「明日の広告〜変化した消費者とコミュニケーションする方法」

さとなおさんを知ったのは何時の頃からか、すっかり忘れてしまったが、割と最近の事である。たぶんLoops TVの第1回のゲスト(さとなおさんは21分過ぎに登場)を拝見した時かな〜。とにかく私は割と新参者ではあるが、熱心なさとなおさんのサイトのファンである。さとなおさんは元電通マンにして、グルメライター。コミュニケーションデザインを主な領域とするクリエイティブ・ディレクター……というか、なんでも屋さん(笑)。そしてこの本を読むまで知らなかったのであるが、さとなおさんのサイトは、定期的に更新される個人サイトが日本にまだ10コくらいしか無かった時から存在していたんだって。ファンが多いわけだ! とにかく、そんなマルチな方なのである。最近では3.11の救援情報サイト「助けあいジャパン」、震災後に日本政府が出した海外大手新聞への「絆に感謝します」というお礼広告などの仕掛け人でもあるのだ。

そんなさとなおさんのブログをほぼ毎日読んでいたのだが、そういや肝心の著作を読んでなかったわな。いうわけで、今さらながら手にいれました「明日の広告」佐藤尚之(これがさとなおさんの本名)。

私はビジネス本はちゃーっっと斜め一気読み。文学はじっくり味わって、という読書スタイルなので、今回はビジネス本のつもりで、ちゃーっっと読み始めたのだけど、読み慣れたさとなおさんの文章だからかもしれないが。するすると心に入っていき、実はどんな文学よりも非常に感情移入して読んでしまった。というか、ちゃーーーっとなんか読めない本である(笑)

この本によると「広告は消費者へのラブレター」のだというのである。確かにそうだ。そう考えると分かりやすい。そして昔はラブレターを普通に消費者が受け取ってくれていたのだという。ラブレターは相手の手にも渡りやすく、そして他に楽しいことも少なかったので、ラブレターはとても喜ばれた。渡したラブレターはちゃんと読んでもらえた…のだと言う。ところが今やラブレターがうまく消費者に手渡ったとしても、そこに書かれているくどき文句を信じてもらえなくなり、しかも消費者はラブレターの内容を友達と吟味し、友達に判断をまかせたりしているのだ! そんなすごい時代になってしまった。

と、まぁ、広告は発想の転換を求められる時代になったのだ。そういう事が非常に分かりやすく書いてあって、いろいろ目ウロコな箇所がたくさんあったわけだけど、そんな中で何より私がいちばん感動したのは、バスケットの漫画の感謝広告の下りである。

すみません、わたし、ホント世間にうとくって、このバスケ漫画「スラムダンク」のことをまったく知らなかった。しかも新聞もTVもろくに見ないから、同じく、さとなおさんが仕掛けた星野監督の広告の事もまったく知らなかった。つまり簡単に言ってしまえば「感謝広告」なんだけど、こういう広告の使い方があるんだ!とまったくもってビックリしたのだわ。私は広告は「商品を売るためのもの」だけだと思ってた。だけど違うんだ、と。こんな風に消費者と商品と広告主が一体化するのが広告なんだ、と。それって当然のことっちゃ当然のことなんだけど、その本質が今、とても忘れられている! そしてさとなおさんのクリエイティビティは広告だけでなく、Web、そしてリアルなイベント、フォトブック、DVDなど広がって行く。

このプロジェクトは、単行本がなんと1億冊突破したという、人気バスケ漫画のお礼キャンペーン。「スラムダンク 1億人感謝キャンペーン」。広告主は漫画家である作者の井上雄彦さん。そして、この徹底した感謝のキャンペーンが出来上がる過程。まるで自分がミーティングに参加しているみたいに熱く燃えてしまった! 

「買ってくれてありがとう」じゃ嫌味だろう。「応援してくれてありがとう」じゃないだろう、もう8年前に連載は終わってんだし。星野監督の広告でやったみたいな大きな声の「ありがとう」ではないだろう。もっと分かる人にしか分からないものでいいのじゃないか。さとなおさん、作者の井上さんを中心に9人のメンバーが、それぞれ意見を出し合っていく。そしてブレストを重ねに重ねた結果、ついに「このスラムダンクは(作家である)井上さんのものではなく、読者のものだ」という突破口が見えるのだ。

いや、この言葉が出たときは思わず泣けてしまった! 大げさだけど、ホントに! そしてそこからは次々にやるべきことの内容がパーーッと見えてくる。その結果がこれである。そしてこの広告だけではなく、専用のウェッブサイト(このアイディアがまた本当に素晴らしい)、そしてマニアックな人にしか分からないイベント。廃校で黒板に井上さんが漫画を書いて行ったとか……読者の喜びを想像するだけでも鳥肌もんだ。そういったものが次々と組まれて行く。

いや、広告/キャンペーンってこういう事なんだね。クリエイティブってこういう事なんだね。本当にすごい!!

