ルナサ・ストーリー5

ファーストがそこそこ売れて、私のレーベルも順調に運営できるようになった中、ルナサからの連絡は途絶えがちになった。メルダックの担当に変わって、無理矢理ベッキーの携帯に電話をしたりしていたのだが、ベッキーはいろいろ難しい仕事が重なり、どうやら自己破産的な状況においこまれてしまったらしいのだ。それは……実はうんと後になってから具体的に知ることになるのだけど。

バンドを離れて自分の体制をたてなおさないといけない。大きな交通事故をして死にかけたから、もう自分の好きなことしかやらない、と言って、ルナサを頑張っていたベッキー。ベッキーはルナサを「my band」と呼べる唯一の存在だったと思う。でも後で聞くと、それなりにバンドとも問題もあったらしく、バンド側としても「しばらく離れた方がいいだろう」という結論になっていったらしい。未だに詳細は知らないが(まぁ、そういうのは、離婚の理由を聞くようなもんですから私もつっこんで聞いてない)、とにかく彼女の新しいバンド(しかもアイリッシュの)を立ち上げるときの苦労たるや、計り知れないものがある。だからしばらく私はどちらかというとバンド側よりもベッキーに同情的だった。

そんなわけでバンドとの連絡はトレヴァーの家へのファックスが中心となった。メールはまだそれほど普及していなかったのか、もう記憶もあやふやなのだが、当時のファックスは結構今でもキープしてある。もっともそれを懐かしく眺めるのは老後の楽しみに取っておくとして(笑)。

そんな中、ルナサのセカンドが発売になった。バンドだけになっておそらくアップアップになったルナサは、そのサンプルを私に送るという基本的な行為すらできるはずもなく(もっとも彼らによるとレコード会社にヨーコのところに送るように、とは指示はしたのだそうだ)、実は音をもらったのは当時配給をお願いしていた(今でもお願いしている)メタカンパニーさんからだった。そして非常なことにメルダックはセカンドアルバムは出せない、と言ってきた。あんなに泣く泣く息子をくれてやったのにっっ!! となると自分でやるのか?>自分? アメリカからのリリースだから輸入でやるとしたらアメリカから輸入しないといけない。今までみたいにトレヴァーにメアリーのオフィスに持っていっておいて、などと言うことは出来ないのだ。もっとも、この頃になるとすでに私は輸入通関業務についてはMSLという会社のM本さんという非常にデキる女性と出会っていたので、全世界どんなところからでも荷物を運べる自信はあったのだが。前にも書いたようにスケールを大きくしないとメリットのない輸入業務。アメリカだけでバックオーダーをさばけるのだろうか。初回はともかくバックオーダーの100枚、200枚くらい輸入しても赤字になるだけだ。ちゃんとスケールメリットを出さないとビジネスとして成り立たない。とにかく自分自身も、あまりにビジネスを広げることも乗り気ではなかった。(とか、言ってられない時代がすぐに来ることなど、この時点では全く知らず)

ルナサと契約したグリーンリネットは、もうすでに斜陽の時代を迎えてはいたものの、アメリカ発で全世界のケルト音楽を牛耳っているようなレーベルだった。ルナサはアメリカを重要なターゲットにしていたので、この契約は納得できる。が、いったい私はどこからCDを取れば良いのか。グリーンリネットはすでに日本にも何社か拠点があるらしく、たくさんのサンプルを日本のレーベルや配給会社に送りつけたらしい。が、それでもこの時期のルナサを拾う人間は、日本で私だけだったんだよね。メタカンパニーの担当者、今でもご恩を忘れないのが、深沢さん(現在では退職)がくれたルナサの「アザーワールド」のサンプル。聴いてみたら内容はもちろん良かった。私はどうしようかなーと思いつつも、深沢さんが強く薦めてくれたから、あの時やる決心がついたのだと思う。とにかく相当迷った。あと結構心を動かされたのに、Thanks Creditに自分の名前が書いてあったこと。そっか、メンバーも一応は私の存在に感謝してんだとポロっと思った。もっともビジネスセンスのあるバンドだったら、まずは自分の各テリトリーの拠点の人間に自らサンプルを送ってくるもんだろうけど、当時のルナサにはマネージャーがおらず、ほんとにアメリカとのことだけでアップアップだったに違いない。ホントこういう事はアイルランド系のバンドには非常によくある事なので、いちいち腹をたててられない。また腹をたてていては、良い音楽を失うだけである。

今でこそ日本先行発売とか仕込んでいるのだけど、当時はもうすでに私が迷っている間に、すでに店頭にはアザーワールドが並び始めていた。このときちゃんとバンド側がグリーンリネットに紹介してくれたか、それとも私が普通にグリーンリネットに飛び込みでメールしたのかは忘れてしまったが、とにかくグリーンリネットに連絡がつき、「アザーワールド」はウチ始めてのアイルランド以外からの輸入盤として取り扱うようになった。これは、今でもびっくりするくらいよく売れた。特に気の利いたプロモーションをしたわけではない。とにかく内容が良かったからだろう。4人になって、マイクとジョンがゲストとして入っている、今思えば中途半端な内容だが、何より楽曲が良い。



(6に続く)