絲山秋子『妄想書評』を読みました 爆笑につぐ爆笑 絲山さんが振り切れた?!

 


ベランダの姫リンゴの鉢の上に置いてみました(笑)

いっやー 爆笑につぐ爆笑。絲山さんのユーモアが振り切れた一冊です。ここで取り上げられている本や雑誌は一冊も実際に存在していません。タイトルも、作者も、出版社も… すべて架空のもの。しかしそのネーミングに小技が効いていて、一文字一文字が、めちゃくちゃ笑えるのです。これは著者は書いてて楽しかっただろうなぁ。っていうか、結構書くのに手間も時間もかかってるんじゃないかと思います。そう! 冒頭にご本人が書かれているように嘘というのは作るのに時間がかかる(笑)

でも読者側といしては、あっという間に読み終えてしまいました。装丁が可愛く紙も素敵な感じなのでお風呂に持ち込むのは気が引けたのですが、持ち込んだら1風呂+お布団の中の数十分で読み終えちゃった。そのくらいスイスイ読めちゃいます。でもあちこちに笑いの地雷が仕込んであって、一文字たりと読み逃せない、気の抜けない本であることも事実です。

1冊目からして『「舌打ち」の中世興亡史』っていうんですよ。爆笑でしょ? 他にも『写真で「一人おいて」と省略される身にもなってくれ』=キャッチコピーは「この一冊で薄幸ブームのすべてがわかる」とか。なんか出版社を揶揄しているとしか思えない。そういや、出版社名とかありそうでない社名だったり、ほんといちいち小技が聞いてる。ちなみに絲山さんによるとこの(ウソの)「薄幸ブーム」(笑)には、色鉛筆の白、サービスエリアの無料のお茶、レンタカーの不人気車種、パンクバンドのバラード、なますと田作りだけのおせち…などに熱狂する人々もいるそうで、この本で著者はそういった人たちを熱心に取材しているのだそうです。

あ、あと自動翻訳機の最王手WTAXIESの経営者綿串淘汰(わたくしとうた)著『ため息風力発電小屋だより』というほのぼのエッセイとか。もうタイトルと設定からして最高に笑える。ありそうで、ないでしょ? っっていうか、あるわけないでしょ、そんな本(爆)

『月刊ふくよか 年末年始特大号』のリバウンド特集とか…そんな本あるわけない!! そしてその書評なんですから、どんなものか想像するだけでも楽しいと思いませんか。その特集によれば、リバウンドに成功者のすべてに共通しているのは「体重はステイタス」「体の重さが信用の重さ」というぶれない信念だそうで(by 絲山さん)。もう何度も書きますが、いちいち笑えます。

最後の方に登場する犬(著者はジョン・レトリバー、訳者は柴田犬作という・笑)が書いた本『アイコンタクトでらくらく操縦! 飼い主自由自在』もいい。

一方で、自分の基礎知識が足りなくて笑えない(よくわからない)ネタもあったけど。いやー このありそうでないというギリギリのラインを行くところが著者の非凡なところです。いや、これだけ書くのはきっと頭をすごく使うよなぁ!

そして連載が進むにつれ、書評よりも書評が始まる前段の小咄的なネタも充実してきて、思わず爆笑してしまいます。雨の中歩く若者集団@苗場のくだりには爆笑。そして31アイスクリームのピンクのスプーンも。こんな本を読んでお風呂でニタニタしている私は本当にバカだよなぁ、と思いつつ、著者のユーモアに引き摺り込まれてしまうのでした。いやはや、参りました!(笑)

Webで連載されていたエッセイをまとめた自費出版らしく発売になったばかりですが、すでにレア・アイテム。絲山さんのネットショップBASEいとろくで購入できたのですが、すでにソールドアウト。あとは一般の店頭在庫を狙うしかないかな。ここにもしかしたら最後の1冊くらいあるかもしれませんが…。あとここにも。

絲山さんの本は芥川賞もゲットした『沖で待つ』の他にも名作がたくさん。文章に角幡唯介さんみたいにロック・テイストがあるところが好き。なんというか、昔のロックの名盤みたいにゴシゴシ磨かれたすごく完成度の高い文章なんですよね。とはいえ、うちで積読になっちゃってる本もまだある。次はセネガルのエッセイ本を読もっと。

 


 絲山さん、こんな展示もある!! 楽しそう。なんとかコロナ明けにうかがおうっと。