ポール・ブレイディ来日までの道のり11:ジェリー・ラファティの死

というわけで、もうすこしひっぱろうと思ったのですが、ポールの歌う「Baker Street」がBBCのホームページにあがったところで、このネタの続き行きます。まだまだ紹介したいポールのものすごく濃いインタビューとか、いろんなエピソードがたくさんあるので。

つまり私はもうずっとポールに来てほしいと思っていたのだけど、焦ってもしょうがないなという考えはあった。ところがチャンスは意外なところからやってきたのである。

まずは、この曲を聞いてほしい。ジェリー・ラファティーのヒットといえば、これ。「Baker Street」。実際たいした曲じゃない。ポールのどんな捨て曲だって、この曲の100倍はいいと思う。だいたい今こうして聞いてみても覚えているのはイントロのサックスソロくらいで、本編の歌のメロディなんてまったく覚えちゃいないよ(笑)。

しかし。ジェリー・ラファティーに対するポールのライバル心といったら、ただごとではないのだ。ジョンストンズとハンブルバムズは何かと比較されていたし、歳も同じだからからもしれない。ジェリー・ラファティーの「Baker Street」での成功が、ポールに伝統音楽を捨てさせ(それだけじゃないけどね)、自分にもシンガーソングライターで活動していこうと決意させたのだから。

確かに「Baker Street」は割と誰でもが知っているヒット曲になった、でもそれだけだ。彼が結局一発ヒットで終わって、人生の後半はボロボロになり、アルコールに苦しめられながらひどい生活をしていたのにもかかわらず、ポールは彼に対するライバル意識を失っていないようだ。ポールといえば大きなヒットはないものの、これだけ多くのミュージシャンや音楽ファンの尊敬を集め、印税で立派なお城みたいなお家も建てて、家族の愛情にも恵まれ素晴らしい人生を送れているというのに! それでも長年のライバルのことはやはり気になるんだね。そしてライバルには負けたくないが、向こうにも元気で活躍してもらいたいという複雑な心境だったのだろう。実際のところポールの気持ちは分からないし、私もこの件ではポールとちゃんと話をしたことがない。というか、ポールから話し出してくれるまでは、ちょっと聞けないよね、やっぱ。

ジェリー・ラファティーが亡くなって、ポールは相当落胆しているようだった。ちょうどそれは昨年の1月の頭で、私はグレン・ティルブルックとツアーをしていた。このタイミングも良かった。グレンのことはポールともよく話す。「グレンもお寿司が好きよ。ツアーは二人で地味にやってるけど、熱心なお客さんもいるし、なんとか続けていけている。いつも美味しいお寿司食べたりしてすっごく楽しいわよ」と私は事あるごとに話をしていたのだ。ポールもグレンみたいに、せめて2年に一度は来てくれないものかと心から思っていたから。

ポールはFacebookが結構好きでマメマメと自分でもアップするし、人の投稿もチェックしているのだが、私がグレンとのツアーの写真をFBにアップしているのを見て、気になるんだか、何だか、とにかくチョコチョコと私のつまらない写真にコメントをつけてくる。つまり私がグレンとツアーをしているのを見ててくれている、という事なのだ。私がずっと言い続けたことを覚えていてくれるんだろうか。私はそんなポールのコメントに返事を書きながら「言うなら、今しかない」と思った。

今しかない。グレンとのツアー中で睡眠不足だったけど、私はポールに長い長いメールを書いた。「ポール、誰にだって残された時間なんて、あまりない(もちろんジェリーも死んだし、なんて直球では書きませんよ)。日本に来てよ。今からやったって、あなたの年齢じゃ申し訳ないけど、あと3回できるか分からないわよ」「お客さんの数は少ないから、あなたは満足してくれないかもしれないけど、とにかくお金のことはなんとかするから(あぁ、言っちゃった)、ゆっくり日本に来て、そして毎日美味しいものを食べよう」「一緒にお寺とか散歩しよう」

これは珍しい。ちょうどジェリー・ラファティーが亡くなったばかりの時。ポールの歌う「Baker Street」。Transatlantic Sessionsにて。音はひどいけど、このステージのバイブレーションは伝わると思う。



ジェリー・ラファティーメモリアルコンサートのメンバー。ロンちゃんもいます。BBCのサイトではロンちゃんの映像も見れるみたいですよ。