谷崎潤一郎『独探』を読みました



先週は夏の文学教室に通いました。といっても結局2日間だけ。今年のテーマは「異文化を問い直す ことばの冒険、ちがいの発見」。

まずはこのブログでは何回も紹介している角幡唯介さんの講演を木曜日に。角幡さんのお話はいつも角幡さんのお話で、いつもの通りとても面白く、でも今回は1時間で終わってしまったので、先日の5時間(笑)から比べるとちょっとも残念。でもとても良かった。

今回チケットは終日有効なので、せっかくだからと続いて聞いてみた柴田元幸先生。実はお話を直接聞くの、初めてかも! これがめちゃくちゃおもしろく、「芥川が読んだ英米文学」というテーマだった。お話を聞いて読んでみようと思った作品も多く、のちほど紹介していければと思う。

そして土曜日は、今、絶賛マイ・ブームのグレゴリー・ケズナジャットさんが登場。お話は谷崎についてで、テーマは「越境者との遭遇」なんだけど、そこで紹介されたのが谷崎の「独探」という短編がなかなか興味深かったので、帰宅して速攻Kindleで購入してしまった。

最初わたしはお話を聞いていて「ドクター」だと思い、ずっとドクターとメモりながらお話を聞いていた。馬鹿だよねぇ。ちなみに「独探」はドイツのスパイという意味。知ってました?

なんか… ケズナジャットさんのタイトルって、私は読めないことが多い。そしてググって「あぁ、そういう意味なのね」ってなることが多い。私って、ほんと馬鹿というか、教養がなさすぎ。

っていうか、こう言うふうに日本語の古臭いところを出していくのがケズナジャットさん独特のユーモア???スタイル??なのか?(笑)

ケズナジャットさんの『開墾地』も最初は「これなんて読むんだ?」「どういう意味だ?」となったし、意味は実際ググるまで理解できなかった。ちなみに意味は「山林や原野を切りひらいた土地」という意味だそうだ。ひどいよね。私の漢字の読めなさ。教養のなさ。日本語のネイティブスピーカーに生まれたことにあぐらをかいている、とでも言おうか… とほほ。

ちなみに今日届いた「群像」の最新号に載っているケズナジャットさんさんの短編も『痼り』というタイトルだ。読めます? これ。私は読めなかった。どうやら「しこり」と読むらしい。はい(笑)

でもそんなことはどうでもいいのだ。とにかくケズナジャットさんの文章が美しく、読んでいてうっとり。なんというか、言葉ってすごいなぁ、日本語ってすごいなぁ、と。ケズナジャットさんにかかったら言葉で説明できないものって何もないような気がしてくるのだ。すごいよね。

で、谷崎ですよ。谷崎と言えば、私は『痴人の愛』しか読んでない。まぁ、それはそれなりに面白かったので、「ふーん、これが谷崎かー」と思ったのだけど、まぁ、それだけでした。

なんていうか、夏目漱石とか森鴎外とか、ほんと読んでも全然面白くないんだもの。日本の文豪って読む気になれないんだよね。なんか面白いの、あります?

そういう日本の名作って、ほんと苦手。確かに芥川の一部や岡本かの子はいいなぁと思う作品もあったけど。

そして私は三島すら読んだことないから、外国人と日本の話をする時のも、ほんとこまる。(三島の海外での人気は本当にすごい)村上春樹はエッセイは面白いけど、小説はとんとダメ。こちらも外国人の皆さんと話す時に困る。あ、宮崎アニメも苦手。私ったら、日本のこと普段どうやって説明してんだろ。はぁ、これで日本人と言えるんだろうか。

…そういうレベルなので、当然この『独探』という小説も初めて知ったし、そもそも『独探』という言葉すら初めて知ったのだけど、ケズナジャットさんの講演が面白く、とても引き込まれた。

たとえば「友人宅に遊びに行った時、一人だけ藤の椅子を提供されて、他の日本人は床に座るところとか…」みたいなお話が妙に印象に残り(外国人、あるある)、ケズナジャットさんがそこまで言うなら読んでみようかなと思って、帰宅して速攻注文しようとするが、すでにこれが掲載されている書籍はなく、Kindleの青空文庫的なもので読むしかない。

そんなわけで速攻ダウンロードして(こういうの出してくれてる人、ありがとう! そうじゃないともう読めないもの)、読んだ。2時間とかで読めちゃったかも。短い。ただ漢字が難しい。オーストリアとかイタリアとか、漢字で書いてある(笑)

なんというか、日本人の誰もになんとなくある「西洋コンプレックス」みたいなのが感じられる。面白いよなぁ。

実は私も… 昔は、といっても90年代の後半くらいになるまで、日本に住んでいる白人の外国人たちがどうも苦手だった。というかはっきり書いちゃうと、嫌っていた。彼らはたとえば同胞のアイルランドのバンドというだけで遠慮なくサンプル盤をねだり、コンサートに押しかけてきて「入れろ」と言ってくる。

そして男性たちはほぼ間違いなく綺麗な日本人女性をアクセサリーのように腕にぶらさげていた。もちろん、それはまったくもって、当時の私の偏見なんだけど。

そして彼らがこんな態度に出るのは、たまたま私が出会った彼らの性格がずるいこともあるのだけれど、日本人社会が本当に白人の外国人には甘いからだと常々思ってきた。

まぁ、それについては、もういまや偏見だと反省しているので、もうここには書かない。でもこの谷崎の感覚は、自分が見ている日本人社会に非常に覚えがあると思い、そんな気持ちのせいか、思いのほか楽しく読めてしまった。

あれこれの細かいエピソードが笑いを誘う。そもそもこの登場するGは最低の、いい加減男なのだ。

といっても面白いとはいえ、私にとっては谷崎読むよりも、次はケズナジャットさんの文章読む方がいいなと思ったり。

ちなみにケズナジャットさんの論文『谷崎潤一郎の<スパイ>小説 独探における越境者像』はこちらで、PDFがダウンロードできます。『独探』読んでから、こちらを読むと、理解が進むと思いますし、先のこの論文読んでから『独探』を読むのもいいと思います。

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谷崎潤一郎『独探』Kindleで安いよ!
群像9月号はこちら(私もこれから読む)
ケズナジャットさんの芥川賞の候補になった『開墾地』(名作! 装丁が素敵すぎる!)
でも私はこっちの方が好きかも『鴨川ランナー』(超名作!!)

というわけで、ケズナジャットさん・ブームは当面続きそうです。谷崎は…もう一冊くらい読んでみるかなぁ。まぁ、今じゃなくていいか。


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