大平一枝『男と女の台所』を読みました。これは素晴らしい!


この本はこちらのラジオで知りました。

新藤さんは思い出サルベージという活動に参加されているのですが、2011年の春〜夏と私が津田大介さんの事務所のお手伝いしていて、そこでお会いする機会があったのです。あの頃は、震災直後で何か自分もできないかと手探り状態だったんですが、自分で何かやるよりも自分よりもうんと影響力のある人のお手伝いをした方が世の中的に効果があるんじゃないかと判断したからです。実際、まったくのボランティアでしたが、良い勉強になりました。新藤さんやカメラマンの高橋宗正さんは、そこで出会った人たちでした。



思い出サルベージの活動は、津波に流されて持ち主が分からなくなった写真を集めて、それを洗浄し、もとの持ち主に返すというものでした。当時音楽の無力さを感じていた私たちですが、この新藤さんたちの活動は非常に素晴らしいと羨ましく思いました。つまりこの活動することによって被災された皆さんを元気づけることができる、そしてそれと同時に写真の素晴らしさも伝えるこができるから。2つが同時に実現されてるわけですから。

…という話とは別に、新藤さんが時々ビルリオバトルに参加されているのは、彼のツイッターなどを拝見して知っていました。ビブリオバトルって、こんな活動です。

新藤さんはビブリオバトル界隈では有名な方でして(笑)新藤さんがラジオで、この本を紹介していたのを聞いて、まぁ、読みたくなったというのが、この本を読むきっかけとなりました。

前置きが長くなりましたが…

普段私が積極的に読むようなタイプの本じゃなかったけど、結論から言っちゃうと、いや〜〜 、めっちゃよかった。これって朝日新聞のウエッブマガジン「&W」に連載されていたものらしいのだけど、一つ一つの台所に物語があり、家族があり、愛があり、別れがあり…と、とても味わい深い本でした。台所を見るとその人の生き方とかがわかるんだよね。

特に印象深かったのはホームレスのご夫婦のきちんとした生活。この感じわかるなぁ。うちの近所の荒川土手にもすごく素敵なホームレスのお家があった。1つは環七鹿浜橋の下。自転車まで置いてあって、時々洗濯物が干してあって、とても丁寧に暮らしているのが、外からでも見てとれた。もう1つは橋の向こう側だったけど、すごく綺麗に整頓されていて、ブルーシートで覆われ、畑まで作っているのが橋の上から見ることができた。ホームレスなんだけど、いやホームレスだからこその丁寧な暮らしってわかる。特にこの紹介されているご夫婦の話においては、感染症が不安だから手は綺麗に洗うという記述があり、ドキッとした。この本、3年前に出た本なんだけどね。ちなみにうちの近所の橋の下に住居をかまえていたホームレスさんは数年前にいなくなってしまった。あんなに立派なお家だったのに立退を命じられたのだろうか。もう一つの畑も作っていたホームレスさんは、昨年の台風の被害でたぶん流されちゃったと思う。しばらく橋まで行っていないので、よく分からないが…

このご夫婦のほかにも、著者の数回にわたる取材中に離婚を決意し、新しい道をあゆみはじめた女性がいたり、やりなおそうと努力する人もいたり…   はたまた50年以上連れ添った老夫婦もいたり(ソーダブレットとポテトサラダとアイリッシュ・ウイスキーが出てきたりして、もしかしてアイルランド好き?と思った)、子供がいたり、いなかったり、子供が独立して夫婦だけだったり。あとこれはユニークと思ったのは、外に女性を作って出ていった旦那の母(つまり義母)と暮らしている女性がいたり。そして自分に近いところでは、一人暮らしの実業家の男性。大きな一軒家に住み、広い台所で料理をしてスタッフにふるまったりしているなどなど。彼の話は面白かったな。あ、それから女性同士のカップルの話も良かった。

各台所の写真もあって(後半はカラー)、それぞれの生活を垣間見ることができる。しかし本当に家族って誰かと食卓を囲むことなんだよなぁ、としみじみ思う。そういや友達の夫婦で、奥さんが熱心なヴィーガンになり、旦那が肉好きで、最終的には別れてしまったという夫婦がいる。この本の冒頭の夫婦も似たような状況だったわけだが、同じものを食べるということは、いろんな価値を共有することだし、それがうまく共有できないということは生活をともにするのは難しいのかもしれないよね。そんなことも考えた。

ここ数週間、ずっと家にいて自炊中心の生活をしていると本当にいろいろ思う。私もよく考えたら服よりも化粧品よりもどちらかというと、旅と住む環境に力をいれてきたと思うが、自分の台所が大好きだ。食器は少ないが、道具はかなり贅沢にある。食洗機やホットクック、ベーカリーもある。本当に幸せだ。

さて、今日の夕飯は何にしようかな…そんなことを考える東京ロックダウン の日々が不謹慎ながら嫌いじゃなかったりもする。