古き良き時代の西新宿


畔柳ユキさんのブログがおもしろい。

いやーーー時代だよね。この映像20分ほどですが、ぜひご覧ください。すごく良いから。


この店員の彼が熱く語るところを聞いて、私も胸熱。いやー いい話聞かせてもらった。

こういう話を聞くといつも思い出すのは音楽ライターの赤尾美香さんのお話。もう随分前に赤尾さんとブルース・スプリングスティーンの映画を見に行った時。赤尾さんが教えてくれたのだ。例えばブルースがあぁやってステージにあげたり、リクエストをかなえてあげたり、特別扱いするファンについて、他のファンは自分でなくても全然かまわないんだって。本当に赤尾さんの話はちょっとした目ウロコだった。

主催者としては、常に他のお客さんからクレームが出ないようにというのを気を付けている(笑)。だから「みんな同じに扱ってもらわないと」「一人だけ特別扱いされてもこまる」とか思っちゃうわけなんだけど、本当のファンの心理って違うんだ、と。(でも、それを思うにつけ特別扱いされたいなら高額なVIPパスを買いなさいとか言っちゃう音楽業界のシステムって本当に乱暴だよな…とも同時に思ったり。アーティストとファンの夢をバカにしてる…。それはさておき…)

だからこの元店員の彼が興奮気味にジョニーの来店の話をするのを聞いても、みんな嬉しくなってしまうわけなのだ。いやー ユキさん、さすが。ファンの心理をよくつかんでいる。私もグッときてしまった。こんな魔法の1日が、この彼の一生を支えているんだね。いい話だよ。

ちなみにこのブートレッグのお店AIRSはピーター・バック先生もご愛用で、会員証まで持っていた(笑)。ここにも何度か書いたことがあるエピソードだけど、面白い話なので、また書く。それはある雨の日だった。DIGというシンコーミュージックの雑誌の取材で、ロビン・ヒッチコックとマイナス5の御一行は編集部からお小遣いをもらい、西新宿の中古レコード店に繰り出したのだ。そして小滝橋通りにあるタリーズでみんなでその戦利品を囲んでわいわいとやる…という内容の取材だった。みんな楽しそうで、ロビンなんぞは「このレコードは色が綺麗だから買った」とかある意味「受け」をねらっていたが、私はロビンよりもピーターの中古屋ハンターとしてのプロフェッショナルぶり(餌箱をあさる様子とか)にめっちゃ感動していた。ピーター、慣れてる…(笑)。どんなお店に入っても、さっとコーナーの位置を読み取り、餌箱を効率よくあさるピーター。かっこよかった。

そんなふうに西新宿をうろうろしていた時、ピーターが「オレはあの店にも行きたい」と言って、AIRSさんでスポーツバックいっぱいのDVDを購入していたのだ。ただしブート屋さんということで、このショッピングは雑誌には掲載されない。でもピーターはほくほく顔で嬉しそうだった。ちなみにマイナス5は日本の直後のオーストラリアのツアーのあと、日本経由でのフライトに乗り継ぐ旅程になっていたため、彼らはオーストラリアから日本にまたやってくることになっていた。成田で一泊することになっていたので、「その荷物、オーストラリアに持っていって往復する必要ないよ、成田にまた持ってきてあげるよ」と私はそのスポーツバックをピーターから数週間ほど預かったのだ。それを見ていた(直後に来日した)グレン・ティルブルックが「どれどれ」とピーターのバックをあさり、2枚ほどDVDの内容を自分のパソコンに落としていたのは内緒にしておこう(笑)

しかし男の子って中古盤屋が好きだよね。中古盤屋めぐりこそ、男の子の遊びだ…と思うよ。
そんなふうにブートを前にして中学生みたいなピーターやグレンは可愛かった(爆)

そうそう、ブートといえば、某ブート雑誌がグレンを大きく取り上げてくれるという話があがった時があった。私がその話を嬉々として五十嵐正さんに伝えると、タッドは「雑誌がグレン勝手に載せるのはいいとしても、インタビューともなれば記事に協力したことになるわけだから気をつけなさい」と厳しく忠告された。あれには本当に感謝している。こうやって大先輩たちのアドバイスを受けながら、こういう音楽業界を泳いできたわけだな、私も。

ちなみに自分はブートというものは、あまり買ったことがない。唯一覚えているのはジュリアン・レノンの綺麗な色のライブ盤で、音質もまずまずだった。でも何度も聞いた記憶はない。LPが2,500円くらいの時代に3,000円くらいしたと思うが、バイトもしていなかった学生の自分としては大きな買い物だった。でも自分はコレクターではない。そもそもLPやCDの所有枚数もたいしたことないと思う。

それにしても…と思う。このブートのお店の経営者たちは、今いったいどうしているんだろう。例えば先日紹介した「洋楽マン列伝」に載っているような人たちとは、まるで一線をかくすわけだが、彼らこそ自分自身のリスクをかけ、音楽業界にコミットしていたことは事実である。そういう人たちのリアルな、すごい話もたくさん聞いてみたくなった。…というか、そっちの方が興味あるよな。サラリーマンやってる中で偶然ラッキーにもそのポジションを与えられた人たちよりもよっぽど興味がわく。

とはいっても、それはあくまで日陰の場所なのだ。そこがポイントだ。そういえば大好きな漫画『この女(ひと)にかけろ』で出てきたヤクザまがいの商売をする女性(黒田)と銀行員の主人公の女性の某ベンチャー企業をめぐる対決を思い出させる。あの時も銀行員の彼女の上司は言った。黒田みたいな存在は勝ったとしてもあくまで日陰の存在なのだ、と。そして日陰の存在の人たちは、本当はお日様の当たる場所で堂々と仕事をすることを望んでいるのだ、とも。ブートレッグの悲しさがここにある。

でもレコード会社に力がなくなった今、こういう世界の話をどっかの音楽メディアで連載してくれたらいいのになぁ、と思ったりもした。「洋楽マン列伝」よりももっと面白いものができるように思う。

音楽文化はこの時代に生きたみんなの財産なんだから。これらのことがすべて過去のことになったとしても、その魔法は今も私たちの中に生き続けている。