硬派な装丁である。角幡本の中でももっとも硬派な装丁と帯キャッチかもしれない。が、その内実は…。めっちゃ面白い本なのであった。えっ、「面白い?」? それについては後述。
気がつくと、読書のために使っている読書ライトを煌々とあびながら、寝落ちしてたりする。やばい。
で、角幡さんの新刊。簡単に感想を言うと、ついに角幡さん、この領域にきたかという、そんな感じがした。
角幡さんは要は原始人に憧れているんだな。何も情報がなく、わからなかった時代に、自分の能力だけで勝負してみたい、みたいな。違うかな?
今回の相手は日高山脈。登山口みたいなところまではタクシーを利用したりするのだが、山に入るとそこからは、まったく地図をもたず、まっさらな感覚を研ぎ澄まし自然にいどんでいく。
なんというか、わざわざこんなことして、バカだよなぁ(褒めています)しか感想が浮かばない(笑)。しかも地図がないから、自分で勝手に土地にネーミング(笑)しながら、角幡さんの探検は続く。
このネーミングが、真面目にやっているのだけれど、なんだか可笑しい。思わずクスリと笑ってしまう。
でもね、角幡ファンならわかっている。探検家が発見するのは「場所」ではないんだ。探検家が発見するのは、「人生の真理」なのだ。そう、人生なんて、そんなもんでしょ。そう思えばこの感覚は私にも理解できていると読みながら確信してしまう。
しかし、途中、一般人に出くわしてしまうのが、北極とは違うところ。一般人に出くわすと、なんか妙に角幡さんも読者も、ぐいっとリアルに引き戻される。あ、そうだった、ここは日本だったみたいな。
出会った人たちは、みんなかなり親切で、角幡さんを車に乗せてくれたりする。彼らの反応や、角幡さんがその人につけるニックネーム(笑)、そして「You Tuberですか?」には笑った。とにかく人が出てくると、なんだか読んでいる方もびっくりする。
そうやって出会った人々は自分が本になるということ、そして出会った相手が「あの」角幡唯介だということを分かっているのだろうか。分かってないから、面白いんだよな。
そうそうカヌーの山口さんが出てきたところから、本のすべてが加速しドライブしていくのが、すごい。山口さん、すごい。そう、あの山口さん。あのセイウチに北極の海に引っ張り込まれそうになった山口さんだ。角幡さんは山口さんを見捨てて逃げ出したんだよな。その後ろでセイウチに本当に食べられそうになった山口さん(笑)。
二人でつるんでいるのが、なんだか可笑しい。二人の様子からして、もう笑える。そして、二人とも天然でバカだよなぁと思う。何度も言いますが、褒めていますよ。褒めています。
実際、羨ましいなぁとも思うんですよ。とにかく、この本、角幡ファンから見たら、めっちゃ「おもろい」んですけど!!!!
なんか普通、角幡さんの本って、どんな本の中でも、狙って面白く書いてるところがあるのだけれど…… 例えば「極夜行」とか。あくまでシリアスな中に、おもろい部分があって、そこは真面目すぎる本に笑いのスパイスを加えているという、角幡さんとしては読者サービスみたいな?(笑)違うか??? そんな箇所がいくつかあった。
それが正しいか間違っているかはともかく、私の認識としてはそういうことなんだけれど、この本に置いては、おそらく狙ってないだろと思われる部分でも、めっちゃ可笑しいのだ。なんでだろ。っていうか、角幡さん、超自然にこれを書いている。
つまり天然? 角幡さんって天然なのかも?? そりゃそうだ、自然に溶け込み、一体化しようとしている人だからな。なんか「え、野崎さん、それ今わかったの?」という他の角幡さんファンの声も飛んできそうだけど。
角幡さんが勝手に土地につけるネーミングからして、なんかふるってるんだ。それはまるで八つ墓村伝説の、鍾乳洞の地図の名前みたい? 「お前の生まれたところは竜の顎っていうんだよ」的な。(from 八つ墓村)
そうしたいい加減なネーミングにも角幡さんなりの意味があり、原始の人はこうだったんだろうなぁ、という想像がふくらむ。それだけのことなんだが、すごくいい。なんかこうモヤモヤしていた視野がパーーーっっと開けるような爽快感もある。
そして、こういう探検・冒険がさらに進んでいくと、一気に旅の目的が「食べる」方に進んでいくのがこれまた人間の本能なのか。だんだん行動の目的は、土地の探検よりも、釣りの楽しさの方へと変化していく。そこもなんか妙に良い。
最後は角幡さんによる日高の地図が出来上がって、この本は終わる。良い終わり方だ。狙ってたのかはわからないけど、(いいや、狙っていないな、天然なんだ、そんなところも)妙なカタルシスがある。
角幡さんはまたこのお正月から北極らしい。次の北極本は、これまたどうなるのであろうか。お気をつけて。また新しい本を期待しています。
北極といえば、久しぶりにこの映画のことを思い出した。また上映したいなぁ。自主上映、お待ちしておりますよ。詳細はこちら。