映画「パプーシャの黒い瞳」を観ました。いや〜本当にパワフルです。

早くも今年最強の映画を観てしまったかも。試写で拝見させていただきました。とにかくすごいです! これは大傑作。「パプーシャの黒い瞳」

激動のポーランドに生きた実在するジプシーの女性詩人の物語。それをポーランド人の夫婦監督/脚本家が映画にしたというモノクロフィルム。

なんというか…安直な感想を言いたくないというか、言えないというか、ものすごいパワフルな映画でした。まず言えるのは静かな映画だという事です。まるで古い記録フィルムを見ているよう… だって音楽が鳴る時はバンドが出て来て演奏する生演奏のシーンのところなんだから。単に観客の感情をあおり立てるために音楽が使われているのでは絶対にない。そんな風にすべてがものすごいリアル。

宣伝チラシにもある結婚式のシーンが美しいのだけど、人間の顔がアップになるのはせいぜいこの時くらい。常に引きのカメラワークで、本当にこれでもか、という押さえた演出です。何も主張してこない。でもだからこそモノクロで撮られたというのが最大の効果を果たしているように思う。この世界観は、いや、もう圧巻です。

彼女は本来文字を使わないジプシー社会の中で文字を独学で覚え、詩を紡ぐようになり、それがひょんなことから出版され大変な話題になる。でもその事は彼女をジプシーの社会から追放し子供も離れていってしまうなど悲しい運命へと導いて行く。ジプシーの秘密を一般人にバラした、と。

彼女生まれた時の予言師の予言や、彼女が「不幸になるような気がする」的な発言をするところなど…ジプシー世界の神秘的なところをかいま見たような気がする。そして話はどんどん悲しい方向へと流れて行く。

マイノリティと外の世界である主流の世界、2つの違う文化、それを行き来する難しさ、自分を閉じて生きて行くこと、本当の敵は実は自分の居る側に存在している……などなど、あれこれあれこれ考えながら観ていたのだが、見終わったあとは、なんだかそのすべてがブッ飛んでしまった。

とにかくすごいと思うのが「ことば」だ。「ことば」はどうしてこんな風に文字を正式に習ったこともないような人間の上に生まれてくるのだろう。パプーシャが「詩」という概念がないのに自然に詩を紡ぎだすところなど、そんな奇跡を感じさせた。映画の中で出て来たが、彼女の詩は紙一杯に書かれ、改行がまったく存在しないのだそう…うーん。

映画は2時間ちょっとあり、結構長いけが、あっという間でした。でもストーリーを追うのがちょっと大変かもしれない。というのは映画の中の年代がパプーシャが生まれた1910年から盗難で収監され出て来た現代のシーンまでを行ったり来たりするから。

1人の女性の生き方。悲しさ。これはそんなに前の世界の話ではない。今でもこういう世界は存在している。彼女と外界をつなぐ詩。どこに焦点をあてて感情移入したらいいのか分らない。逆にすべてに感情移入できる。すべてが単純ではない。すべてが束になって観る方である自分に迫ってくる。

すごい映画だと思う。加えて岩波ホールでの上映だからこれはヒットするのは間違いないね。皆さん、岩波ホールに観に行く時は、あのジジババパワーに負けないように、朝早く並ぶべし! 

それにしても配給会社のムヴィオラさん、やるなぁ。こういうパワフルなものに出会い自信を持ってプロモーションする時のワクワク感を想像するにとても羨ましく思う。これはホントにみんなが観るべき映画だ。なんか分るんだよ、最近。その、そのヘンのやわな企画と、本物の…本物のパワフルな作品との違いが。パプーシャの生き方がすごいのはもちろんだけど、これは制作者の入れこみが本物だ、という事だと思う。だから私も声を大にして本気で応援したい。絶対に観てください。これ。4月岩波ホールで公開。