ま、それはともかく…何が言いたいかというと、女性誌やちょっとしたネット記事での北欧ぶりっこ趣味、ちょっと人生にくたびれたい…みたいな考え方は好きではない、ということが言いたいのだ。確かに北欧の雑貨は可愛い。そしてすっきりしてておしゃれだ。機能的でシンプルで使いやすい。でも、北欧の国から学ぶべきことはそんなことじゃない。
そこに行き着くまでの彼らの努力ももっと知ってほしいのだ。もちろん充実した福祉や教育、老後の心配がない社会は、日本に住むわたしたちには理想郷にうつるかもしれないが、彼らの、それらを実現するために費やされた多大な努力、実行力、そして政治に対する関心の高さ、合理性、頭の良さなどを、わたしはもっと知ってほしいのだ。そしてそんな優秀な国で暮らしていたとしても、つきない人間の悩みや苦悩などを、もっと伝えたいのだ。何もしなくても幸せになれるような、そんな理想郷はこの地球上に存在しない。そして、そこをつきつめた北欧だからこそ、世界中の多くの人が共感できる文化もある。
だから北欧からソフトな記事ばかりではなく硬派なニュースも届けてくれる鎧麻樹(あぶみあさき)さんは、本当に素晴らしいジャーナリストだと思う。彼女のYahooでの記事はこちら → https://news.yahoo.co.jp/byline/abumiasaki/
実物の彼女にノルウェーの音楽フェスティバルでお会いしたことがあるが、わたしと背があまり変わらなく(147cmくらいか?)、パワフルで元気な明るい女性である。本当に現地ではお世話になった。だから贔屓目で書くのではないが、この本は期待通りの充実の内容だった。確かに最近は選挙関係でノルウェーだけではなく北欧のあちこちの選挙を取材しているのを記事を見て知っていたけど、それがこんない素晴らしい本に仕上がったというわけだ。
硬派だといっても、内容が難しいわけではない。すごく読みやすくて、全編カラー。写真が本当に多いから、すいすいあっという間に読めてしまう。特にまるでお祭りのような選挙運動のポップな色彩や、政治家に直接質問する子供たちの真剣な眼差しに心を打たれる。そんな写真が満載なのである。
例えば本番の選挙の日の前日、各学校で行われる子供たちによる模擬選挙の結果には、どの政党も注目しているという。だから政治家も選挙権を持たない子供たちに対しても、まっすぐに真剣に答える。こんなこと子供のうちからやっていれば、なるほどこの国の人々が政治に関心が高いのはよく理解できるよね。そして驚くことに大人たちが自分自身の生活に密着した質問が多いのに対して、子供たちの質問は「移民について」など、周りの人や自分と違う立場の人、社会全体に関する質問が多いという。いいね!!
なんと言っても、教育において、子供たちが教えられるもっとも重要なポイントは「自分の意見が尊重されている」という圧倒的な事実だ。「自分の意見に価値がある」と思えることが、一人一人が社会を変える力があると信じる力になる。それが選挙に行くのはもちろんのこと、自己肯定感にもつながり、世界幸福度ランキングみたいなものにも反映されていく。そうか、そういう仕組みだったのか、と妙に納得。
圧巻は選挙グッズ、ノベルティやお菓子などの写真のコレクション。ワッフルからパン、ジュースから日焼け止め、文房具まで各党が用意するグッズが楽しい。そしてそこにこそ、これまた北欧のシンプルで、かつ「わかりやすい」デザインも生かされる。そう、民主主義は「わかりやすくないと意味がない」のだ。(なんか、ここに北欧の機能的なデザインの真髄をみた気がした)
あと学校教育もググってわかる数字は覚えなくて良い、ということにすでにシフトされている、という話題も興味深かった。だからスマホを持ち込むことは教室でも許されている。それよりも学校で学ばないといけないことは、もっともっとたくさん膨大にあるのだから。あと多くのディベートが学校で行われているほか、人格と議論は別物、という考え方が徹底されていて、それを学校では重点的に教え込まれる。
またこの本には音楽フェスティバルなどに気軽に顔を出す政治家の姿も収められている。
是非是非ここをご覧いただいてる皆さんにも、表面的ではない、彼らの本当の姿を知ってもらえたらと思います。
子供たちの真剣な眼差しがいい。この写真、とってもいい! この子も将来首相候補か?
おばあちゃんもブルーのコートがおしゃれ。「いざ投票へ!」みんな、自分の意見が尊重されていることに疑いを持っていない。
ありとあらゆる選挙グッズには、たくさんのページが割かれており、写真が多数掲載されている。どれもとても可愛い。
鎧さん、これからも頑張ってね!! 日本から応援しています。
PS
あぶみさんの、下記はネットで読める彼女の音楽業界についての記事。ぜひご一読ください。
働きやすい職場のために。外見を褒めるのは問題か? 文化・音楽業界とセクハラ
待っていても男女差はなくならない、音楽界の改革 クオーター制の国ノルウェー