話題の「アメリカン・スナイパー」を観て来ました。なるほどこれはすごいわ。アメリカではリベラル派と愛国主義者の間で、大論争になり、映画は大ヒットしているそうで…なるほど分かるような気がする。原題 American Sniper
テキサス生まれのゴリゴリの愛国主義者、そして伝説のスナイパー、クリス・カイルの半生を描いている実話。彼の談話が本になり、その本をベースとして映画が作られたそう。主演のブラッドリー・クーパーは、本物の本人に、ものすごく似ているそうで、本が出たとたん、この映画の権利を買い主演に名乗りをあげたそう。だからプロデューサーの1人として、彼の名前がクレジットされている。
またエンド・クレジットによると、見間違いでなければ、本人クリス・カイルも、プロデュースにかかわっているようだ。また公式ページにあがっているプロダクション・ノートによると、脚本家は、この本が出る前にクリス本人に会って、映画化の話をしている。(どうでもいいけど、このプロダクションノート、ネタばれ多し。いいのか? こんなの公式ページにあげて/笑)
こんなにいろんな人が映画化に名乗りをあげていて、制作関係、実は権利取得にいろいろあったんじゃないかと詮索してしまう。これだけ多くの人が映画化についてアプローチしていて混乱はなかったのだろうか、と。もっとも、その辺はみんな超一流のプロの皆さんだ。最終的にはきちんと整理されて、このような映画制作になったのだろうと推察される。私みたいにブーブー文句言いながら仕事するのは素人なんだよ。(しかし映画のネタってほんと取り合いだよな… 日本での配給権とかも、すごい戦ってよく聞くけどね…)
そして制作陣が動き始めたところに、映画においては最後に起こるあの悲劇が……ということらしい。なおこれについては、町山解説によれば、イーストウッドは「彼は運命に囚われたのだ」と話していたそうだ。うーん、なるほどね。
確かに戦場とアメリカののどかな家を行き来する、主人公の苦悩は非常によく書けていたと思う。奥さんとの葛藤とか、悲惨な目にあった仲間とのシーンとか。仲間を救うため、国を守るため、彼はどんどん戦争に傾倒していく。
確かにこれは一流の映画であることは間違いない。俳優さん最高、脚本テンポ良し、セリフ、演出すべて最高。音楽なんかヴァン・モリソンが途中で流れちゃったりしてる…
でも(またもや町山解説によれば)マイケル・ムーアなどは「そもそも狙撃兵というのは遠くから撃つわけで、そんな卑怯な奴が英雄になってたまるか」みたいな発言をして大炎上したそうで…。ムーアらしいよね。好きだな。そういうブレないところ。一方で、共和党の名前を書くのもイヤな、あのバカ女も「左翼どもがウザい」とか絶叫しているそうで… まぁ、それはさておいて(笑)
いずれにしても、この映画は、人と語りあいたいたくなる。そういう映画だ。私もこの映画をみたら、いったいこの映画は何を伝えたいのか、戦争とはなんなのか、人を殺すという事は?…… いろんな事を友達と話したくなった。
殺したことをまったく後悔してない、という発言を本人がしている事。そして最初に殺した1人は自爆テロ寸前の女性だったこと…(映画では子供、そしてその次がその母親)など、彼はヒーローではないことは、あまりにも明らか。
でも…まぁ私が兵隊だったら…分からないでもないな。私が兵隊だったら、身体鍛えて、頭がおかしくなったらセラピストに通えばいいんだし、自分の精神の安定のためにも身体や精神を病んだ兵隊たちの話を聞く活動をするだなんて、もう、めっちゃありうる展開だ。私が兵士でも同じことを目指すだろう。そして何度も言うが彼は「プロの」兵士だ。いったん走り出したら文句は言わない。多少の疑いがあっても突っ走る。
良い映画だったが、映画のエンディングに実際の映像がインサートされて…多くを言うとネタバレになるから言わないけど、実はそれで……正直げんなりしちゃったのも事実。そこまでは…あの実際の映像が流れるまでは……割と戦争の恐ろしさみたいなものも絶妙なバランスで描けていたと思うのだけど…最後、あのシーンの挿入でなんだか彼をヒーローとしてあがめている感じがして、あれはすごくイヤだった。あのシーンによって「なんだ、相当右よりだな、この映画」と思った。ヒーローじゃないよ、彼は。ただの単純な、そして狙撃が抜群に上手かった、南部のあまり頭のよくない男だ。(悪いけどはっきり言わせてもらう。そして自称インテリは…少なくとも自分はインテリだと誤解できれば人は、他人を殺す仕事になんかつかないのだよ…)
でも、町山解説を聞いて、なんとなく納得はした。町山さんはクリント・イーストウッドが言いたいことが、どうしてこの映画を観る皆、分からないかなぁ、ってグチを言っている。どう考えても、主人公は頭がおかしくなってるだろう、と。「戦争は出来ないんだよ、って言ってるんですよ、イーストウッドは」と町山さんは力説する。確かにクリスの症状はPTSDの一種で、例えばアメリカではこれが原因の、帰還兵による無意味な殺人も150件越えているという。犠牲者は、これまた悲劇的な事に一番近くにいる人…奥さんが多い。やっぱり何かが狂っているとしか言いようがない。確かに、町山さんが言うとおり、イーストウッドが言いたい事は、もちろん映画に大きく投影されていると思う。
でも…やっぱり最後のあの挿入シーンで、やっぱり思った。こりゃー、相当右よりなんじゃないの?って。その直前まで、非常にバランス良く、病めるクリスの内側が丁寧に描けていたというのに。そして私はといえば、いかにもアメリカンなクリスよりも敵であるテロリスト側のスナイパーさんが眼光するどくカッコいい…とか思ったよ。もちろんテロリストたちは、アメリカ兵を倒すだけではなく、イラクの一般の人たちにもひどい拷問を加えたり(そのシーンがちらっと映るのだが、これがもう目を覆うようなありさま)、一般の人を殺したり、女子供に自爆テロをやらせたり、最低最悪なわけなんだけど…。
そして見終わったあとTwitterで映画のタイトルを検索してみれば割と「良かった」「面白かった」みたいな単純な意見が多いのに、ちょっと愕然とする。それで終わりじゃねーだろ、この映画、おいっっ!!!?
同じアメリカの対中東戦争の映画だったら、こっちの方が好きだったかもなー。でも、Again 再び言いたくなりますが、語りたい映画であることは事実。っていうことは、この映画、やっぱり相当いいんだと思う。観られた方、ぜひFBページのコメント欄にコメントください。人の意見が聞きたくなります。
PS
大倉センセのブログが良い! そう、この映画にはもしかしたら肝心な何かが足りないかもしれない。そして別に紹介されてる映画がめっちゃ良さげ! これは絶対に観ないと。
PPS
こんなニュースも。
PPPS
「アメリカは常に敵とヒーローを必要としている」という言葉もFBにあり、なるほどと思う。