角幡唯介「アグルーカの行方」を読みました。これはたいへんな傑作だ!!!!

いやー、これはすごい本だ。すごい本を読んでしまった。ものすごくドラマチックな本だった。角幡唯介さんの「アグルーカの行方」。この前はブログっぽいちゃらい文章とか言ってすみません。あっちはエッセイだからね。こっちの方が俄然メインだよね。いやー、パワフルです、これ。

角幡さんは76年生まれ。もともと朝日新聞社の記者だった。2010年、チベットのツアンボー峡谷での探検を書いた2作目が次々と大きな賞をゲットし、次作「雪男は向こうからやって来た」は川内有緒も取った新田次郎賞を受賞…と、まぁ、ノンフィクション作家の売れっコさん。

ちなみにこの本、序章の部分から抜粋でかなり長い分量、Webで読めるので是非読んでほしいと思う。いや〜 引き込まれるよー。引き込まれるよー。あとナショナル・ジオグラフィック日本版では別ヴァージョンが読める。

本作は角幡さんと相棒の北極男/荻田さん二人の北極圏の徒歩旅と、100年前の129名が亡くなったフランクリン探検隊、そして彼らを捜索する冒険家たちのストーリーが並行して綴られていくドキュメンタリー。その構成がもう天才的に素晴らしい。冒険だけでもすごいのだが、それに歴史をさぐる、という男のロマンが加わる。

最後のほうなんかフランクリン隊の生き残りが白く光る丘に向って立ち尽くしている感じがする… っていうか、旅はロマンだよね。ロマン。本当に素晴らしいと思う。フランクリンの時代から、そしてその前から、そしてそれは今でもそうなのだが、旅はロマンだ。

100年以上も前、特に冒険は大国家事業だった。大変な予算をつぎこみ、新しい商業航路をもとめて、海軍なども動員して英国は当時の技術のすべてを投入して冒険を行った。フランクリン隊は、紅茶のカップや陶磁器の食器など、そもそも探検などには必要のないものをたくさん携えて北極へ向った。最後は船をすて歩き始め、当然のことながらカニバリズムに走った。イヌイットたちに世話になることもあったようだ。最後の3人に残ったといわれるアグルーカとその仲間。最終的にフランクリン隊は全滅したと言われている。

それにしても、これは構成力の勝利。旅に出る前、大変な量の資料を読み、勉強し、角幡さんはいろいろネタを拾っているのだろうが、そのネタのちりばめ方が本当に上手い。冒険にしてもフランクリン隊のその後についても、小出し小出しにされているから、ついつい早く先が知りたくて、ぐいぐい読み進んでしまう。ホントに思うのだが、情報は…普通に出してしまっては面白くないのだ。どのタイミングで、どんな風に出すかが決めてとなっていく。角幡さんのそんな「演出」に、読者はついつい乗せられてしまう。ホントに面白かった。

そして文章の説得力もすごい。とにかくすいすい読みやすいし、重要なネタは繰り返されるため複雑なストーリーが非常に分かりやすく流れていく。こんなに完成度の高い本は滅多に出会えないわ。もちろん探検自体もすごいのだけど。

ちなみに現在角幡さんは日本人イヌイット、大島さんのいるシオラパルク(グリーンランド)に滞在していて、夏の風物詩アッパリアス採りに余念がないようだ。その様子はブログに綴られている。そして、この11月から太陽の上らない北極圏を5ケ月に渡って旅するらしい。もう70年代の植村本に感動している暇はない。これは今の、今現在の、リアルタイムの冒険だ。これはもうしばらく追いかけるしかないだろ!  

というわけで角幡さんの本を続けざまにkindleで2冊も買ってしまった。