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2015年7月19日日曜日

自然は凄いけど、人間の方が面白い! 角幡唯介の2冊を読みました

これが角幡本にも出てくる有名なシプトンの雪男の足跡。

今回、出張の友として角幡唯介の「空白の5マイル」「雪男は向こうからやって来た」の2冊をiPadのKindleに入れて出掛けた。

結論から言うと、旅の間に読む本としては最高の2冊だった。読んでてストレスがない、出張中忙しくてしばらく間があいて前後のストーリーを忘れていても、充分楽しめる、など旅の友としては最適だ。でも読むなら一晩集中して一気読みが楽しくていいだろうな、と思う。2度3度読みたい。そういう内容の本だ。

とにかく文章力が半端なくすごい角幡唯介の2冊。すっかりファンになっちゃったよ、角幡さん!

そして今回の出張の結論と、この本たちの結論がシンクロして、私にとってはとても感慨深いものとなった。その結論とは…「自然は凄いけど、結局のところ人間の方が俄然面白い」というものだった。詳しくは、また時期が来たら書くけど、確かに白夜とか、迫力ある山とか海とか岩とかフィヨルドとか、それこそフェスティバルとか音楽とか……いろいろあるんだけど、やっぱり一番面白いのは人間模様であり、それぞれの考え方や悩みや生き方である、ということなのだ。そして人間はどこで生きていようが、たいして変わりはない。

「空白の5マイル」で、筆者はチベットの謎の滝を探して秘境に乗り込み、必死で冒険してマジで餓死とかしかかるなど大変な目に遭う。チベットってのがいい。秘境中の秘境…そして中国政府に見つからないように不法入国そのままに、とにかくハラハラ… テンポもよくグイグイあっという間に読ませる。「雪男」の方は、冒険的には大きくドラマチックな展開はないものの、雪男に魅せられた多くの探検家の話が盛りこまれ、ものすごく深くていい本だった。角幡さんの3冊の中では私は「雪男」の本が一番好きだ。

「雪男」が書かれたのは角幡さんが朝日新聞を辞めた直後、ライターになろうとした最初の時だ。伝えようとする気持ちが丁寧で、この本ほど心に響くものには、なかなか出会えない。書かれたのは「雪男」が先でも、世の中に出た順番は「空白の5マイル」の方が先だった。「雪男」は「空白の5マイル」が賞を取ったので日の目を見た、というわけだ。

でも「空白の5マイル」が先に出たのも、なんとなく分かる。というのも「5マイル」の方が内容がショッキングだし著者本人が冒険してるから、説得力がある。出版社としては、そっちの方が魅力的だったのだろう。

とはいえ「雪男」のこの深みはどうだ。こっちの方こそホントに素晴らしいし角幡ワールドの真骨頂だろう、と思った。探検がない分(最後に多少やっているけど)、筆者は人間観察に集中しているし、それを丁寧に描くことにも成功している。実際わたしもこの本を読み終わって思ったよ。雪男は絶対にいる、って。そして自分は雪男に会えるのだろうか、って。そう、この本のタイトル通り、雪男は探しに行って会えるものではない。向こうからやってくるものなのだ。

とにかくどちらもパワフルな本。どちらもお薦め。1冊だけ読むなら「雪男」。でも以前読んだ「アグルーカ」も最高に素晴らしかったし、順番を無理矢理つけるとしたら「雪男」「アグルーカ」「空白の5マイル」かな…。とにかく角幡さん、ものすごいよ。すっかりファンになった。

それにしてもこの本の結論づける(というと断定的になっちゃうけど、角幡さんも相当迷っているし)こととリンクしてくるのは、結局グリーンランドの本を私もたくさん読んだのだが、結局得られる知識といったらたかが知れてる、という事なのだ。近い将来、彼の地に行くことが出来たとしても、おそらく知れることはほんのわずかだろう。それよりも面白いのはやはりそこで生きている人間たちの悩みや苦悩や試行錯誤や、それでも前向きに生きようとする、そんな話をシェアする事だ。昨日書いたイシグロの白熱教室じゃないけど、心情をシェアすること。何をやるにしても、それが大事だ、ということ。グリーンランドとか、チベットの秘境とか、そういう地域では自然は恐ろしくパワフルで、驚異的で、圧倒的だが、自然は自然。面白いのは人間の方だ。そして、それがどこに住んでいても変わらない人間の共感を生むのだ。特にグリーンランドなんて、それこそ1万年前の生活習慣やダンスが、いまだにそこに残っていて… そんなものが時空を超えて私を引きつけるのだ。そして感じたいんだ、人間は同じなんだよ、と。みんな同じように悩んできたんだよ、と。

ロリーナ・マッケニットが名作「パラレル・ドリームス」のライナーで言っていた。人間が生きて行くのに必要なのは、いつの時代、どんな場所でも「愛、自由、そして一体感」なのだと。「一体感」「共感」みたいなものをもとめて私たちは音楽を聞き、本を読む。



PS
しかし角幡さん、ホントに文章のパワーがすごいよな。やっぱり新聞社で何年もやってたからかなー。構成力もすごい。本人はニュース配信のぺったりした文章ばかりやってたから…みたいなことどこかで書いていたけど、その経験や反動がなかったら、こんな風に書けてないと思う。本当にすごいね。いや、ホント自然はすごいけど、おもしろいのは人間の方ですよ、絶対に。

PPS
という中で、家族もいるんだし危険は冒険はとっととやめてルポルタージュみたいなものに集中した作品を出してみればいいのに…とファンは勝手に思ったりもするが、現在角幡さんはグリーンランドを拠点に北極点を横断中(笑) どうかお気をつけて!