土屋アンナさん、舞台降板に思う…

またもや時事ネタで失礼。土屋アンナさんの舞台が急遽中止になり、それはアンナさんの恵子不参加が原因、法的処置を講じる、と公式ホームページが発表したことが波紋を呼んでいる。「損害賠償を含む断固たる措置を…」などとしているそうだが、それが今朝になって一変、こんな舞台野原作者である濱田朝美さんがブログでこんな投稿をしたことが分かり、状況がガラリと変わった。

それにしてもこういうトラブルは時々芸能界とかエンタメ界で起こるのを目にする。コンサートだって映画製作だって、大変なのに、舞台なんて事になればアーティストはこうしたい、マネジメントはこうしたい、イベント主催者はこうしたい、お客はこんなものがみたい、ステージマネージャーはこうしたい、PAのスタッフはこうしたい、…それぞれがプライドと意地とエゴのぶつかり合いだと想像する。本当は集まったチームで、そこからベストなものを作り、世に送りだすのがプロなのであるが、なかなか実際はそんなに上手くいくとこはない。

いや、エンタテイメント界に限らない。すべのプロジェクトは、いろんな立場の人がからみあって、その上にふわふわと浮かんでいると言って間違いない。それぞれ視点によって見方も違うし、自分がきちんとケアされなかったと言って怒る脇役アーティストもいれば、重要でないスタッフでさえもいる(!)。

そういや友達のスタッフで「私を紹介してくれなかった」と言って怒るスタッフがいたそうだ。アシスタントならアシスタントでアシスタントの立場がある。もちろんすべてのスタッフがちゃんと名前覚えてじっくりできるような現場だったら理想だろう。が、お金が湯水のようにあるようなら企画はともかく、実態は壁に貼られたタイムテーブルとの勝負。いちいち末端のスタッフまで紹介している時間はまったくない。素人で現場経験が少なく、自分に自信のない人こそ、現場がより良くなることではなく、自分が何をしてきたか、自分が何をできるかをアピールしたがる。私自身も自分の若いころを見返せば、それを学ぶのにしばらく時間がかかった。でも優秀な先輩がたを見ていて学んだね。出来る人ほどホントに謙虚なんだ、と。出来る人ほどエゴを捨てて現場に自分を投下できる。大事なのはアーティストとお客で、スタッフではないんだ、と。

いろんな人がからんで制作されているから、それが普通であり問題があって当然であり、それが「現場」の持つもともとの性格だとも言えるが、私は制作側としてはアーティスト側(原作者/俳優)をきちんと納得させ、言葉は悪いがまるめこんでこその制作側だと思っている。世の中アーティストという人は、いろんな意味で難しい人が多いし、社会人として何か欠けている人も多い。もちろん難しくない人ももちろんいるし、逆に難しくしないことだけで要領よく世を渡っている人も多いが、私の知っている彼らは人一番デリケートで繊細な人たちだ。じゃなければ、物を表現することなんて出来やしないのだ。そのアーティストをしっかり説得して、お客さんの前にもってくるが出来てこその制作側だと思うのだ。だからアーティストと揉めたり、スタッフとしてアーティストの味方になれない、というのは、それだけで私はなんか間違っていると思うのだ。

もちろん同情はする。きっと繊細な上に熱血でピュアな人たちなんだろうと思う。でもそういう彼らの気持ちを届けてこそ、の企画なのだ。そこが無い企画なんか、最初からそもそもお客の心に届かないと言ってもいいんじゃないか。そんな企画当たらないよ。当たるとしたら、それはお客を馬鹿にしている。

私が作っているコンサートの企画もそうだ。1つの公演にかける力を100だとしたら、企画を発表した時点で80は終わったと思って良い。内側にかける労力の方が外側にかける労力(お客さんやメディアなど)の何倍も大きかったりもする。

もっともウチはよく知らない人をプロモーションしたりすることはマレだし、アーティストと揉めたりすることはほとんどない。アーティストの味方についてアメリカの会社と喧嘩したことはあるけど、それも今や彼らが会社をたたみ、私が今もこの仕事に着いていることを考えたら結果は明らかだと思う。アーティストと揉めなかったとしても、会場や関係者との打ち合わせとか、ツアーをどうやって安く経費内で成り立たせるとかについては、ものすごく力が使われる。

さらに言えば、実は打ち合わせより自分の中でツアーのアイディアや良い企画を見つけ出す方に、うんと時間が取られる。でも北尾トロさんが言うようにアイディアは空からふってくるので家で一人で考えていても、まるで進まない。外に行って人と話したり、映画をみたり、美味しいものを食べたり(これは違うか?)してこそ、浮かんできたりするものなのだ。これに時間がかかる。時間はかかるけど、この仕事においてはもっともロマンチックなプロセスでもある。

そんなわけでウチもツアーがない夏は毎年こんな感じで静かにしているけど、公演がない時のほうが打ち合わせも多く、仕事も多かったりもする。いつだったか大学の後輩に「ツアーがないときは何やってんですか」って言われてカチンと来た。まぁ今、考えている企画を例えばブログとかに書いて、様子を見せても良いんだけど(私も言いたくてウズウズしているけど)、最近の情報は発表のタイミングとインパクトが大事。実際、企業秘密も多いしね。となると、やっぱり他の人には暇しているように見えるのだろうし、ツアーがないと忙しくないのかな、と思われたりするのかもしれない。

でもさっきも言ったように企画とか、お客さんとアーティストをどうやって喜ばせようか、という、その部分こそ、一番この仕事でロマンチックで楽しい部分なのだ。実際企画が始まれば、あとはひたすら辛くて忙しいだけだ。そして終わってやっとホッとする。ホッとするけど、1年から18ケ月付き合ってきた企画ゆえ、とても寂しい。それでもまた立ち上がって新しい企画を練りはじめる。その繰り返しだ。

11月に来日するドナ・ヘナシーがいたころのLunasa。いいでしょ、このギター。