普段、ウチはお金がない〜お金がない〜といいながら、自分のアーティストのプロモーションを必死で行っている。広告に使うお金はほとんどない。というか皆無。今まで広告打ったことは2度くらいしかない(笑)。CD屋さんの有料ディスプレイは、ほとんど拒否。プロモーションと言えることといったら、せいぜい普段応援してくれてる音楽評論家の先生方に資料を送ったり、インタビュー取ってもらったり、ライブをみてもらってライブ評を書いてもらったり、そんな程度だ。戦略的な事なんて何もできやしない。でも、この本を読んでいたら、いや、もしかしたら予算がないなら、ない中で、もっと何かできることがあるんじゃないか。そう思えるような気がした。まだそれが具体的に何かは分からないけど。

でもって、この『読者の応援に感謝し、その感動をさらに確固たるものにする』という感謝広告というもののあり方に本当に心から共感した。と,同時に感謝広告みたいなものだったら、ウチももしかしたらすでに無意識のうちにやっているのかもしれないと思った。コンサートに来てくれたりCDを買ってくれたお客さんに感謝するいちばんの方法。それはやはり「お客さんの信頼を裏切らないクオリティの高い音楽を紹介し続けること」これに尽きるのだと思う。

ちょっと自画自賛すぎる? でも苦しい事業を振り返ってみても「お金があったら広告が打てるのに」とか「自分が大きなレコード会社だったら、アーティストたちに大きなタイアップを持ってきて上げられるんだろうか」とか悩んだりすることが皆無とは言えなくはないが、それでもそこに必要以上にこだわり立ち止まることをせず、前をむいて進んでいられるのは、そういう事なのじゃないかと思う。続けていく事、期待を裏切らない、もっと良いアーティストを紹介する事こそ、私がお客さんに対して書いている熱意のあるラブレターなのだ、と。

そして、これはどんな職業にでも言えるんじゃないか、と。「まったく割にあわない」とさとなおさんも書いている。こういうのは長い時間のコミットが必要とされる。ほんとに割にあわない。でも「やって良かった!」と思える。そういう感動は、その分、いつでもそこにある。

それにしても、メジャーおよびマスメディア大嫌いな自分にとって、電通マン(この頃はさとなおさんも会社員だった)なんて「ケッ!」みたいなもんだと思ってた。クライアントにヘラヘラしてお金のある奴がバカでも勝つ世界だと思ってきた。でもさとなおさんの仕事の世界はすごいと思った。本当に夢があっていいと思った。だから不思議と「全面広告とか、お金があっていいな」というヒガミみたいな気持ちが起こらなかった。そこが自分でも新しい発見だった。ま、さとなおさんだからな、と言うのはもちろんあるのだけど(笑)

「明日の広告」は3年前に書かれた本で、今はだいぶWebの世界も変わってしまった。でも、すでにTwitterの現在の盛り上がりを予測している部分もあったり、この本は今、読んでも本当に読み応えがある本だと思う。っていうか、あなたがどんな職業についていて、どんな風に迷っているとしても、絶対に読むべき本だ。そしてあなたの仕事における「(お金を使わない)感謝広告」はどういうものかというのを考えてみたら、ちょっと仕事の別の側面が見えて、自分の仕事が面白くなるかもしれない。

さとなおさんは、なんと今、続編を書かれているそう!! 楽しみ。


ところで野崎はなんと今日、早稲田大学で女子大生200人くらいを前に「好きなことを仕事に」みたいな内容の講義してきた。もう、みんなキラキラしてすっごく素敵だった。さっそくTwitterで交流してますよ。早稲女の皆さんと〜。いいな〜、若い子っていいな。私も若い人の役にたちたいんだ。最近、すごくそれを思う。そんな話は、また明日のブログで。


<参考リンク>
さとなおさんのホームページ
さとなおさんのホームページより「明日の広告」
さとなおさんのこんな記事見つけた! これは勉強になる。プレゼンの極意!