さて、野崎は松田美緒さんの10月23日発売の新譜「ラ・セルヴァ」のプロモーションのお手伝いをしていますが、先日、松田さんがゲレン大嶋さんがホストをつとめる熱心な音楽ファンに人気の番組「OTTAVA Andante」にゲスト出演しました。
その内容がとても良かったので、ゲレンさんに許可をいただき、番組の書き起こしを掲載させていただきます。
番組が聞けなかった方も、良かったらぜひ!
ゲレン大嶋さん(以下、G):新しいアルバム、ジャケットからして、ものすごく素敵。もちろん音の方も最高です。まずは1曲目。
松田美緒さん(以下、M):Carlos Gardelの有名な曲で、El dia que me quiearas。ウーゴ(プロデュース)のヴァージョンでお聞きください。
♪ El dia que me quiearas 想いのとどく日
G:たぶんOTTAVAリスナーの皆さんはきっとこの曲は聴き慣れていると思いますが、だいぶこれは…
M:…アレンジがだいぶ違いますよね!(笑)
G:特にOTTAVAでかけているのは、最近のクラシックのギタリストの人がアレンジして演奏しているインストルメンタルのものが多いのですが…いずれにしてもまったくサウンドが違う。
M:7拍子で拍子も違う。
G:よくこの拍子の上で松田美緒さん平然と歌っているなぁと思ったんですよ。ウーゴ・ファトルーソ、今回のアルバムのキー・パーソンですが…
M:ウーゴはウルグアイ音楽の人間国宝。今、78歳。素晴らしすぎる音楽家ですけど、今回10年ぶりにアルバムを一緒に作って、選曲も編曲もすべてウーゴがやってくれて…。ウーゴは「いつか美緒にガルデルを歌わせたい」ってずっと前から言っていたんですけれど、今回それがかなって。
でも来たオケがこれだったから「やってくれたー!」と思ったんですよ(笑)。でも、ものすごく自然なんですよね。小難しくないというか。ウーゴ、さすがだなぁと思って。
G:若いころはウーゴさんはロックっぽい、フュージョンっぽいことやっていて、北米行って活躍してらした。
M:その後、ブラジルに行ってミルトン・ナシメントのアレンジャーを長くやって…。
G:松田さんといえば、ウーゴさんとの付き合いもそうだけど、本当に「旅の中でいろんな場所の、まだ僕たちが知らない音楽を見つけてきて、それをちょっと…エディター感覚というか、アルバムごとに雑誌の編集長がこういう一冊にしようと考える感じ? 編集長がライターやカメラマンを当てていくみたいな…。松田さんがそんなふうに歌でこちらに音楽を伝えてきてくれるみたいな、そういう感覚がありました。
M:本当に音楽に導かれて、歌に導かれて…ですね。ポルトガルのファドから始まって、大西洋の歌手になろうと…。
私は言語が好きだったので、18歳の時に外国人の友達が多かった中で、ブラジルの友達ができたんです。それまでイタリア語とかやっていて、ずっとイタリアに住みたいと思っていたのを、そんなきっかけで今度はポルトガル語をやってみようと思ったんです。CD屋に行ったら1枚だけ、かわいそうな感じでファドがあったんですが、それを買ってみた。そしたら、それがアマリア・ロドリゲス。彼女の歌を聞いて…
G:ファド界の美空ひばりさん的歌手ですね。
