいて寂しくなってしまった。

この本においても、例えば美術館での他の人の反応もおもしろい。川内さんが、白鳥さんやマイティさんと小声で話していても「うるさい」と言われてしまうこともあるんだそうで、確かにそれは辛いわな…と思った。

うるさいと感じる時は、どんなに小さな音でも気になる。いや、小さな音だからこそ気になるといってもいいかも。クラシックのコンサートとか、そうしね…  一度足をくんじゃったら、足を組み替えるのも、そおっっと…みたいな。

あと本を読んでて感じたのは、まぁ細かい気づきだよね…。自分の凝り固まった考え方をほぐしてくれるというところがこの本の魅力かなぁ。

この本を読むまで私もしっかり認識していなかったけど、目が見えないといってもいろんな人がいる。生まれた時から見えない人と、途中から見えなくなった人と、見るの記憶の量など人それぞれだ。

それにしても芸術を挟んだ三角形って面白いな。確かに人間関係も三人というのが一番安定感がある。二人だと何かあった時バランスが取れない。(どっかのバンドのことを言っているのではありませんw)

今、うちの両親は80過ぎても元気にしているが、一人が亡くなって私が同居しなくてはいけなくなった時、二人だとつらいので、犬を飼って人間関係を三角にするのはやはり有効だよな…とも思ったり…(笑)。

 
あ、あとこの本、とても良いのは装丁。カバーを剥がすと不思議な絵が登場する。これについては本文にその正体が明かされているので、ぜひ本を読んでほしい。こういう楽しみって、kindleでは実現できない。

そして本のカバーをはずした本体も黒が基調で、カバーの白さと白鳥さんの見ている世界とかを象徴しているようで、ちょっとおもしろい。

コロナ禍で本当に感想を言い合ってた日々が懐かしいなぁ。そうやってアートや芸術は人と人とを適度な距離感でつなげてくれるのだ。

例えば白鳥さんのような目の見えない人、自分と違う人といきなり話をするのは、何かと難しいだろう。それが一つ対象(アート)があるだけで、こんなにもそれを簡単な、もっと気が楽なものにしてもらえる。アートって、つまりはそういうことなんだね。