おもしろい。面白い本だった。特に同時代の作家を二人並べて比較することで、時代のせいだけではなくその人の本来のキャラクターが浮き立ってくる。もちろん「お財布事情」をあかすことの興味深さもあるけれど、これはめちゃくちゃ面白い切り口だし、ある意味お金というフェアな軸を持った視線なのだ。さすがだ。「ビジネスでたどる西洋音楽史」という副題もついている。
読みやすく、雑誌のコラムみたいで、すいすい読める。そしてそれぞれ「収入」「贅沢度」「慈善度」「後世への影響」、育った時の環境を知るためにも「親の経済力」「音楽一家度」などにSABCランクで比較されているので、とてもイメージしやすい。
たとえば、この二人…
ボブ・ディランのスピーチだっけ? シェイクスピアだって生活のために書いていたのだ、と言ったのは。どんな芸術家だってクライアントの依頼や締め切りやギャラ交渉を気にしていたのだ、と。何百年もあとにおいても読者がコピーライトが切れた本を買っているからといって、それがいったい本人にとって、どんな意味があるんだあろう。死んでしまった本人にとっては今、自分の生活がすべてなのである。
いつだったか新田次郎だったかな、あの辺のいわゆる文豪の人の書いた本を読み、あの時代は「NHKの大河ドラマ」採用というのが一つの大きなステイタスで、それを狙って書いていた…という話を聞き妙にしらけてしまったことがあるのだが、いや、そんなことを言ってしまっては本人がかわいそうだ。文豪だって人間なのだ。だから彼らの実態はそうなのだ。そのさらに前の文豪だちだって芥川賞だの、映画化だの、なんとかという有名雑誌に掲載…みたいなことと芸術家たちはひたすら目指してきた。どんなすぐれた芸術家でも生活をしていかねばならない。家族など周りの環境も無視できない。
それにしても、お金をめぐる話題によって、それぞれの仕事への向かい方、価値観など、あらゆることが想像しやすくなる。
ほんと私もこの本を読んでいてクラシック音楽のこと知らなすぎるよなぁ、と半ばあきれた。ショパンについてはさすがにいろんなことを勉強したのでだいぶ頭に入っているのだが、例えば年表を見てラフマニノフがこんなに新しい時代の人だったとしって愕然。あの古臭いというか王道なメロディの感じはなんなのか?(いや、大好きな作曲家なんですよ)…とか、当時の作曲家ってお金持ちや公の組織の依頼で書くことが多かったと思うのだけど、自分で売りこんだ楽曲とまったくの依頼で書いた曲との違いとか、いろいろあるんだなぁ、と改めて。いや〜現代の私たちと何も変わらないでないの!
そうそう、最近ベートーヴェンのFolk Songのプロジェクトに興味を持ち、あれこれ勉強しているのだけど、この「出版社の依頼でお金のためにやった」というのに笑ってしまったり… (この動画の3分くらいのところ)自分でも何かクラシックの企画ができないかなぁと探っているところなのです。それにしても「(アイルランドの伝統音楽を)出版社が売れる」と判断した、って、私たちも体験した90年代のケルト音楽バブル・ブームも笑えない話ですよね、おもしろい!(笑)
昨日の配信がアーカイヴでも見れる:おめでとう!ベートーヴェン🎉 ~3時間ノンストップ♪音楽トーク😁🎶 https://t.co/PxSpHlwoVc @YouTubeより
— 野崎洋子 (@mplantyoko) December 17, 2020