映画「シュガーマン」を見ました



数日前に話題の映画「シュガーマン」を見ました。

この映画,ホント素晴らしいですよ。ただ私は手放しで感動とはいかなかった。とても複雑な気持ちになった。アメリカでまったく売れなかったアーティストのアルバムが遠く南アで受け入れられ実は70年代、かの地で大ヒットしていた。思い入れた連中が彼のことを探し出し、彼を自国へ呼びコンサートを作る。自国では得られないような熱狂的な歓迎を受けるロドゲリス…というストーリー。でも彼はそのまままた自国へ戻るとアメリカで普通の暮らしを続けるのであった…

そうね、ジャーニーのプロパガンダ映画より、よっぽど素晴らしい作品です。スウェーデン人の監督が低予算と戦いながらも作った。分かります。確かにすごい話だもの、これは。映画にしたくなった気持ち、分かる!

ロドゲリスのこの奇跡(?)に感動する人がいるのも分かります。みんな夢を求めている。でも、み〜んな、ちょっとはしゃぎすぎじゃないの、というのが私の正直な感想。唯一の救いは本人が地に足がついていること。醒めた目で見ていること。凛とした態度でいること。アカデミー賞の授賞式にもあらわれず、映画の製作には懐疑的で、自らは8分ほどしかしゃべらなかったというロドリゲスはインタビューで「娘たちがあんなにこの映画に参加しているとは知らなかった。彼女たちが嬉しそうに話しているのを観れたのがこの映画のハイライトだ」と発言していたそうですから、まったくもって素晴らしい。その娘たちの発言もしっかりしていて、みんな立派に育ったんだというのもよく分かる。

そして、映画の感想をググってみれば「ディランよりすげぇ!」とか騒いぐ人もいる。「無名男の逆転人生!」とか言うキャッチも見た。こんな風に評価されて彼が「俺は勝ったぜ、やっと勝った」と思うとでも思っているのか? 「新作が待たれる」とか言うコメントもなーーんも分かっちゃいないな、と思う。そういうのを見つけるたびに、私はどんどん醒めていく。

音楽の場で、いや音楽の場でなくても、自分の仕事とか、やっている事で、こういうのの当事者になった人じゃないと分からないかもしれない。何かを自分でやろうとした事のない人には理解されないだろう。自分で何かやろうと行動すると、いつだって世間は味方なんかしてくれない。この彼だって一番聴いてほしい時、誰も彼の音楽を聴こうとしなかった。あれだけのメッセージがこもった曲を書く人だ。そして何度も地元の選挙にも立候補した、という人だ。世間に言いたいことは山ほどあったに違いない。そして自分の力で世間を変えられると思った事もあったに違いない。が、残念ながら、世間はそんな彼をまったく相手にしてくれなかった。一番彼が世間に聴いてもらいたかったときに、世間は彼の声に耳を傾けなかった。

きっとウチのアーティストたちもそんな結果になることはほぼ間違いない。彼らがいなくなったり活動を止めたあと、彼の音楽はほぼ間違いなく高く評価されるだろう(と断言しておく)。が、今、彼らが日本で活動していく、その現状は非常に厳しい。音楽の内容は他の誰にも負けてないと思うのだが、コンサートはいつだって小規模だ。この前来日してたポール・ブレイディとか、まったくそんな調子だ。あと2回来日できたら奇跡だろう。そしてすべてが終わった後に世間は「知らなかった。コンサートに行けば良かった」とでも言うんだろうか。

音楽やこの仕事だけじゃない、言いたい事がある人、そして自分で行動を起こした人、世間の厳しさを知っている人、そういう人なら、この映画に対して手放しで「良かったね」なんて言えないと思う。

万が一、ホントに金銭的な成功がやってきたとしよう。そしたらそれはそれで自分なりに折り合いをつけないといけない。「昨日まで世界と戦ってきた自分は死んだのだ」 それが世界なのだ。音楽はいったん発表されると、それはアーティストの手を離れ、消費されていく。人々の勝手な思い入れを受け入れながら。それが悪いこととは言わない。それによって私も食べている一人だから。残念ながら。音楽は消費され、夢は消費され、そうやって人々は通りすぎていく。そんな感覚の中で、自分は一人で戦う戦士だ。家族だって分かってくれる人はほとんどいないケースが多い。

だから。私は自分だけはせめて自分がかかわり合ったアーティストの傍らに居たい、なるべく居られるよう努力しよう、と思ったのでした。そして、そういう世界と折り合いをつけるには、山口洋が言うように徹底的に自分だけは良いヴァイブレーションを出しつづけること。それが答えなのだ。というわけで、こんなブログを書いている暇はない! とにかく頑張るのだー! そこに答えはある…と信じたい。

ところでこの映画、東京では有楽町の角川シネマで上映している。ビックカメラの会員カードでなんと1,300円で観れたりするのだ。私のこんな「斜め」な感想はともかく、素晴らしい映画ですから、ぜひたくさんの人に見てほしいと思う。

PS
この映画、なんで嫌いか分った。私はまだ個人が世界を動かせる、と考えたいんだ。この映画は世界が勝手に騒ぎだした。本人の思いとは別に。それがイヤなんだ。一時は政治家にまでなろうとした彼だから、きっと自分が世の中をなんとか出来ると思っていたに違いない。