HEROES OR GHOSTS



バンドメンバーなしでソロで歌うってのが、またよかった。

ダニー! メアリー・ブラックの次男で、私は甥っ子みたいに思っている。彼がフロントをつとめるバンド「コローナズ」は、今やお母ちゃんをしのぐ人気だ。今、ずっとメアリーの別荘(in ディングル)にいるみたいで、一人で配信しているのがなんか寂しいと思ってたら、先週のRTE(アイルランド国営放送)の看板番組LATE LATE SHOWに出演したみたいだ。動画があがっていた。

「僕らはヒーローになれるのか、亡霊として終わるのか。でもここ以外に自分たちがいたい場所なんてないんだ」そういう歌。途中わからない言葉になるところはゲール語。英語で歌って、そのあとゲール語をはさみまた英語に戻る。

しかしダニー、お母ちゃんと一緒で綺麗な目をしてるなぁ…

バルトロメイ・ビットマンの来日が中止になって心が痛い。まぁ、ベテラン勢はね、もう何回も来日して何度もギャラ払ってるから今終わってもなんの後悔もない。でも「これから頑張ろうね」って前回無理させたバンドや、若い子のことを思うと「絶対に今はやめられない」「これをなんとかしてからやめないと」と思う。ダニーなんかは、その筆頭だ。

コローナズ、ずっとインディーでやってきて、アイルランドで火がついて、それを日本でビクターさんがリリースしてくれて、来日も実現してすごく良かったんだ。あれはもう何年前の話だろう。と思って調べたら2009年のことだった。ビクターさんはロキノンなど音楽雑誌にも広告を出してくれて、それが無事に記事になったりして、はっきり言って英国などでのブレイクよりも早かった。本当にありがたかった。取材もたくさん入ったんだよね。

バンド名の表記をコローナズにしようかコロナズにしようか散々迷ったんだけど、ピーター・バラカンさんに相談してコローナズになった。バンド名は「あの頃ペニーレインと」に出てきたタイプライターのメイカー名から来ているのだという。

そもそも来日のきっかけは、当時のアイルランド政府観光庁の当時の担当者Aさんが「野崎さん、誰かミュージシャンをアイルランドから呼びましょう」と声をかけてくれたこと。パトリックス・デイのパレードのためだったんだけど、オファーされた時期はもうスケジュールがギリギリで、そもそもパトディの時期ともなれば伝統音楽のバンドで、日本に来れバンドはろくなバンドがいなかった。みんな3月はアメリカに何週間も出稼ぎに行くのが常でスケジュールが空いているバンドには良いものなんて残っていない。

それに伝統音楽好きで無料ライブやることに限界も見えていた。大型レコード店でインストアやると、もう毎回最前列は同じお客で、いや、来てくれるだけでありがたいのだが、CDも買わずに帰っていく。そういうのに、嫌気がさしていた。だから伝統音楽やっても、もう決まった人しかきませんよ、と私は言ったのだ。そういう同じことやってたら、まったく広がらない。ぜひコンテンポラリー系でやろう。このバンドなら日本のレコ社が出してくれる、そしたらタワーレコードとかHMVとかお店でも展開できますし、取材も入るから普段アイルランドと接点ない人でもきますよ、と私は、観光庁さんとレコ社さんと、それぞれを説得してまわった。そして来日が実現したのだった。

果たして自分の甥みたいな子が来日して、どうなるかすごく疑問だったけど…  いや、彼らは才能ある子たちですでにアイルランドではそれなりに成功していたから疑問はなかったんだけど、ただ私がすごく動揺しちゃうんじゃないかと自分のことがひどく心配だった(笑)。でも彼らが来日したらメアリーうんぬんというのは関係なく、まったく普通の普段の、新人アーティストの来日だった。

コローナズはその後、みるみるうちに大きくなり、そのあとユニヴァーサルのUKとワールドワイドにサインしたはいいけど、ありがちな話だが日本のユニヴァーサルにはリリースしてもらえず。結果、現状、日本で出たのはビクターからのファーストアルバムだけになっちゃっている。アイルランドでは大成功して、すごい会場をびしばしソールドアウトにしているけど、英国、アメリカ、あれこれ頑張ってはいるものの決定的な大きなブレイクには至っていない。やっぱりバンドのワールドワイドなヒットにはわかりやすいヒット曲が必要なんだろうな、とちょっと思う。

でもアイルランドではもう十分すぎるほど成功している。それになんというか、私はダニーが自分の好きなことを見つけて、それを進みながら、良い仲間にも恵まれ頑張っていることが嬉しいんだ。

この曲は、そのファーストアルバムに収録されていた曲で、コローナズが成功しつつある時に書かれた曲だ。今でも忘れない。日本の取材で、毎日新聞に彼らのインタビューが載った時、タイトルに「揺れ動く僕らを歌う」ってつけていただいた。すごくいいタイトルだ。たった9文字で、このバンドのことを的確に説明していた。インタビューしてくれた天辰保文さん、編集Fさん、このタイトルをつけてくれたKさんにはお礼の言葉しかない。そしてレコ社の今はママになったTさんにも。お元気でいらっしゃるかしら。そしてレコ社と私をつなげてくれた音楽出版社のSさんにも。今となってはすべては奇跡みたいだった。

コローナズはデビュー当時から結束の固かった4人のメンバーの一人が最近脱退して、それでも頑張って活動を続けている。つい最近、癌でなくなったギャヴィン・ラルストンもコローナズがデモテープ作っている頃から熱心に彼らを応援していたっけなぁ。私もダニーを応援する。一生応援する。

ダニーがずっと歌っていられれば、私なんぞは本当にどうなってもいいんだ。ずっとずっと歌っていてほしい。ダニー。ダニーのために早くこの事態が収まりますように…と祈る。











PS
直子ガイドさんが教えてくれたんだけど、インタビューもすごく良かったよ、ということで、ここで日本からも見れます。「バンド名のこと気にしてない」「おばあちゃんがなくなってお葬式があって久しぶりに両親にあってもハグもできない」とかいろいろ話してたけど明るく元気な感じでした。教えてくれた、直子さん、ありがとう。ここで一ヶ月ほど見れるようです。