これは、すごい。BBCドキュメンタリー「BLIZZARD - Race to the pole」を観ました

極地もの。あいかわらず極地マイ・ブーム続行中。ちょっとだけ観るつもりが結局最後まで観ちゃった。350分という長時間のドキュメンタリー…というか、おそらく元々は1時間の番組(CM抜き)6本シリーズということだと思う。とにかく面白くて一気に観てしまった。

英国のスコットとノルウェーのアムンセンの南極点到達レースから約100年ということで、当時の冒険を再現するという企画。ただしもう南極では犬ぞりが禁止されていることから、ロケはグリーンランドで行われたのだった。来たっっ、グリーンランド! やっぱりグリーンランド来てるよーー! ってこの映像が制作されたのは2006年のころのようなんですけどね…

このDVD、実は自分で買ったんじゃなくて友人から借りた。音楽プロモーターで働いている彼がこのDVDを何故持っているのかというと、彼の担当するアーティストがこの撮影に参加しているのだ。そのアーティストとは、ペンギン・カフェのアーサー・ジェフス。アーサーのひいお婆ちゃんは、なんとスコット隊長の未亡人だった。スコットが南極で遭難して亡くなった後、未亡人となったひいおばあちゃんは新しい夫をゲット。そこからアーサーのファミリーがスタートしたんだって。すごい。世間は狭い。アーサー、そうだったのか。来日した時に、グリーンランドの話を聞いておけば良かった。京都音博の時なんか、結構会話のチャンスもたくさんあったのに… 次に会えることになったら、グリーンランドの話題をふってみよう。



しかしこれ観ると、グリーンランド、結構あったかそうなんである。みんな時々手袋をしていない。作業のためだろうか。また動いているからかえって暑くなるんだろうか。

南極点到達は、ご存知の方も多いだろうが、今から100年くらい前、1911年にノルウェーのアムンセンによって達成された。そのアムンセン隊に遅れること30日間ほど、英国のスコット隊も南極点に到達している。が、しかし無事に戻って来たアムンセン隊と違って、戻りの旅で重なる悪天候にやられたスコット隊は、残念ながら隊員全員死亡。全滅してしまう。

スコット
予算が豊富にあったせいか機械のソリや馬といった極地に適さないソリを使うスコット隊。最後の方では人間が重い重いソリを引く。一方で犬ぞりを駆使し、極力身軽な感じで進むノルウェー部隊。すでに数年前に北西航路を達成しているアムンセンは経験値が段違いに違うように見える。ノルウェー人、おそるべし。ヴァイキングの時代から、あのヘンに住んでいる人たちは探検に適しているんだろうか。自然を敬いイヌイットのやり方を学んだアムンセンは極地に強いのだが、研究だと言ってペンギンの卵や鉱物やら、あれやこれや調査しながら旅していた優雅なスコット隊は、ちょっと極地探検そのものをなめているようにも感じられる。が、これはおそらく研究や学術的なことを、隊員の無事な地理的な到達よりも重んじるブリティッシュネスとも考えられるが…

このテレビシリーズのエンディングでも検証されているが、最近では、これまでいわゆる無条件で英雄視されて来たスコットの、実は人間的に弱い部分やリーダーシップのあり方など、あれこれ研究も進んでいるようだ。

当時を再現したこのドキュメンタリーでもノルウェー隊と英国隊が、当時の装備を駆使しながら目的地までの旅を競いあう。ノルウェー隊がスイスイ進むのに対し、英国チームは何をやっても上手くいかない。そして英国隊にはりきって参加していたアーサーも、肩をいためて前半で途中離脱しちゃった。アーサー、なんとこの撮影に来るまではキャンプすらしたことがなかったというから驚き。まぁ、生粋のホントに貴族のお坊ちゃんだもんね…でもよくやったよ。アーサー、すごいよ!! 体重も25kgも減っちゃったんだそうだ。

