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Q:あなたたちの音楽を聴いていると、とてもストリングスのデュオには聞こえません。あなたたちの曲をバンドで演奏したら、60年代や70年代のバンドのように聞こえるかもしれませんね。
マティアス:僕らの音楽の目的は、僕らが過去に聞いて来たあらゆる音楽を僕たちの楽器に移し込むことなんだ。僕らデュオの音楽はとてもバンド然としている。マハビシュヌ・オーケストラなんかの音に近いと思う。でも僕らは最初からこうしようと決めていたわけではない。だいたい2年半くらい前にデュオを結成した時、僕らが望んだことは、一緒に演奏したらいったいどうなるんだろう、ということだけだった。そこから非常に力強い物語が、そういった方向へ発展したのさ。僕らのセッションではどんなアイディアに対しても柔軟であり、一つ一つのアイディアや、リフや、グルーヴのパターンやメロディのアイディアから、最終的に何かを創りだして行く。
クレメンス:70年代、80年代のロックに近いというのは嬉しいね。僕らのアンサンブルで目指しているところの1つはそれかもしれない。僕らは僕らの楽器に新しいレパートリーを与えたいんだ。僕らはどんな音楽の垣根も超えていきたい。異なる方法で試していくことで、僕らの楽器に新しい可能性を与えたい。チェロとヴァイオリン…つまり弦楽器一般は、クラシック音楽のためのものだ。僕らは実際その2つを使っているわけだけど、僕らが他のプレイヤーと違うのは、もっとバンドっぽい方向性だということ。マティアスと僕はとても努力家のバンドなんだ。僕らは一緒に作曲をする。僕らは練習し、一緒に演奏する。僕らはジャズクラブでも演奏するし、クラシックのコンサート・ホールでも演奏する。また僕らはポップやロック・クラブでも演奏する。
Q:実際の作曲はどのようにするのですか。
マティアス:理想的な状況だと…そしてだいたい毎回そうなんだけど…アイディアが充分に煮詰められた時、すべてが一気に流れ出すのさ。そうやって曲はあっという間に出来上がってしまう。僕らの共同作業ですごく楽しい事の1つだ。僕らにとって、どちらかが完全に曲を完成させて、それをリハーサルに持ち込むという事はない。僕らが一緒に1つの場所に座った時、曲がそこから生まれるんだ。この瞬間、僕らから創造的なエネルギーが生まれる。この一緒に創りだすという作業は、僕らの間でとても強く存在するものだ。
クレメンス:そう、お互いをすごくよく知っている必票があるよね。音楽的にも、人間的にも。これらのセッションは完全な催眠状態になりうるんだ。僕らは今、新しいアルバムを制作していて、ものすごく集中的な作曲作業の中にいるんだが、コンサートでもすでにどんな感じになるか試してみたりもしているんだ。例えば今作っている新曲「Ki」は、本当にそんな催眠状態の中から出来た曲だ。リズム的にも複雑な曲だ。ある一定のレベルに達するまで、ものすごく時間がかかる。お互いをものすごく信頼をしていないと絶対に演奏できない曲だ。誰とでも一緒にできるようなリズムじゃない。ものすごく複雑だ。
マティアス:限界を超えて行きたいんだよね。楽器的にも音楽的にも。もっと何か高度なことを生み出していきたい。最近の楽曲は、初期の頃よりさらにチャレンジングだ。それが重要なんだ。難しさの度合いと同時に、その熟練度、そして複雑さを僕らは追求している。
Q:アコースティックなのに、すごくパワフルなのが素晴らしいですね。
マティアス:そうだね。ライブでは多少マイクを使うんだけど、僕らの表現はクラシックのサウンドではないと思う。クレメンス:僕らの楽器では音をひずませたりアンプを使ったりすることは、ほとんど必要ではないだ。これらのエフェクトは実はすでに何世紀も前からこの楽器の中にもともと備わっている効果だ。そういった元からある楽器の才能を引き出し有効的に使うことはとてもエキサイティングなことだ。
Q:ファーストアルバムを聴いていても思ったのですが、同じような曲が1曲たりもないですね。すごくヴァラエティに富んだ作品に仕上がっています。
