大木亜希子『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』を読みました


なるほど当たっているのがわかる本だ。確かに面白い。めっちゃ売れてるらしい。実録私小説ということだけど、ちょっとフィクションみたいな手触りがした。わたしはほとんどフィクションは読まないので、読んでいてちょっと漫画っぽいかな…と思うことも時々あったけど、でも読後の爽やかさといい、なんといい、素晴らしい完成度だと思う。

この著者、文章もめっちゃ上手い。上手いといっても、普段わたしが好きで読んでる本よりも全然軽い感じ。だからこそ分かりやすく、ヒットしてるだろう。

佐々木俊尚さんが「家族に何をもとめるのかというのが更新されつつある時代」という事を書いてらして、なるほどそういう視点で読んだら面白いかもなとも思った。それにしても、登場するおじさんササポンはもちろんだけど、お友達たち、そして精神科医の先生など、みんなが主人公…じゃない著者をあたたかく適度な距離感で見守っているのがわかるんだよね。でもそれを書いているのは本人なわけで、だから、つまりは、そういった事について主人公が周りの人たちの優しさに気づき感謝していく過程、って事なのかな…と思う。途中、偶然駅で再会してしまった先輩ライターだという女性が出てくるが、ヒール役っぽいのは彼女くらい。これ、すごくわかる。わたしもどうしても、もう絶対にこの人は苦手って人が結構な数存在している。普段はそういう人たちとは付き合わないし、万が一付き合わなくてはいけない場合もうまく距離をたもってなんとかやっているわけだけど、でもそういった事も自分自身に余裕がないとほんともう絶対にダメって気持ちになるのよね。病気してわたしもわかったわ… ほんと嫌いな人って… とことんダメだわ。そしてその嫌いな部分が自分の調子が悪いと余計強調されて感じられて、相手を許すことができない。だけど実際に主人公は頭のいい人だから、そういう事もちゃんと自分でわかってる。自分が生きていく上で誰が必要で、誰が必要でないか。

そして、こうやって、自分を適度な距離感で見守ってくれて、必要な時に側にいてくれる人たちに感謝できるようになれば、自己肯定感も不思議と生まれてくるもんなんだわ… ということだ。なんかわかるわ。そうやって少しずつ立ち直っていく主人公。いったいどうなっちゃうんだろう、と冷や冷やさせられるシーンもあるものの、とにかく本人は、その時、その時の状況を誠実に描こうとしているのが読者に伝わる。何度も書くけど、すごくまっすぐないいライターさんで、文章が抜群に上手い。

読むと止まらなくなる、と書いている人が多かったが、確かにそうかもしれない。わたしは3日に分けて読んだ。

うーん、Must Read アイテムだとは思わないけど、普段本読まない人とか、何か読んでいて楽しいものを探している人にはぴったりかもしれない。絶対おすすめ!とか、絶対に読んだ方がいいよ!ってことではないんだけどね。自己肯定感が低いと自分で自覚がある人は読んだら励まされるかもしれない。そしてササポンまでとはいかなくても、自分を適度な距離感で見守ってくれている周りの人たちに改めて感謝の気持ちをいだく事だろう。そして、そうなれれば、あなたは大丈夫ってことをこの本は伝えたいのかもしれない。わたしはそう受け取った。

そして最後にあったササポンと彼女とのメモのやりとりの写真には、ぐっと来た。文字の感じがそれぞれの性格をあらわしている。いいねぇ〜