メアリー・ブラック物語 5

こうしてメアリーは本格的に音楽活動を始める。クリスティ・ムーアに気に入られ、彼の公演の前座に呼ばれるが、たまたまその時いつも一緒にやっていたギタリストが都合が悪くコンサート会場に来ることが出来なかった。クリスティ・ムーアは自分のバンドのデクランとやればいいじゃないかと提案する。そうしてメアリーは元ムーヴィング・ハーツのデクラン・シノットと出会う。このパートナーシップは、その後13年続くことになる。

そして発売になったファーストアルバム。これが83年の事だ。これがいきなり大ヒットになる。すでに選曲はカーラ・ボノフやビリー・ホリディ、ラヴィン・スプンフルのカバーで、伝統音楽に拘らないメアリーの姿勢が見てとれる。ジャケットにうつるメアリーの写真だが、実はもうお腹が大きくて長男の誕生と同時に彼女のキャリアは本格的にスタートした。バックはデクランのバンド仲間の元ムーヴィングハーツの連中がつとめている。当然、ドーナル・ラニーも参加。

ヒットにあわてて過去の音源を集めた編集盤のCOLLECTEDをリリースしたのに続き、セカンドアルバム「WITHOUT THE FANFARE」でその方向性はかっこたるものとなる。方向性とは… アイルランドのすぐれたソングライターたちの作品を取り上げる、ということだ。ジミー・マッカーシー、ノエル・ブラジル、ドナ・ロングなど、アイルランドの素晴らしい作家たちの作品を取り上げて歌うというメアリーの姿勢がここで決定した。

特にノエル・ブラジルが書いた「エリス・アイランド」などは傑作だ。(おそらく)移民先にたどり着けず途中で死んだ男が、港に残して来た恋人を天上から見下ろしている…という設定の歌だ。

 私の目の端から涙がこぼれおちる
 それはいったい誰の涙なんだろう…
 自分の涙なら喜ぶべきだろう
 この檻の中でまだ正気を保っている、ということなのだから
    でもそれがもしあなたの涙なら、私はさらに混乱させられる

歌詞はここですべて読めます。この曲ベスト盤に入れたかったんだけど…当時のレコーディングはなんかちょっと軽い感じで私はあんまり好きじゃないんだよね。メアリーはライブでもよく歌うんだけど、ライヴ・ヴァージョンは本当に素晴らしいですよ…。



そして次作「BY THE TIME IT GETS DARK」はアコースティックサウンドをさらに押しすすめた大傑作だ。静かだがパワフルなサウンドは本当にしみいるようにジワジワと心にしみてくる。

だがメアリーの次のキャリアを決定ずけたのは89年発売の「ノー・フロンティアーズ」である。このアルバムによって彼女はアメリカにもはじめて紹介される。アイルランドでは空前のヒットで1年以上チャートのTOP30に留まった、とにかく完成度もものすごい。すべてがものすごいアルバム。

アルバムタイトルのこの曲もすごい。ジミー・マッカーシーのペンによるとても宗教的なラブソング。彼の著作「RIDE ON」によると最初のヴァースはお母さん、2番のヴァースはお父さんのことを歌っているのだそうだ。深いね…

 Heaven knows no frontiers and I've seen heaven in your eyes



他にもバカラックのカバー、「アイリッシュ風」I say a little prayerも良かった。メアリー・ブラック来日公演の詳細はこちら

4月23日に私がライナーを書き選曲もしたメアリーのベスト盤が出ます。


また「ノー・フロンティアーズ」は歌詞対訳ライナー付きで、ウチから紙ジャケットでリリースされています。近いうちにショッピングページも作らないとねー 忙しくていろいろ手が回らず…