映画「なまいきチョルベンと水夫さん」を見ました




映画「なまいきチョルベンと水夫さん」を見ました。およびアストラット・リンドグレーン「わたしたちの島で」を読みました。

一応仕事だからある程度は勉強しているけど、私はスウェーデン文化についてはフィンランド文化ほど面白いとは思っていない。なんだかんだ言ってスウェーデンは北欧ヨーロッパの勝ち組だ。音楽もあれこれ聞いてみたが、ヴェーセン以上に面白いものに出会えることもなく、フィンランドみたいに次々と個性的で面白いグループが出てくる国と違って、勝ち組はつまらんのう…と正直思っている。フィンランドは本を読んでも映画を見ても、妙に可笑しいし面白いし、いろんな意味でシンパシーを感じる。そういう部分がスウェーデンには感じられなかった…というか。ま、個人的な意見ですが。

小さい国なのに世界に向けての勝ち組をまだまだ輩出しているスウェーデン。最近話題のDirty Loopsなんてその代表例。まだまだ世界に勝負に打ってでる、スウェーデンは自信に満ちた国だ。音楽をためらないなく「産業」(industry)と言ってしまえる彼ら。そうね、頭のいい貴方たちなら勝負は簡単でしょう。ま、個人的な意見ですが(笑)

そもそも女性誌などでの北欧特集などにおける「可愛い〜っっ」「素敵〜っ」みたいなノリは、どうも単純には好きになれない。残念ながら人間は素敵な家具やお洒落なファッションくらいでは幸せにはなれんのだよ。例え老後に不安がまったく無くても、生きている限り人間は幸せになることはできない…というところまで考えが行かないと、本当に北欧を理解したことにならないと思う…すみません、これも私の個人的意見。

だから「かもめ食堂」も好きではない。女優さんたちの会話が気に入らない。「ニョロニョロって〜〜だと思ってましたぁー」みたいに入る会話が嫌い。ああぃう会話を私との飲み会でする奴がいたら、間違いなく私はそいつを蹴飛ばすね。世の中にはたくさん話し合わなくちゃいけない大変な問題があるというのに、そんな会話は時間の無駄だと思う。いや、でもそういう会話が必要な人たちが世の中には多いのだろう。あの映画の制作チームの作品は「かもめ」も含め2作品ほど見たが、どれも苦手。でもあれが成功し、あれのおかげでフィンランドを知った、という人があまりにも沢山いると思うと、やはり彼らの方が正しいのだろう。

「誰も本気で悩んでなんかいないの。皆ちょっとくたびれたいだけなのよね」といった某映画配給会社の女性社長のコメントに私は大きくうなずく。世の中はそんなもんだ。でもそれにまぎれて本当に価値のあるものが見過ごされがちなのが残念だと思う。片桐はいりの書いた「私のマトカ」はかなりの名著だし、フィンランドに行かずに「かもめ食堂」の原作を書いた群ようこはたいした作家だと思う。

だから実はこのチョルベンの映画をみて、すごく良かったと単純に感動し、すぐに感想を書くことは、普段そう思っている自分にとっては、かなりはばかられた。劇場で買ったパンフレットにも、スウェーデンはお洒落だとか、可愛いだとか、スウェーデンのライフスタイルは素敵とか…そういうことばかり書かれている。うーん、これはこれで良いのだけど、なんか自分にとっては違うんだよな。でも同じくパンフにのっていた翻訳家の菱木晃子さんが紹介している原作の児童書からの一節は、すごく気になった。

「…どしゃぶりの雨で、船着き場に立っていたのは、たったひとりの小さな人間と、犬が一ぴきだけだった。人間は女性で7歳ぐらい。まるで桟橋から生えているかのように、じっとつっ立っていた。雨が全身を洗いながしていたが、びくとも動かなかった。神さまが島といっしょにこの女の子もおつくりになり、永遠に島の支配者、島の番人とするように、そこに立たせておかれたのだと、信じられないでもないとマリーンは考えた」

これは! これはすごいかもしれない。なので、もう少し研究して勉強してからまとめよう、と。映画の感想だけ単純に書くのは辞めることにして、さっそく原作を読みはじめた。原作もすごく良かった! でも読みすすめるのは何だか辛かったなー。偉い時間がかかった。なんでだろ。児童書のテンポに慣れないからかなー。2、3週間かかって、やっと昨晩読み終わった。なので、やっと感想を書く。

