もう一番爆笑しちゃったのが、主役のジミー率いる自由主義派を押さえ込む保守派のトップの牧師役がファーザー・テッドの悪役枢機卿役のジム・ノートンだったこと!! もう大爆笑。最初あれっと思い、エンドロールとパンフレットでも確認。そうだ、ビショップ・ブレナンのジム・ノートンだ。あのテッドとドゥーグルを執拗にいじめ、ロサンゼルスに隠し子をかくまい、愛人を何人も囲っていたビショップ・ブレナン! もう悶絶!
ま、それはともかく…とにかく素晴らしい映画だった。2時間ちょいの長い映画なんだけど全然問題なかった。やっぱりケン・ローチ。昨日今日出て来た若い監督とは違う。申し訳ないけど、やっぱり監督は年齢や経験を重ねた監督の方が安定した作品を世の中に送り出せるのかもしれない。本当に感動した。
まずなんか緑が…綺麗なんだよね、ローチ組は。「麦の穂をゆらす風」でもそうだったけど、いつものカメラの人なんだろう。あんなに辛い映画だったのに、緑があまりにも鮮やかで綺麗で、アイルランドの緑だった。なんていうか、いつも雨上がりの緑みたいに本当に綺麗なんだ。ケン・ローチのチームはみんなすごい。そんな風に最初の風景からしてもう圧倒される。1930年代のアイルランド。
脚本もいつものローチ組の人らしく、ほんとうに飽きさせない。セリフもいちいち沁みる。10年ぶりに祖国に帰って来た主人公ジミーは、村民たちに押され、村のボロボロになったコミュニティホールの立て直しへとかり出させる。最初は…普通の静かな生活を営むべく年老いた母のもとへ帰国したジミーだったが、周囲に期待され頼りにされ、そして何より自分の信念のために動きはじめる。ジミーは、とにかくナチュラル・リーダーなのだ。みんなをひっぱることが出来る… でも時代が時代だから教区の牧師をはじめ保守派の連中にいじめられ理不尽に国外退去を命じられるジミー。
主役のジミー役の俳優さんがいいんだけど、彼の映画経験はほんのわずか。なんとお母さん役の味のある女優さんは、今回演じる事自体初めての経験だったそうだ。そう言われてみれば、ジミー役の彼には重厚さが足りなかったもしれない。でも迷いながらも自由を求め自分自身の人生を歩もうとするさわやかなジミーの役にはぴったりだったと思う。こんな風にあの時代には、そしてきっと今でも世界には知られていない、隠れた信念のヒーローたちがきっと存在している。
エンディングでもう号泣。そうなのだ。希望はある。希望は全然ある。自分に正直に生きなくてはいけない。不器用と呼ばれてもいいんだ。自分に正直に生きないと。私はあのエンディングは最高のエンディングだと思った。
音楽が随所に流れていて、かなり素朴なアイリッシュミュージックなのだが、最後にシェイミー・オダウドやベン・レノン、ハリー・ブラッドリィの名前を見つけて嬉しく思った。エンドロールを追いきれなかったので、他にも知っているミュージシャンが出演してたのかもしれない。それについて、パンフレットに栩木 伸明さんが文章を寄せてくれていて、それによるとベン・レノンはレイトリム出身で「世界的に活躍しているルナサとも共演」とか書いてくださってて嬉しく思った、皆さん、本作品、絶対に後悔させません。絶対に観てください!!