クレメンス:「Meridian」 は、この1年半作ってきた楽曲の最終的なコレクションだ。音楽的に何が可能か、という疑問へ回答だ。音楽的に幅広いと言われたら、それは素晴らしい事だし、僕らはそれを褒めてもらっていると受け止めるよ。これだけ幅広い楽曲群のすべてを統合する要素が何かあるとしたら、それは何をおいても、この楽器編成だ。「Meridian」はその発見の結果なんだ。そして今、僕らはいったい自分たちがどんな音楽が好きか、そして僕らはどんなバンドなのかがやっと分かって来た。そこには詩情もありロックもあり、そしてグルーヴもある。僕らは今、一緒に座ってこういう意図で曲を書いてるとは言いたくないんだ。それは僕らのセッションの中から自動的に新しくわき上がって来る 音楽の細胞であり、その1つがまた次のものへと導いて行く過程でもある。もう一度何かを過去のものをなぞろうということではないのさ。もっと音楽的に先へ と発展させ、作曲的、音楽的な力を広げて行こう、もっとエッジを加えて行こうとするものなんだ。
マティアス:それは最初のレコードよりも、(セカンドでは)僕らの目標をさらに具体化するということだ。僕らはふたりとも新しい音楽に対してオープンだか ら、この発展はある意味とても論理的だし、すべてが一歩一歩前進していると思う。僕らに限界がない理由の1つは,僕らがたった2人だからだ。デュオで演奏 するというのは素晴らしい事だ。この小さな集合体の中で、1人は、もう片方の相手に本当に集中できる。そして多くの資質、そして側面に働きかけられる。一方でとてもチャレンジングでもある。というのも演奏している間、常に気をぬくことが許されない。ロック・バンドだったら、たとえば何人かのメンバーが ちょっとうしろに引いて他のメンバーに任せるといった演奏が可能かもしれない。それがデュオでは許されない。またすべてにおいて重要なのが、いかに僕らが この2人だけで大きな音を創造できるか、ということだ。もっとオーケストラ的な、さらに大きな音を目指している。これらすべてのことがあいまって、僕らの 音楽の風景の多様性が導きだされていると僕は信じている。
クレメンス:また別の面として、僕はヴァイオリンとマンドラの2つを持っている。この2つの楽器はまったく違う音楽の役割を勤め、楽曲にまったく違う音楽的 アプローチを加えて行くんだ。ヴィオリンの役目はチェロを弾くマティアスがベースラインを行く時、彼は完璧なリズム・セクションを担う。そしてそれに乗っ かってシンガーとかギタリストの役割を演奏することが出来る。ロック的なナンバーではそうだね。この役割配置は僕がマンドラを持つと逆転する。これらのコ ントラストが、僕らに新しい魅力を与えてくれる。曲を作る時だけじゃなくって、ライヴでもそれは効果的だ。1曲1曲に対して楽器の役割がそれぞれ違うから ね。
Q:ライヴでもお客さんはたった2人で演奏していることに、すごくびっくりしているようですね。
マティアス:そうだね。僕らは今のところ良い評判しか聞いていないよ。もっとも重要なことは「あなたたちはすごく大きなバンドに聞こえる」って言われること だ。ステージ上にたった2人しかいないようにはとても聞こえない。もちろん自分に対する自信がないとそんな演奏は出来ない。いろんな人たちからこれらの良 い反応を得ているんだ。僕らはなぜか音楽的に異国風というか、変わっているように思われていて、そのことを僕らの長所だと捕らえている。でも重要なのは作品そのものだ。僕らは、またさらに新しいものをもとめている。
クレメンス:いつだったかコンサートの主催者のお嬢さんがやってきて、彼女はストリングスのグループで演奏しているんだけど…僕らが演奏している曲を自分も演奏したいって言っていたんだ。こういったエピソードは僕に弦楽器のために曲を作ることは、とてもクールだと感じさせてくれる。
Q:これから先の予定は? この夏にはニューアルバムがリリースされるんでしょうか?
クレメンス:発売にはならないけど、準備は出来るはずだ。あとウーズラ・シュトラウス(「ミケランジェロの暗号」の主演女優)とのプロジェクトもあるんだ。そこでは彼女はデートリッヒ本人と彼女の娘が書いた楽曲を歌うことになっている。他にも彼女とのフェスティバルの予定とか入っているけど、でも僕らにとって一番大切なのは、このデュオでの活動だ。
というわけで、バルトロメイ・ビットマンの来日公演。チケットはこの週末発売。2月12日(祝/月)Star Pine's Cafeにて。詳細はここ。