さすがの作品でした。是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』。
実は韓国映画、私も好きなんだけど、どうもあのハリウッド的盛り上げが好きになれないでいた。なんというか、「よくできている感」というか、「優等生的完成度の高さ」というか。
『パラサイト(←感想にリンクしてます)』も『タクシー・ドライバー(←感想にリンクしてます)』も素晴らしいよ。見ていて本当に楽しかった。
でもどうもあのクオリティの高さに乗り切れなくて、私自身は、今一歩踏み切れないでいた。なんというか、完成度がものすごくて、人を寄せ付けないというか。
ほんと脚本の強靭さなんか特に圧倒的だよね。世界中で、今、一番面白い映画は韓国だと思う。
でも、なんというかみんな芝居が大きいというか。まぁ、芝居が大きいのは、たとえば私の大好きな『若草物語』も『CODA』も、そうなんだけど…。うーん、なんだろう、なんて説明したらいいか…スキがない、そういう感じ。
そんな韓国映画の完成度の高さやチャーミングさが好きな人には、この作品は物足りないかもしれない。でも私はこの映画、めっちゃ好きだ。結局映画という作品形態は、監督のものなのだと思う。資本(プロデューサー)のものでもない、俳優のものでもない。
そして、その是枝ワールドが、私は大好きなのであった。
なんだだろう。妙に細部がいいんだよね。子供を捨てたお母さんの服のボタンをつけてあげるソン・ガンホとか、洗車でビショビショになっちゃう一行の様子とか。
ちょっと私には素晴らしすぎる韓国の俳優さんたちが、是枝マジックに乗ることで、すべて私にとっては心地よいところに落とし込まれたのだと思う。
やはり是枝さんの構築する世界の素晴らしさ…なんだよねぇ。赤ちゃんが中心にいることで、みんなが優しくなる。そして子供が登場してからは、一気に一行の家族的な空気がぐっと深まった。
私はこの世界が好きだ。『空気人形』で監督とタッグを組んだペ・ドゥナもすごい。彼女は存在感ある、すごい女優さんだ。
女優さん全員素晴らしいよね。ここに出てくる女の人はみんな結婚してても子供がいなかったり、子供を捨てようとしていたり、お母さんになりたくてもなれなかったり… 母性を探している人たちだ。
それが、どんどん「この子の幸せのために」とフォーカスされていくのが素晴らしい。
愛情とか友情とか、人の気持ちって時間なんだなぁと思う。一緒に過ごした時間。それでどんどん深まっていく。そんなことも考えた。
そして是枝監督がこの映画で伝えたいメッセージ「生まれてこなければよかった命など一つもない」が、とても強くこの作品に表現されているんだよね。いいなぁ!
昨日のブログにも書いたことだけど、何が一番大切なことか分かっていれば、大きく間違うことは絶対にない。是枝監督は、ほんとに一貫してる。
早く配信とかでも見たいなぁ。何度も何度も見て細部が楽しめる配信は是枝作品は最適だ。
そうそう、話が進むにつれ赤ちゃんがどんどん大きくなっていくのも、ちょっと見どころ(笑)。
購入したパンフレットにも書かれていたんだけど、撮影はストーリー順に行われたんだって。監督は「最初寝返りできなかった赤ちゃんが、できるようになった」「そのうち歩き出すのではないかと心配になった」そうだ(笑)。
あと同じくパンフレットで読んだことで、感動したポイント。韓国の映画業界ってパワハラとかに対して業界の規制がすごく厳しいんだって。たとえば現場で上の人が声を荒げようものなら、その人はパワハラ認定されて、即刻現場から退場しないといけない…などなど。
そうやって現場のスタッフが守られている。素晴らしい。それ、日本も見習った方がいいかもしれない。映画業界ばかりではなく、音楽業界も。
畔柳ユキさんがこの映画を韓国と東京で見たらしく、感想をブログにアップしてたので、そちらも是非チェック! ここです。
あとひとつ、これは日本映画がほとんどそうだから言いたいのだけど、公開前に監督と俳優さんたち?が、某テレビ局の生番組をジャックして宣伝活動してたみたいだけど(そのテレビ局は制作チームに入っている)、それ、もうやめた方がよくない?
公共の電波使って… さ。
監督もそのことを本に書いて指摘していたし(だから是枝監督が「あれ」をよく思っていないのはすごく理解できる)、みんなで止めれば怖くない!?と思うのだけど、やめちゃうとTV局の事業収入が減っちゃうってことなんだろうか。
というか、あれをやらないとテレビ局の事業部さんは映画の制作チームに混ぜてもらえないってことなんだろうか。それはなくても興行収入からもらえるパーセンテージが減っちゃう?
なんかみんな宣伝がマンネリしてないか? これやらないと売れないとか思っちゃって、最短距離行こうとしてないか?(この辺は宣伝の仕事している自分への自戒も込めて)
これを機会に赤ちゃんポストの実態を伝えるしっかりしたドキュメンタリーを流すとか、報道番組で監督がこの映画のためにあれこれ取材している風景をおいかけたフィルムを時間をかけて作って流すとか。
そういうことした方が効果的じゃないのか?(TV見てないので、もしすでにやってたら、すみません)
…と、まぁ、おばさんはそんなことも言いたくなるのであった。
そうそう、養子のお話ということで、今、新作のプロモーションのお手伝いをしている日向敏文さんが音楽を担当したこのドキュメンタリー思い出した。障害を持つ赤ちゃんをひきとる特別養子縁組の話。
じっくり制作されたとても良いドキュメンタリーで、本当に泣けた。こういう人たちがいるんだ、って。日向さんも泣きながら音楽作ったらしい。(あっ、すみません、日向さん。バラしちゃいました…)
そんなふうに制作に心を合わせながら作るなんて、最高のチームだよなぁ。羨ましい。日向さんもドラマのシナリオや締め切りに追いかけられていた時とは、全然違うんじゃないかなと勝手に想像する。
本当にこのドキュメンタリー素晴らしかった。またどっかでまた見れないかしら…→ とか書いてたら、7月16日(土)23時より再放送決定。NHKオンデマンドでも見れるようです。
日向敏文さんの新譜『Angels in Dystopia』の音が、昨晩からちらちらと公式インスタで聞くことができます。