M:そうですね、国民的、世界的歌手です。その影響を受けてリスボンに住んで…。リスボンとかアンゴラとか…ブラジルの歌もずっと歌っていました。でもブラジルに呼ばれて新大陸に初めて行った時、「ここが私の大陸だ、もう港で待ってられないよ!」と思ったんです(笑)。それで大西洋の歌手になろうと決意しました。
そして1枚目の「アトランティカ」を出して、それからもうずっと止まらない旅ですね。
G:ずっと旅をしながら、僕らが知らない音楽を届けてくれる稀有な存在の松田美緒さんなんですが、今回はウーゴと組んだわけですね。
M:10年前にウーゴとウルグアイでレコーディングしたんですが、その後の10年間、私は日本の歌の発掘に力をいれたので、しばらく間があいてしまいました。日本国内のいろんなところに行っていろんな歌に出会って「クレオール・ニッポン」「おおいたの歌」をやったり。でも、もう一度音楽そのものに没頭したいという気持ちがあったんです。
(パンデミック中に)オンラインで私がやっている「Through the Window」という配信ライブを始めたのですが、その収録のために「最近作られたあなたの歌が歌いたいんです」とウーゴに言ったら、ウーゴはすぐ曲を送ってくれて、それが今回のアルバムに入っている「トンボの旅路」という曲でした。
G:そこからこのアルバムがスタートしたんですね。早速2曲続けて聞いてみましょう。
M: まず1曲目は、「密林 その光」という曲です。この曲は、本当に歌詞が今の時代を歌っているような深い歌詞で。密林が、光として私たちを導いている。出口が見えないこの状況に絶望しそうになるけれど、そんな時、密林が私たちを導き、そして私は新しい次元に行くのだ、もう後戻りはしない…と。そういう歌詞です。
G:これはどういう人が書いた曲なんですか?
M:二人のウルグアイのアーティストが書いていて、そのうちの一人のフェルナンドさんはウルグアイのラジオ番組を持っているので、最近そこに私も出演したりしてすごく仲良くなりました。ウーゴはOPAのバンドの時に、この曲を歌っていたんです。そして、もう1曲「Hurry!」は、ウーゴ・ファトルーソの作品で、名曲中の名曲です。
♪ La selva – Esa luz 密林、その光
♪ Hurry!
G:松田美緒さんのサウンドというとアコースティックなものという印象が強かったんです。だから松田美緒さんみたいなヴォーカルと、今回のアルバムの電子音を多用したものって、ともすると似合わないような気がしたのですが、まったくそんなことがなく、それどころかピッタリなんですよね。
ウーゴさんのサウンドが…僕はシンセサイザーのこと詳しくないんですけど、懐かしいアナログ・シンセみたいな、70年代を思わせるような… 例えばスティービー・ワンダーが使っていたようなそんな印象です。
M:なんというか、人情味があるような感じですよね。
G:こういうのってちょっと匙加減が違うと全然違うことになっちゃう。
M:やはりウーゴが本当に素晴らしく、そこにプレゼンスがあるというか、ウーゴがそこで弾いているという存在感ですね。彼の指から伝わってくるエネルギーがすべて入っているし。
G:音の選び方からタッチからすべて。本当にあのリズムとサウンドと、そして松田美緒さんのヴォーカルが本当に素晴らしいです。
今回特にサウンド… ヴォーカルのサウンドという意味でも素晴らしいと思うんですけど、去年からこういう世界になってしまって、直接会って海外の人とコラボレーションするということは難しい時代になっちゃいましたけど。今回の制作は?
