「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」を読みました。すごかったです…

いやー 読んだわ、読んだ。正直読むのがつらい本だった。っていうか、読みにくーい!!(笑)こんな読みにくい本はないわな。日本語がいけないのか? 

翻訳本が悪いというわけではない。が、最近は圧倒的に文章力のある日本人作家の文章を読んでいるせいか、読むのが非常にストレスだった。でも一方でほとんど作者と翻訳者が一体化していて、まったくストレスなく読める翻訳本も存在しているわけで、うーん、どうなんだろうと思う。

しかし友人がたまたま原書でこの本を読んでいるらしく、やはり読みずらくて進まなくて困っていると言っていた。確かにこの本を原書で読んだらたまらないだろう。だから翻訳が悪い、というわけでは決してない。もともと英語なんだけど、スペイン語というか、訳の分からないカリブの言葉がたくさん挿入されてるし、とにかく注釈が多いのでストーリーを気持ちよく追えない…というのが、オタク文化にはまったく興味ない私の最初の印象だ。一方で注釈みたいなものがいっさいない、お爺さんの章などはすっきりとして異様に読みやすく感じる。

主人公のオスカーはオタクで引きこもりで驚異的なデブというどうしようもない男。そのくせ女の子には惚れやすく、すぐ恋に落ちてしまう。でもオスカーが主人公の章はあまりなくて、オスカーのお姉さん、お母さん、おじいさんなど、次々にオスカー以外の家族が主人公になる章が続く。そしてそっちの方が印象が強いかもしれない。それにしても嵐のような…こう言ってはなんだが嵐のようにすさまじい家族たちだ。なんかどうしようもない。

ピューリッツアーと全米批評家協会賞をダブル受賞したというこの本は、とにかくSFのようでなんかのようで、とにかくジャンル分け不能というところが、すごく新しいという理由であちこちから高い評価を受けているらしいのだが… うーん、私には正直分らなかった。うーん、ジャンルとかそんなの関係ない。本の場合、要はストーリーが面白いか、面白くないか…それだけだと思うんだけど。

……と書くとこの本はおもしろくなかった、と捕らえられてしまうのかもしれないが、いや、そんなわけで前半は読むのがつらかったのだが、後半になってお母ちゃん、おじいちゃんのストーリーが語られるころからグングン面白くなって来て、あっという間にこの話に引き込まれてしまった。特にトルヒーヨによる独裁政権の話は、私はまったく知らなかったのだが、ものすごい迫力だった。そしてその独裁時代の影が、この一家の代々に、ドミニカから移民するすべての人に暗く影を落とす。ホントにどうしようもなく凄まじい性格で、怒ったり泣いたり嵐のように生きる人々。「フク」という顔のない男、謎の存在。

そして…なんといっても、この読後のすっきり感はどうだ! 実際オスカーは惨めな死に方をするのだが、でもこの本には最高のエンディングが待っている…と少なくとも私は思った。短かったり、死に方が悲惨だからといって勝手に人の人生をジャッジしてはいけない。彼は幸せだった。最後に…と思う。…というか思いたい。そこになんかこう「救い」を求めているわけじゃないんだけど、ちょっとジワジワくる不思議な感覚だ。

昨晩この本を布団の中で読み終わって、一夜あけたわけだけど、あの最後の感覚を思い出すと、1人でホンワカしてしまうのだ。

いずれにしてもお薦めだし、この本を途中で挫折しちゃった人は、是非最後まで読むといいよ、と思う。(というわけで、さっそくこの本、途中で止まっちゃってるという友人にメールした)

そういや、この本「新潮クレスト」だ。ホント間違いないよなぁ、このシリーズ。装丁もいいし。