それにしてもペミカン(極地での典型的な食事で超ハイカロリー。ほとんどラードを固めたもの)って、初めて動画上で観た。すごく超不味そうだった…うううう…

とにかく食べ物も何もない氷の世界。これぞ極地。燃料や食料が終わったら…止まったら死ぬだけだ。そういう究極の世界。
アムンセン

最後の最後は食料も燃料もつき、テントの中で眠るような状態で亡くなっていたというスコット隊。

絶滅の一歩手前、最後の方では凍傷がひどくて動くのに不自由なメンバーが、自分が隊の負担になるのを避けるため、嵐の中、テントを出て「ちょっとそこらを歩いて来る」と言って姿を消すシーンまである。な、泣ける! うううう… 最後のデポ地までもう少し…。たった11マイルだったのに! たった11マイル、ということはスコットも分っていた。それなのに! スコットの死については、いろいろ説があるようだ。

「あとたった11マイルだったのに…何故諦めたのだろう」と。ノルウェー隊に先をこされ、積極的な自殺だったとは言いたくないが「スコットは、もうダメだ、ということを受け入れたのではないか。そして他の2名もそれに従ったのではないか」という説が最近では有力なようである。うーん、究極の選択だよ。究極の選択!!! スコットとその隊員たちはたくさんのジャーナル(日記)を残しており、このドキュメンタリーでは学者の先生方がそれをもとにあれこれ検証を重ねている。

当時のメディアの加熱ぶりは本当にすごかったのだそうだ。スコットの様子は実はニュージーランドを経由して当時の英国メディアを大変にぎわせていただ。当時の動画もすごくリアルにかなり残っている。そして、それがいきなり次のニュースでは亡くなった、と英国中に報じられた。英国ではもう火がついたような騒ぎになったらしい。

それにしても、英国においては、この100年ほど前に、やはり北西航路を発見しようとしていたフランクリン隊が129名死んでるわけで、それにも勝って北西航路を達成した(といってもフランクリンから50年たってるけどね)アムンセンという男はホントにすごいよな、としか思えない。いったいどんな男だったんだろう。当時大西洋から太平洋へ抜ける近道は貿易の大変なメリットになりかねた。探検は大変な国家事業だったのだ。

今の研究ではアムンセンはどんな大変な時でもユーモアを忘れない、そしてチームのみんなのやる気を引き出すことのできる素晴らしいリーダーだということになっている。確かに一般的に言ってもノルウェー人は強い。精神的にも肉体的にも。強くてユーモアも忘れない。

さて実際のドキュメンタリーに参加したノルウェー隊と英国隊はどうなったかというと、ネタをばらしても面白さに変わりはないと思うので、とっととバラしてしまうと、ノルウェー隊が最後の1話を残して余裕でゴールインしてしまう。ノルウェー隊の隊長いわく「アムンセンの極地をわたる方法は現在でもまだまだ有効だということが証明された」ということなのだ。

それに対し、英国隊は目的地には(かなりの誤差で)到達し無事引き返してくるものの、最終的に体重の減りのパーセンテージがひどくプロデューサー判断で探検は強制終了。自分では戻ってくることは出来なかった、というオチ。もちろん現代なので、ヘリがやってきてアイスランドのホテルに収容され、お風呂に何度も入り美味しそうなディナーを食べているところが映される。ホッ…(笑)

いかーん、それにしても… 極地ものは面白すぎる!!! いよいよ角幡さんも大推薦のスコット隊の悲劇を書いた「世界最悪の旅」を読みたくなったのだが…こんなに読み広げてたら、いくら時間があっても足りないよ! それにしても知識欲がまったく止まらない! 困ったもんだ。まだまだ読みたい。まだまだ知りたい。

このDVD、Amazon UKでなら手にはいる。 あと角幡さんの「アグルーカ」を再読したくなった。今呼んでる「ソマリランド」が終わったら、また読もう。