M:はい、リモートですよ、流行りの(笑)。
G:…ですよね。でも、今は技術的にもそういうことはできるし。
M:10年前の2枚のアルバム作ったり活動したりしてきたから、信頼関係というのもあって、ウーゴもこうやって一緒に作ってくれたんです。本当に今回はウーゴに全部お任せして。最初は配信のために1曲作ってくれて、本当に一緒に音楽ができるのが嬉しかったので、「ウーゴの曲ばっかりの、そんなCDを作りたいなぁ」ということを話したら、そしたらウーゴが自分の曲もいいけれど、ウルグアイの他の作曲家のものを入れてつくろうよ、と。「それは、めっちゃ嬉しい!ぜひ!」ということになって始まったんですね。
G:ウーゴさんのそういうところが懐が深いですね。
M:毎日曲が送られてきて、全部OKって言って、すべてウーゴにお任せして、そしたら、次はどんどんカラオケが届き始めた。それを私は携帯でならして、いつもカラオケ練習ですよ。そういうことをしながらだんだん慣れていって、2月にやっとスタジオに入って、滋賀県でヴォーカルを録音しました。
G:このBOSCOというスタジオは、沢田穣治さんが最近、レーベルを立ち上げられたんですが、そのレーベルも、ほとんどそこで全部録ってらっしゃるようですね。
M:私も最近のアルバム「おおいたの歌」の時もそこで録ったし、ビクターの「アトランティカ」の時も実はそこで録っているんですよ。
今回のマスタリング・エンジニアは、その時にマスタリングしてくれた小島KOTAROさんという方で、15年前の「アトランティカ」チームがここで再結成(笑)。素晴らしいところですよ。琵琶湖が見えるんです。
G:最近、気になっているんです、そのスタジオ。ヴォーカルの素晴らしい響きを聞くと、素晴らしいエンジニアとスタジオなのだろうなと思います。まず楽曲、そしてこのサウンド。その真ん中にいる松田さんのヴォーカルがものすごく素敵ですね。
そして今ね、CDがあまり売れない時代じゃないですか。ミュージシャンが集まるとすぐその話になるのは、本当はよくないのですが(笑)、そんな風に、なかなか製作費回収するのも大変な時代の中で、CDの板がただ入っているだけ…というデザインにすることも多いし、それを否定はしませんが、一方で、こんな時にCDを買ってくれるんだからちゃんとパッケージとしても満足してもらいたい、ということもありますよね。
M:そうです。本当にこれは創造すること、クリエイションで、一番本質的な音楽的なことなので、売れないから安くあげようとか思いたくないんです。ウーゴが宝物を私に託してくれたので、すごくこだわって、満足いくものを作ろうと思って。音質もそうですし、アートも。アートは、山田学さんという方が、1曲1曲にぴったりあうアートを作ってくれて…
G:これジャケットが本当に素敵で、デジパックっていうんだけど、上質な紙で作られていて、そこにプラスティックのトレイがあるという、ちょっと厚みがあるタイプのもの。これが本当によくこの時代に、ちゃんとかけるものをかけて作ったなぁ、という印象です。
これね、手にしたら、音ももちろんなんだけど、松田美緒さんの作品なんだなぁ、と。
M:はい、すごい美しいアートです。実はこのジャケットだけでも飾れるんですよね。
G:デザインを縦にしたんで、CDを休めの姿勢にすると自立してくれるんですよね(笑)
美味しいお酒でも傾けたから、アルバム聞くと、もうすぐにでも元がとれますよ。中のブックレットもフル・カラーで、1曲ごとの歌詞があって…
M:こういう翻訳も心をこめてしました。
G:不思議なデザインで、宇宙の密林というか、深海のようにも見える。
M:そう! これなんかイカみたい。
G:珊瑚のピンクの卵が浮遊しているようにも見えるし、すごい神秘的で美しいジャケットです。
M:ウーゴの音楽が密林なんだけど、これからの時代…人間とか時間とかすべて超えて、酸素がないけど生い茂っている宇宙の密林みたいなイメージ。
G:サウンドが確かにコズミックサウンドというか…。冨田勲さんの「月の光」を思い出すところもあるし。松田さんは世代的に知らないだろうけど…星の光みたいな…そういうのを思い出しました。なんというか宇宙的な…
M:星の光の音。
G:ビックバンの音もあるし…。
