「万引き家族」やっと見た!!


やっと観てきました! とにかく話題のこの映画、見ない方が変でしょ!

でもって、私の感想はというと、映画の前評判や、友達の感想を読んで自分が想像してたのとは実はだいぶ違った。っていうか、みんなこの映画観ないで感想言ってないか? また反対にパルムドール取ったからって、妙に感動作!とか言って持ち上げてないか?

私はまずこの映画が超リアルなのに感動した。セリフが重なっていてよく聴こえなかったりするなど映画のルールを無視して、めっちゃリアルな世界を徹底的に表現することに集中している。素麺や茹でたトウモロコシ、見えない花火、子供たちが帰ってきて慌てて取り繕うセックスなど、これでもかとこの家族を描くリアルな要素が並び、とにかく引き込まれる。彼らの家は貧乏で雑然としていて物に溢れ、かついつも彼らはなぜかカップ麺を食べている。本当に貧乏でも、やりくりが出来て長期的プランが立てられる家族であれば、カップ麺は割高だから食べるべきではない。が、ここではカップ麺はこの家族を描くにあたり必須アイテムなのだ。そしてそのジャンクな食べ物が妙に美味しそうに見えてしまうのだ。

「家族の絆」云々言う人もいるが、彼らにおいて、それはかりそめであり、短絡的であり、目の前にあるキャッシュの方が優先され本当の愛情とは言えないと私は思う。と同時に、では本当の愛情ってなんだろう、という疑問が浮かぶのだ。最後、安藤サクラが息子に貴重な情報を与えるシーンがあるのだが、本当の愛情は私はどちらかというと、そっちだと思いたい。またあえて厳しい事言ってしまえば、リリー・フランキー演じる父親は単に息子に依存しているだけだ。最後のバスのシーンに号泣!とか書いてる人がいたが、私は泣けなかった。っていうか、この映画みて「涙止まらない」とかはないと思うな。別に泣けはしない。ただただこういう家族の姿を見せられて呆然とするだけだ。社会からは犯罪者と言われる人たちにこんな世界があるんだ、と。でもリリー・フランキーはどこまでもダメな奴であり、息子はこういう人間関係は断ち切らないと前に進めない。

そしてこの映画を見終わって思ったのは、本当にこの映画はすごいな、と言うことだ。こう言う表現があるんだ、と。 ここまでリアルに見せることで、これだけこちらに考えさせ、伝える方法があるんだ、と。だから、こう言ってはなんだか、たかだか映画に、この家族に、ここまで真剣にコメントしてしまいたくなる。きっと監督は視聴者のことを信じているんだね。この映画の最大の魅力はそこにあると思う。で、別に是枝監督はこの家族がいいとか、こっちの方が人間の本当の絆だとか、そんなことは1つも言ってないんだよね。ただ徹底してリアルにこの家族の姿を見せる。それに集中していて、まったくブレがない。ケイト・ブランシェットの言葉を借りればinvisible peopleを見せることに徹底している。めちゃくちゃリアルで、あの家族が実在しているかのように、何も疑いもなく観ている者を映画の中に、あの家族の中に引っ張り込むのだ。そして色々考えさせる。

そして私はと言えば、映画を見終わった後、思うのだった。いったい人間の社会性のラインってどこにあるんだろう、と。あの映画ではリリー・フランキーは明らかに社会からこぼれ落ちた人間だ。監督はリリーに「最後まで成長のないダメな男でいてくれ」と言ったそうだが、まさにそう。でも安藤サクラは間違いなく境界線にいる。子供たちは皆、なんとか自分で社会と共存する道を見つけるだろう。そして世間には「妹にこんなことさせてちゃ駄目だよ」と言ってくれる駄菓子屋のオヤジさんみたいな人もいる。(あのオヤジの存在はグッと来た。あれは犯罪者を救う社会の奇跡の接触である)

それにしてもこういった是枝ワールドを作り出す、このチームワークの素晴らしさとはいったいどうやって実現しているんだろう。とにかく俳優陣、全てが素晴らしい。安藤サクラは、もう圧巻で、彼女『100円の恋』も素晴らしかったけど、すごいスケールの女優さんだよね。そしてダメ男を演じたら間違いないリリー・フランキーもすごいし、樹木希林も凄まじい。リアルよりもめっちゃ老けて見える。っていうか、女優さんたち、全然メイクしてないし、綺麗に見えるとか、まったく関係ない。素っ裸でこの映画に貢献している。すごい。子役もすごい。子役なのに、なんでこんなにナチュラルなんだろう!!  監督は当然とはいえ、付いていく俳優陣にまったくブレがない。監督の世界観を作ることに間違いなく貢献していく。ここまでブレない是枝組の世界観とはなんだろう。本当にすごい。そこに私はただただ圧倒された。

