いやーーー よかった。ものすごく良い本だった。ご存知お父さんがアイリッシュだったという小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンの人生を描いた本で、基本的にはフィクションなんですが、いや、こういう本はイキイキとその人の人となりを伝える。読んで爽やか。本当に素敵な人だな、八雲って。
八雲の子供時代は決して幸せなものではなく、そしてアメリカに渡ってからの貧乏暮らしは大変なものでした。本当にある意味、どん底から這い上がって彼は日本という地に辿りついたわけです。いやー この時代の人だからというのはあるけれど、本当にすごい人生だな。
でもって、奥さんと家族になっていく様が本当に素晴らしく、この時代の夫婦の在り方というのにもびっくりしつつも憧れてしまう。
いや、私だって結構古風な女なのぉ〜(みんなが「ドン引き」する音が聞こえそうだ)。
まぁ、あくまでフィクションなので、この本に書いてることをまんま受け取るのは控えたいのだけれど、八雲が愛したのは、なるほど松江と焼津だったんだね。この辺については、実はこの文章を書いている時点で、すでに読み終わっている次の本にさらに詳しい。
そして、まぁ、八雲が自分の著作で言っているように、日本が西欧化してしまうのを心から残念に思っているのがわかる。
また時々挿入されるハーンの思いが、なんというか、すごいんだ。めちゃくちゃリアルで、めちゃくちゃするどい。
たとえば、私が唸ったのはここ。松江の隣人の家族の話。心中したものの生き残ってしまった男性をかかえる隣りの家からは、家屋の壁が薄いため、彼が苦しむ様子や、家族が大変な様子も薄い壁を通して聞こえてくる。
でも最後にその男性が亡くなると、その悲しみも、本当に深い、と。あんなに家族を苦しめていたのに、そういった苦しみは忘れてしまい、その人の死を嘆く。
そこで著者のするどい一文。「ハーンは思った。もしかすると人間は、己を最も苦しむ人や物を、最も愛しているではなかろうかと。
…この一文を読んだ時は震えた!! これって、めちゃくちゃ本当だと思いませんか? 幸いに私を苦しませるものは、ほとんど何もないけれども、この構図、みなさんの身近でも見られませんか? ほんとだ、人間を一番苦しませるものを、みんななぜか一番愛している。
いやーー 真実ついてるわ…
そして日本人の恋愛観などについて。これもするどい。「セツによると、日本における典型的ヒロインとは、完璧な母親か、家族のためならすべてを失うことも厭わない孝行娘か、あるいは夫の戦場へ付き添い、自らを犠牲にして夫の命を救う貞女というようなものが多いとのことだった」
「日本における立派な女性とは、決して表に出ないこと、また見せびらかしの立場に置かれないことであり、男性にといては、他人の妻や娘に、直接賛辞を述べることは比例にあたるので、まちがってもやってはいけないのだ」(人前で奥さんを褒めたり、愛情を表現してはいけないことを言っている)
「日本人が反論しない時、それは同意してくれているものとハーンは思っていたのだが、それはまちがいだった」
「彼らはハーンのまちがった考えをただ許しているだけで、愚かな外国人を甘やかしているのか、反対するのが恥ずかしいのか、それとも反論するのが失礼にあたると思っているのかはわからないが、とにかく、そのような思いで、黙って微笑んでいるのだ」
「自己犠牲という美学と、恍惚とした忠義が日本人に根づいている証拠だと、あとになって八雲を理解した。それは、まるで自らの属する共和国のために身を捧げるアリの群れか、女王に対する忠誠を貫くミツバチのようだったが、きっとそのような精神が、日本人の血の中に流れているのだろう」
うーーーーーん、するどすぎて唸るよ。日本人を見る外国人の目もよく描かれている。というも当然。
なんと著者は80年代に日本に住んでいらっしゃったというアイルランド人の方。彼女も日本にやってきて日本人を発見している立場の人なので、ハーンの日本人に対する思いを本当にヴィヴィッドに共感できるらしい。そして、その感覚を見事にこの本で描き切った。
この感覚はおそらく彼女とハーンが、時代を超えて、日本という場所に同じように共鳴しながら、共有している気持ちなんだろうなぁと、しみじみ。
また翻訳された小宮由さんがすごく上手なのも、この本をさらに魅力的なものにしている。翻訳がわかりやすいのは、普段は絵本を専門にされている方だからなんだろう。なんか女性の翻訳者かなと思ってたら、男性だった。
さらに解説もすごく親切で丁寧に、このフィクションと史実の違い(富士山に登った時期や同行者など)を解説してくれている。(これは本当に親切だと思う!)
というわけで、この本素晴らしいので、みなさんもぜひ。
その八雲が愛した松江で、こんなイベントがあります。Matsue Irish Film & Music Festival。詳細はこちらへ。
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そしてもちろんFLOOKの来日もぜひお忘れなく。こちらもよろしく。詳細はこちら www.mplant.com/flook
春のケルト市については2月に詳細発表予定です。