M:私はウーゴという人はビックバンだと思っていて、破壊して再創造していくような人だと思うんです。
あとこのCD、プレスがすごいんです。音質がすごく良いUHQCDというCDがあってメモリーテックという会社だけが作っているんだけど、そのCDをプレスしたんです。技術的なことは私はよくわからないんだけど、普通のやつよりも、ものすごく音が良い。いわゆる手焼き煎餅みたいな感じらしいんです…よくわかんないんだけど(笑) だから本当に一昨日、商品ができてきて届いた音を聞いて、もうびっくりしました。全然違うから。
G:確かにマスタリング終わると我々ミュージシャンは完成したと思うんだけど、プレスされて製品になってくるとちょっと違うことが多いんですよね。それが今回はプレスされてきたら…僕も詳しくないんですが、その技術によってものすごく良い盤の音としてあがってきたということなんですね。
M:そうです。マスタリングの時の最高のサウンドに限りなく近くなるという… マスタリング・ルームで聞くとすごいじゃないですか? それをCDで再現できるという最高のクオリティらしい。
G:技術に詳しくない二人が話してますので、なんですが…(笑)でもとにかくびっくりするほど音がいい。そこにもかけるものをかけた、と(笑)。
だからヴォーカルもより素晴らしく聞こえている気がします。インターネットを通じて、この番組で、そこまで伝わるかわかりませんが、ぜひCDを手にいれてチェックしてみてください。では、また曲をいきましょうか。
M:さきほどの配信番組のための新曲「トンボの旅路」と、あとこの曲は新しいから日本語の歌詞をつけてくれ、といって送ってきてくれた「La caricia」です。
♪ El vioje de la libelula トンボの旅路
♪ ラ・カリシア La caricia
G:「トンボの旅路」はちょっとブラジルのバイーヤみたいな感じ。「ラ・カリシア」の方は
ウーゴさんのサウンドが、ここではないどこかにフューッと連れていってくれる感じですね。松田さんの日本語が入ると、またそこでフッと空気が変わる感じがいい。
一般に流通するのは10月23日ということですが、一方で松田さんのオフィシャルストアは購入というボタンがあるので、先行で今販売しているということです。
M:はい。オフィシャルストアでは、アルバムと同じデザインのステッカーがつきますし、あと応援コースというのもあります。皆さんの応援があって出せているアルバムです。
G:番組情報のところにもリンクを貼ってありますので、ぜひそちらの方でチェックをしていただければ。今後、ライブとかは…ないんですよね…こういう時期だし。
M:はい。今、考えているところなんですけど… ウーゴもいないし。そうだ、でも明日イベントをやるんですよ。(OTTAVAでもおなじみの)林田直樹さんが聞き手で。出来たてほやほやのCDをそこで聴きます。エンジニアのKOTAROさんも来てくれて…。
実はここにくる前、ウルグアイ大使館にCDをプレゼントしに行ったんですが、そのトーク・イベントに急遽ウルグアイ大使もくることになって、そこでちょっと国の紹介をしてくれたりする予定です。
G:大使も自分が日本に就任している間、ウルグアイが世界に誇るウーゴ・ファトルーソが、「最高の歌手」と認める松田美緒さんとコラボしてくれて、それは嬉しかったでしょうね。ぜひ松田さんのホームページをチェックしていただいて、松田さんの今後の情報もチェックしてください。そして、その前にぜひニューアルバムを。ホームページ経由で。ステッカー付きです。アルバムから最後にもう1曲聴きましょう。
M:ありがとうございます。ウルグアイといえば、黒人の人たちの太鼓の音楽で「カンドンベ」という音楽があって、そのカンドンベの曲で「スティクとタンボリン」という曲です。カンドンベの音が星のように海と川を渡るよ、という。そんな曲。
G:ジャケットのイメージとも重なりますね。ありがとうございました。
♪ Palo y Tomboril スティックとタンボリン
その内容がとても良かったので、ゲレンさんに許可をいただき、番組の書き起こしを掲載させていただきます。
番組が聞けなかった方も、良かったらぜひ!