で、監督のインタビューを読めば、映画界でも監督発信のゆるがない企画が減少しているという。(多くの人がからめばからんだだけ、本来の方針とはずれていく。企画ってそういうもんだ…)でも自分がそういう方針を貫くだけで、日本映画界の多様性を担保することになる、みたいな言葉があって、超・響きまくり。 また監督は脚本を細部まで書いておらず、安藤サクラのインタビュー記事によれば、現場で俳優との相談で進めていく部分が本当に多いのだそうだ。うーん、すごい。そんな風に有機的で、自由なのにブレない。これってすごい。っていうか、そうか、それだけ俳優を監督は信頼してるんだな、とも思った。(一方のリリーは、セリフは全部決まってます、とも発言している)

で、監督がインタビューで話していた施設で出会った女の子の話も、これまた素晴らしいのだ。映画制作のために、監督たちが虐待された子供達が親と引き離されて生活している施設を取材している時、ちょうど学校から帰ってきた女の子がいた。その子に監督が「今、何の勉強をしてるの?」と聞いたらその子は国語の教科書をランドセルから取り出してレオ・レオニの『スイミー』を読み始めたんだって。施設の職員たちが「皆さん、忙しいんだから」と言って止めるのも聞かず,その子は最後まで読み終わり、監督たちが拍手をすると嬉しそうに笑ったんだって。監督はその子の朗読する顔が忘れられなくて、映画の中で男の子が『スイミー』を読むシーンをすぐに書き入れたんだそう。

そして、インタビューされながら答えてる。「今,言われてはっきりわかりました。僕はあの子に向けてこの作品を作っていると思います」(参照)

うーーーーん、すごい。監督… ぶれない。ブレてないよ。ホントにすごいわ。とにかく映画のほとんどはこの家族の姿を見せることが徹底され、それは前半ある意味、長すぎるのではないかと思えるほどだ。そして後半、おばあちゃんが亡くなってから、実は…と急展開になっていくところが、本当にスリリング。ここからは映画としてのエンタテイメントというか波がわっときて、圧巻の取り調べシーン(すごいよ、俳優さんたち。特に安藤サクラ)から、バスのシーンまで、あっという間に終った2時間だった。私は観終わってとにかくボーゼン。こんな表現方法があるんだ…。ただただそれだけに感動した。本当にすごいと思う。めちゃくちゃ好きな映画です。

是枝監督作品を観るは実は2本目。前に福山雅治とリリー・フランキーの『そして父になる』を見ているはずだが、自分のブログに感想文を見つけられなかった。感想を書くの、サボったかな? でもあれもいい作品だったけど、ここまでの感動はなかったと思う。そういや『誰も知らない』も観てないや… 今度、観て見ようかな…

しかし「絆」をやたら強調する宣伝方法と『万引き家族』というタイトル、そしてパルムドールがなければ、 こんなに派手に話題になることもなかったような気もするくらい地味な映画でもある。私はこの映画のすごさは、誠実に作られた是枝ワールドが凝縮した濃密な映画だ、ということにつきると思う。でも週末の西新井で見たのだが,普段家族映画しか入っていないファミリー映画館の中くらいの部屋が満員で、目指して行った回が見れず次の回まで待たないと観ることが出来なかった。うーん、快挙である。是枝監督、すごい。あの女の子のために… やったよね!!

普段テレビ局の事業部がからむ宣伝がうるさい日本映画は好きじゃないのだが、これはフジテレビのプロデューサーにも感謝しないではいられないだろう。すごいわ。地味な映画がこれだけ話題になっている。それだけでもプロデューサーもしてやったりだろうし、監督も妥協ない作品が作れて大満足だろう。いや、もちろん水面下にはいろいろあるだろう。でもみんながブレまくってるこの時代、そういう事にも、とにかくいちいち圧倒される。



そして映画の感想を書いたブログではこれに一番共感した。この方の視線はもっと優しいけど。
http://twitter.com/nnk_dendoushi/status/1014451631159570432

PPS
『万引き家族』の本も読んだ。めっちゃ良かった。細部がじっくり味わえるし、私は文字で読んだ方が映画よりも自分に入ってくるのかも?