ペリマンニはしゃべらない。余計なことはいっさいしゃべらない。そしてペリマンニはおそらく心の奥の方では「女子供に音楽が分ってたまるかい」と思っている。男女平等が徹底された(というか、どちらかというと女の方が強い)フィンランド社会においてペリマンニは特殊な存在だ。いつも黙ってとにかくもくもくとヴァイオリンを演奏する。例えばペリマンニ同士なら言葉など一切必要としない。ボウを手にとり一緒のメロディを奏でるだけで、喜びも悲しみもすべて共有できるからだ。
たとえばこの曲。こういう曲はペリマンニにしか書けないんだよ。ほら、そことなく流れるユーモア。この音符のスイングする感じ。弾いているだけで笑っちゃうだろ? だけどペリマンニはそんなことをいちいちと口にして素人の連中に説明するのは格好の悪い事だと思っている。これ面白いだろなんて相手に確認したとたん、面白いものも面白くなくなるのさ。だいたいそういうのはペリマンニの美学に反するんだよな。ユーモアは分る奴にだけ分ればいいんだ。
などと思いにふけっていたら、「ちょっっとっっ、あんた何やってんのよ! 今日の料理当番はあんたでしょっっ!」と妻の怒号が部屋の奥から聞こえる。そうだっけ。ウチの父の代はそんなことはなかったのだけど、今のフィンランドでは家事をちゃんと公平に分担しないと離婚されちゃうんだったっけなぁ。現代のペリマンニにとってフィンランド社会は必ずしも居心地の良い場所というわけではないのだ。しかたがないのでヴァイオリンを置いて、ペリマンニはいそいそと台所へ向かうのであった。
……とペリマンニが心の中で思っているかは、誰にも分らない。何せペリマンニはしゃべらないから。この物語はフィクションです。
ペリマンニの美学に触れるなら、JPP、そしてノルディックトゥリーの音楽がおすすめです。が,この物語はメンバーの誰かをモデルにしたわけではありません。