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2015年3月3日火曜日

映画「フォックスキャッチャー」を観ました



く、暗い。とても暗くて、静かな映画だった。「フォックスキャッチャー」

暗いが、分かりにくくはない。実際に起きた実話がベースになっている。実態はもっと複雑だったのだろうけど、映画をみる限りにおいては、非常に単純な話でもあるようにも思えた。ただとても病的なのは事実。この病的な空気が映画全体を覆い、映画をとても暗いものにしていた。でもこういうの嫌いじゃない。なんといっても圧巻は俳優陣。本当に全員すごかった。後からそれぞれの俳優の素顔の写真と、実在してたという登場人物の本物の写真とか、あれこれネット検索して比較してみれば、みんな本人たちがまるで乗り移ったような特殊メイクもほどこしてたようだ。うーん。

こういう実話ものって、最近はホントに俳優さんたちをそっくりな状態にしてから撮るよね。俳優さんたちの演技もそれによって「乗る」のであろうか。とにかく素晴らしいかった。

物語はデュポン財閥の御曹司、ジョン・デュポンがレスラーを射殺してしまった、という事件を紹介しているのだが、なんというか、このデュポンの病的な性格、立ち振る舞い、すべてが、もう病的であって、もう、なんか希望がまったくないのが最悪だ。戦車買ったり、それに武器を取り付けたり、銃を撃ったり…レスリングのコーチをする真似ごとをしてみんなの尊敬を得ようとするが、本人ヒョロヒョロのヘナチョコで、コーチもなにもあったもんじゃない。でもみんな金持ちだから周りは気を使う。誰からも認められていない寂しいジョン・デュポン。スポンサーならスポンサーでなんで潔くしていられないのか…まったく理解不能なのだが… いや、理解不能じゃないな。自分に自信のあるスポンサーならきっと自分の役割に納得し堂々としてられるのだ。でも… 自分に自信がないから、なにかと虚栄をはってみせたりする。こういう奴…そういえば音楽業界にもいる。そして、ジョンはひどいマザコンで、お母さんの目をひどく気にしている。一方のお母さんはすべてを見抜いているようなインテリジェンスを感じさせる女性だが、まぁ、育てた息子がこれじゃあ…みたいな絶望的な状況。いや、この親にしてこの子が育った、というべきか。

あまりにひどすぎて、可哀想。初めて出来たと思った友達は、なんとお母さんがお金で買った友達だった…とか。でも、どうなんだろう。あんなに桁外れの金持ちだと、もう周りの人は何も言えないのだろうか。とにかく悲劇だ。

町山解説によれば、デュポン財閥は、化学系のコングロマリットでテフロン加工のテフロンとか、ゴアテックスとか、そういったものを開発している大企業。そのデュポンの御曹司(といっても60歳くらい)がアマチュアのレスラーたちを集め自分の敷地フォックスキャッチャーにトレーニングキャンプを作る。そこから話がスタートする。この当時、アマチュア・レスリングの選手の生活はとても厳しく、この映画のもう1人の主役である弟レスラーは、生活が正直言って全然なりたっていない。そんな弟レスラーのところに「気まぐれな金持ちなんだが…」と電話がかかってくる。レスラーの生活は厳しい。アマからプロへいったん転向したら…もう二度とはアマチュアの世界に戻れない、そういう時代だった。そして当時、オリンピックは完全なアマでなければ出場できないものであった…

そんな弟レスラー役の俳優さんも、コーチでかつ自分も金メダル保持者だというお兄ちゃんレスラー(コーチ)も素晴らしかった。お兄ちゃんも、この俳優さんの本物の姿と、実在の人物と、映画でのルックスの落差にびっくり。いや、特殊メイクすごい。

映画の中のお兄ちゃんは朗らかで家庭も良い状態で、かつお金持ちだからといってデュポンにも必要以上にヘラヘラしない、健全な精神の持ち主であるように見えた。

が、とはいえ、まぁ、圧巻はとにかくデュポン役の、この俳優さん、スティーブ・カレルである。

しかしどんな映画を観ても言えることは、幸せそうなお金持ちって見たことないよな、という事だ。マザコンで、妬み屋で、本当はなりたかった自分になれなかった可哀想なジョン・デュポン。もうヘンでヘンで、頭がおかしいとしか言いようがない。というか、実際、頭がおかしくなってレスラーを射殺してしまったわけだ。もっともWikiとかに載ってる情報を読むと、実態はさらに複雑なようだが。

結局なりたい自分になれなかった時、人は不幸なのだ。欲しいものが手にはいらなかった時、人は不幸なのだ。お金持ちだから幸せとか、貧乏だから不幸とか…そんなことは関係ない。世の中,大抵のものはお金で買える。でも自分の欲しいものがお金で買えないものであった時、お金持ちの悲しみはあまりにも深い。町山解説が非常に良いので、ぜひ聞いてみてください。



PS
しかし俳優やってりゃ、こういうオファーが来たら絶対に受けるべき。普段の自分とは違う仕事。そういや杉下右京さんやってる水谷豊さんも、新しい映画でコメディなルックスに挑戦するらしい。でも水谷さんにおいては、過去の仕事はすべてコメディだ。連続ドラマの場合は役者によって内容も自在にドライヴしていくのか。「相棒」における右京の存在自体もどんどんコメディ化しているし…。俳優ってすごい仕事だよね。

PPS
お兄ちゃんレスラーの俳優さん、なんと「はじまりのうた」のあの汚いプロデューサーの俳優さんと一緒なんだねー 分からなかったよ。すごい!