映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』を見ました。




なるほど良くできてる。最高に面白い映画だった。笑いがとまらない。いちいち小ネタが効いている。

「バンドあるある」満載。ベースマンはこうだ、ドラマーはこうだ、ギタリストはこうだってのが、もう典型的すぎて超笑える。ベースマンはもの静かでおとなしくインテリ。でもかなりエキセントリック。ギタリストは派手にかますが、あまり内容がなく、ドラマーは食べてばっかりですぐ死ぬ(笑)。そして田舎バンドにありがちなバンドの典型として、オリジナルが一曲もない、作ろうとすると何かに似ちゃう…とか。ライブをやる予定なんてないのに集まって延々練習してる。それも10年以上(笑)。設定がよくできてる。

加えて「フィンランドあるある」「北欧あるある」も満載。音楽家やパフォーマーは本業(デイ・ジョブ)を持っている。女の人の書き方も面白い。フィンランドの田舎の娘は花柄のシャツを着てお父さんの言うことを聞き可愛らしく、一方のノルウェーの女は力強く、心が強いだけじゃなくて実際腕力も強く、組織の偉い位置について男たちを牛耳っている…とか。

無駄がなく、テンポのよい脚本。笑いもユニヴァーサルで、この完成度の高さは、まさにフィンランド映画もここまで来たかという感じ。実に感慨深い。本がとにかくよく練られててセリフや話の流れに無駄がない。こういうの「なんとかの回収」っていうんだよね。三谷幸喜がよく使うやつだ。古畑任三郎みたいなやつ。別にサスペンスではないけれど、1つ1つのエピソードがあとになって効いてくる。あぁ、そういうことだったのね、と見ながら納得していく(笑)。いや、ほんとうに上手い。上手い脚本だ。

ホームページに載っている監督たちのコメントを見たらフィンランドのユーモアは複雑でこっそりニヤリと笑うようなものが多いが、そうじゃなくて、もっと単純にギャハギャハ楽しめるものを作りたかったとのこと。なるほど。それには確かに成功していると思う。だからヒットしているんだよね。クイーンの映画じゃないけど、やっぱり音楽映画は「マニアではなく広い層にアピール」ないとヒットしない。いや、十分マニアなのか、先にかいた「北欧あるある」は満載なわけだし、ね。

あと彼らの口から登場していたバンド名などは、私は全然わからず。これがわかったら、またさらに面白いんだろうな。平日の真昼間に見にいったが、新宿の小さな映画館は満席だった。入れない人もいたんじゃないかしら。今から行く人は席を予約していくことをお勧めします。

最後のオチもいい。みんな納得の最高のオチ。こういう終わり方って最高だと思う。見た人はみんなスッキリ幸せな気持ちになるだろう。笑いと友情と音楽愛にあふれた感動映画だ。良くできてる。主人公のシンガー君もめちゃくちゃ可愛らしい健気で、彼の幸せを願わずにはいられない。

まぁ、ただ一つ言えることがあるとすれば、どうも深みがないんだよな。なんでだろ。クイーンの映画にもおなじようなこと感じたけど、この作品の場合、器用すぎちゃって面白くない、ってところかな。その点、数日前に見た『The Peanut Butter Flacon』なんか不器用で、でも愛に溢れてて、みんな必死でやってて、そこが最高だと思ったのだけど…。 北欧だから褒めなくちゃとも思ったけど、すみません、正直に書きました。でもこれがヒットするのは非常によくわかる。

でも実は北欧のバンドたちに対しても同じことが言えるのよね。最近の連中は、どうも器用すぎちゃって面白みがない。アイルランドとか、他の国のバンドみたいにがむしゃらに頑張ってて、それがみっともないんだけど、そこが魅力的とか、そういうのがない。いや、これ、めっちゃレベルが高いところでの話をしているんですよ。確かに老後の心配も他の国よりなく、福祉や教育が充実してて素晴らしいよな、ということはある。でもなんか生きる必死さとか、人生を生きる上でのみっともなさとか、そういうのがほしいんだよな。うまく言えないけど。制作してる側があまりにも頭が良く器用すぎちゃってる様子が感じられるのだ、この作品は。まぁ、それは作品そのものに罪はないんだからまったくもって贅沢な悩み? でも映画愛がビシバシくるような映画とは、また別物なんだよね。でも良くできているんだし、何はともあれこれがヒットしないとダメだよなとは思う。だから大ヒットおめでとうと思う。多くの人に見に行ってほしいと思う。

あ、そうそう。私にとっての唯一の救いは音楽がメタルすぎちゃって、まったく頭に残らないところ(爆)。私には単なるノイズにしか聞こえない。まぁ、ここが妙に残っちゃったり、ヒット狙いだったりするとアメリカ制作になっちゃうんだろうけど。そこまではいかなかったかな。なんか音楽映画で「当てにかかってる」のが見えちゃうと、一気にしらけるよね。そういう嫌味はまったくない。

まぁ、つまり面白いは面白い。っていうか、本当に面白い。人にも「面白いよ」と自信をもって勧められる。でもそれだけじゃ、心は掴めないんだよ、と。私の心は特にね。難しいよね、私もね…(笑)