ヒットが生まれる時 高野秀行さん辺境チャンネルにつられて『ワセダ三畳青春記』マイ・ブーム。

 


今、話題の高野秀行さんの辺境チャンネル、初回からしっかりみている自分なんですが、3回目にしてこれをみたら、第5次高野本マイブーム到来って感じ。だって大好きな一冊なんだもん。高野さんの大傑作『ワセダ三畳青春記』。久々に再読してみました。

もう、バカバカしいとしか言いようがない。バカバカしいんだけど、もう大笑い。最後はほろりと泣ける。これは最高に最高の一冊だ。高野さんの本の中で、ベスト1かもしれない。いや、もちろん『ソマリランド』も『アフリカ納豆本』『イスラム飲酒起工』大好きな本はたくさんあるけれど…

それにしてもかっこいいのは「大家のおばちゃん」だ。へんなバスに拉致(?)されそうになった時、高野さんをかばい「高野さん、逃げて!」とか、めっちゃかっこいい。そして辺境チャンネルに動画で出てきた動く本物のおばちゃんをみるにつけ、まるで樹木希林みたいな感じで本当に素敵な方なのだ。なんて上品で優しくて強い人。あぁいう人を目指したいなぁ、と強く思う。お話もすごく面白く「語り部」って感じ。私にはまだまだ修行が足りないけれど。

そして辺境チャンネルで、この本がヒットした経緯を聞くにつけ、ヒットってなんか愛情&電流だと思う。ヒットになる要素ってのは、実はそこにすでにあって、読者(音楽の場合はリスナーだね)はそこで待っていて、要はそこにうまく電流が流れるかどうかなのだと思う。

以前、元ワーナーチャペル、現在ソニー出版の顧問でもある、業界でもビックネームの大尊敬するAさんはいみじくも言った。「どんな音楽でも2万枚は売れる可能性がある」と。つまり2万売れない場合、それはスタッフが悪いのだ、と。この2万という数字の背景など、もうとっくに忘れてしまったけど、妙に説得力のある言葉じゃありませんか。

作る側の作品に対する愛が、どこまで電流として読者に届くのか、なんだよね。そしてやっとヒットとなった高野さんのこの本(高野本は、それまで増刷ヴァージンだったらしい)、直接の担当を離れてもその後の高野さんを見守る堀内さんの編集者を超えたプロデューサーとしての気持ち、良かれと思い送り出してやる時の気持ちとか、もうたまらない。あの、アーティストが育って、もう自分の役割ではない、手を離して送り出してやらねばという時のあの気持ちは、私にもすごくわかる。結局ダメになって出戻ってきたアーティストもいるのだが、うちで盛り上がっているので、大手から声がかかるようになったというバンドも過去にはいくつかあった。

あぁ、もうやばい。本当にうらやましいです、堀内さん&高野さん。そして堀内さんの魂は、現在の高野辺境チームの中にも永遠に生き続けるのであった。素晴らしいな。堀内さんは何年か前に亡くなられたのだが、今でも高野チームは「堀内さんだったら、どうするかな」って考えるらしい。あぁ、わかる。

プロデューサーとしてもそこまで入れ込めるアーティストと出会えた堀内さんも本当に素晴らしいと思うし、そういうお互いに出会えたのも、また堀内さんの力であり、高野さんの力なのだろう。読者はその恩恵に預かって、自分の手元に届いた作品をぎゅっと抱きしめるしかない。

なんのことを言っているかわからない人は、ぜひ『ワセダ三畳青春記』を読み、上の配信を見てください。私の言っていることがわかると思う。

私も、ほんとに誰にも知られていない音楽を発見し、誰のも知られていない音楽を一人でも多くの人に聞いてもらうべく努力しないといけないな、と思う。そして「あの子は私が育てたのよ」と言ってみたい。

配信の中で杉江さんの言ってた「ちょっと話しかけられない後ろ姿」というのは、私にもわかる。というのは、よく友達が私とミュージシャンが前を歩く姿を後ろから撮影、ということがよくあるのだ。なんか二人の間に入れない感じ。

この写真なんか、ちょっとそうだよね。自慢しちゃおう。友達が撮ってくれた、私と今年7月に突然亡くなったスタクラの写真 in 浅草。スタクラ、よく喧嘩もしたけど、いいやつだった。

なんかアーティストとプロデューサーって喧嘩しやすいんだよね。アーティストの連中はそれこそ遠慮なく、こちらの内側にぐいぐい入ってくる。普通の人なら「野崎さんに悪いでしょ」って思うことも遠慮なく言ってくる。そして喧嘩になる。でもそれがすごく人間が近くに感じられて私は嫌いじゃないんだ。

私は大家のおばちゃんほどかっこよくないし、堀内さんほど熱くないけど、自分のミュージシャンとそういう関係を作っていきたい…と思わず感情移入してしまうのであった。そういう気持ちを忘れたくなくて、自分のブログに自分のためにメモっておく。