さてこれですが、ご存知の方も多いと思うのだけど、映画の脚本もリンドグレーンが書いている。そしてどうやらもともとは、64年、TVのプロデューサーたちからけしかけられたリンドグレーンが最初にテレビシリーズの脚本を手がけ、それが大ヒットしたので児童書としての本が出来た、という順番だったらしい。おそらくリンドグレーンは俳優のオーディションとか、そういうのにも関わっていたよね。そしてTVシリーズと本のヒットのあとを追って、本の中のあざらしのエピソードを中心とした映画が出来た…というわけ。すごいよね。

本の方は、どちらかというと、チョルベンではなく、ストックホルムから避暑にやってくるダメなパパが率いるメルケン一家が中心。ウサギを殺されて落込むペッレのお姉さん、ティーンエイジャーのマリーンの視点が中心に書かれている。でもってチョルベンはあくまで島のアイコンという感じ。リンドグレーンの言葉を借りれば「まさにウミガラス島そのもの」というキャラクターなのだ。


さて、こちらの写真が現在のチョルベン…こと、チョルベンを演じたマリア・ヨハンソン。チョルベンの子役が当たったあともいろんな作品に出演したみたいね。当時の面影もまだあるかなー。


さらに資料のためにとおもってリンドグレーンの絵本を新宿の紀伊国屋(こちらはチョルベンの公開に伴いリンドグレーン特集をやっている)と、銀座の絵本専門店に行って大量に仕入れてきた。しかし児童書という性格上、ここから彼女のいろんなことを読み解くのは非常に難しい。

リンドグレーンは幸せな子供時代を過ごしたものの、18歳で妊娠し、未婚の母はありえなかった当時のスウェーデンの田舎町で大変な思いをしたらしい。子供はデンマークに里親に出し、自分はストックホルムに単身出て秘書として頑張り、週末はデンマークに子供に会いに行くという大変な生活を送っていた。でも最終的に結婚し子供も引き取り、幸せになって長女の寝しなに聞かせていた物語が「ピッピ」となって世に出ることになる。と,書くと単純だが、いろいろあっただろうなぁ。ヒット作と自分の表現活動との合間で悩んだこともあっただろう。彼女は社会的な発言/活動も多く、動物保護問題や原子力発電問題とかにも関心が高く影響力も大変なものがあった。80代になるまで作家活動を続け、2002年に亡くなった。

子供時代が幸せだったとは単純に思えないので(今の方が100倍幸せだよー)私はこの映画に強烈な何かを受け取った気はしないけど、世間が厳しく、あれこれ厳しく、生きるのが大変な時代にほっと一息つくには良い作品なのかもな、とも思った。お子さんには最高ですので、字幕が分るようであれば、ぜひ夏休みに子連れで楽しんでほしい作品だし、吹き替え版もあるみたい。チョルベン、スティーナ、ペッレのチームと島のドタバタエピソードには、ホントに和みます。

本の方は小学校5、6年生以上ということですが、すごく面白い。充分に味わうのであれば、やっぱり映画よりも本の方がいいかもな、と思った。

まぁ、でも私なんぞが何を言うか、ですよ。フィンランドやアイルランドはそれでもある程度知っているつもりにはなっているけど、スウェーデンのことは今でもホントに知らない。私にはヴェーセンというスウェーデン出身の最高にかっこいいグループがいるだけだ。ヴェーセンの来日は11月。それまでにチョルベン以外にも、スウェーデン映画も何本か公開が決まっている。そこからほんの数人でも、スウェーデン文化に興味もって、ウチの公演にも興味を持ってもらえますように(笑)

でも「ちょっとくたびれたいだけ」だったら、無理かなぁ、とも思う。あ、あくまで個人的意見です。ヴェーセンの来日の詳細はこちら




 映画にともない紀伊国屋新宿でリンドグレーンの特集展示あり。まだやってるのかな。私が行ったのは、だいぶ前。かなり充実。たくさん買いました。ただ点数は銀座の教文館「ナルニア国」がやはり圧巻。
先日、麻布十番の写真館の店先に飾ってあった女の子。外交官令嬢? ちょっとチョルベンを思い出した。
















ヴェーセンってこんな音楽。映画タイトルで検索してきた人のために… 真ん中のへんな楽器がニッケルハルパっていってスウエーデンの伝統楽器なのだ。



PS
ま、でもいいんだよ。どこが大事か、って思うのは人それぞれで… でも細かいことに文句を言っていると大事なことを見失うってのはあると思うな。