ヤヌシュ・プルシノフスキが牽引する農村マズルカ・リバイバル1

まだ肌寒い4月半ば、ポーランドの首都ワルシャワにやってきた。この地を代表するフィドル奏者にしてマルチ・インストルメンタリスト&シンガー、音楽プロデューサーのヤヌシュ・プルシノフスキが主宰する「ワールド・オブ・マズルカ・フェスティバル」の視察のためだ。

ショパンはこの国に生まれ、現役時代のほとんどをフランスで過ごしたが、彼の心はいつも祖国ポーランドにあった。彼が書いたたくさんのポロネーズやマズルカのインスピレーションの源が、農村の伝統音楽家たちが演奏する「農村マズルカ」であり、現在この「農村マズルカ」を取りまくユニークなムーヴメントは、ヤヌシュたちの献身的な努力によりワルシャワの伝統音楽シーンで熱い盛り上がりを見せている。多くのヨーロッパで70年代に見られたフォーク・リバイバルが、現在2010年代のワルシャワで起こりつつあるのだ。

ご存知のとおりポーランドの伝統音楽はショパンを始めとするクラシックの巨匠たちだけでなく、他の国の音楽にも大きな影響を与えてきた。ポーランドの伝統音楽が北欧に渡り「ポルスカ」になった。例えば日本でも人気のあるスウェーデンの伝統音楽グループ、ヴェーセンが演奏する楽曲のほぼ90%は「ポルスカ」だ。戦争中フランスへ逃げて来た音楽家たちが祖国を思い「ポロネーズ」を作った。チェコ経由の「ポルカ」はアイルランドの伝統音楽、特に西の半島の先で頻繁に演奏されるようになった。またその影響は遠く南米ブラジルにまでも発見することができる。

日本で知られているポーランド民謡というと「森へ行きましょう」や「踊ろう、楽しいポーレチケ」あたりだろうか。ワールド・ミュージック・ファンには、BBCの強力なバックアップのもと世に紹介され、来日もしたワルシャワ・ビレッジ・バンドが記憶に新しいかもしれない。またユダヤ系、ロシア系のショウ的な要素の濃いいくつかのグループも活躍しており、それらがポーランドの伝統音楽として国外に受け止められることは過去にも多くあった。だが、現在ワルシャワを中心に起こっているこのフォーク・リバイバル・ムーヴメントは、それらとはまったく種類が異なる物だ。そしてこのムーヴメントを牽引しているのが、これから紹介するヤヌシュ・プロシノフスキだ。

私がヤヌシュの音楽に最初に触れたのは2015年、とあるノルウェーのフェスティバルであった。100組を超える出演者が並ぶ中、集められた全世界のワールド・ミュージックの関係者の間で一番人気があったのが、ヤヌシュのバンドだ。しかし後から調べてみれば実はヤヌシュたちのこの活動は、その数年前からこの界隈では相当注目されていたようだ。2011年にはすでに英国の名門fROOTS誌が農村マズルカと彼らの動向を3ページに渡って特集。ヤヌシュのバンドは2012年、2013年とワールド・ミュージックの国際見本市WOMEXに2年連続で出演し、2013年には英国のSONGLINESが付録のサンプラーCDと一緒に彼等が牽引する農村マズルカのムーヴメントを大フィーチャーしていたのだから。(下の写真は2015年ノルウェーのフェスティバルでのヤヌシュ)

第2回へ続く