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ゲレン大嶋さん(以下、G):新しいアルバム、ジャケットからして、ものすごく素敵。もちろん音の方も最高です。まずは1曲目。
松田美緒さん(以下、M):Carlos Gardelの有名な曲で、El dia que me quiearas。ウーゴ(プロデュース)のヴァージョンでお聞きください。
♪ El dia que me quiearas 想いのとどく日
G:たぶんOTTAVAリスナーの皆さんはきっとこの曲は聴き慣れていると思いますが、だいぶこれは…
M:…アレンジがだいぶ違いますよね!(笑)
G:特にOTTAVAでかけているのは、最近のクラシックのギタリストの人がアレンジして演奏しているインストルメンタルのものが多いのですが…いずれにしてもまったくサウンドが違う。
M:7拍子で拍子も違う。
G:よくこの拍子の上で松田美緒さん平然と歌っているなぁと思ったんですよ。ウーゴ・ファトルーソ、今回のアルバムのキー・パーソンですが…
M:ウーゴはウルグアイ音楽の人間国宝。今、78歳。素晴らしすぎる音楽家ですけど、今回10年ぶりにアルバムを一緒に作って、選曲も編曲もすべてウーゴがやってくれて…。ウーゴは「いつか美緒にガルデルを歌わせたい」ってずっと前から言っていたんですけれど、今回それがかなって。
でも来たオケがこれだったから「やってくれたー!」と思ったんですよ(笑)。でも、ものすごく自然なんですよね。小難しくないというか。ウーゴ、さすがだなぁと思って。
G:若いころはウーゴさんはロックっぽい、フュージョンっぽいことやっていて、北米行って活躍してらした。
M:その後、ブラジルに行ってミルトン・ナシメントのアレンジャーを長くやって…。
G:松田さんといえば、ウーゴさんとの付き合いもそうだけど、本当に「旅の中でいろんな場所の、まだ僕たちが知らない音楽を見つけてきて、それをちょっと…エディター感覚というか、アルバムごとに雑誌の編集長がこういう一冊にしようと考える感じ? 編集長がライターやカメラマンを当てていくみたいな…。松田さんがそんなふうに歌でこちらに音楽を伝えてきてくれるみたいな、そういう感覚がありました。
M:本当に音楽に導かれて、歌に導かれて…ですね。ポルトガルのファドから始まって、大西洋の歌手になろうと…。
私は言語が好きだったので、18歳の時に外国人の友達が多かった中で、ブラジルの友達ができたんです。それまでイタリア語とかやっていて、ずっとイタリアに住みたいと思っていたのを、そんなきっかけで今度はポルトガル語をやってみようと思ったんです。CD屋に行ったら1枚だけ、かわいそうな感じでファドがあったんですが、それを買ってみた。そしたら、それがアマリア・ロドリゲス。彼女の歌を聞いて…
G:ファド界の美空ひばりさん的歌手ですね。
M:そうですね、国民的、世界的歌手です。その影響を受けてリスボンに住んで…。リスボンとかアンゴラとか…ブラジルの歌もずっと歌っていました。でもブラジルに呼ばれて新大陸に初めて行った時、「ここが私の大陸だ、もう港で待ってられないよ!」と思ったんです(笑)。それで大西洋の歌手になろうと決意しました。
そして1枚目の「アトランティカ」を出して、それからもうずっと止まらない旅ですね。
G:ずっと旅をしながら、僕らが知らない音楽を届けてくれる稀有な存在の松田美緒さんなんですが、今回はウーゴと組んだわけですね。
M:10年前にウーゴとウルグアイでレコーディングしたんですが、その後の10年間、私は日本の歌の発掘に力をいれたので、しばらく間があいてしまいました。日本国内のいろんなところに行っていろんな歌に出会って「クレオール・ニッポン」「おおいたの歌」をやったり。でも、もう一度音楽そのものに没頭したいという気持ちがあったんです。
(パンデミック中に)オンラインで私がやっている「Through the Window」という配信ライブを始めたのですが、その収録のために「最近作られたあなたの歌が歌いたいんです」とウーゴに言ったら、ウーゴはすぐ曲を送ってくれて、それが今回のアルバムに入っている「トンボの旅路」という曲でした。
G:そこからこのアルバムがスタートしたんですね。早速2曲続けて聞いてみましょう。
M: まず1曲目は、「密林 その光」という曲です。この曲は、本当に歌詞が今の時代を歌っているような深い歌詞で。密林が、光として私たちを導いている。出口が見えないこの状況に絶望しそうになるけれど、そんな時、密林が私たちを導き、そして私は新しい次元に行くのだ、もう後戻りはしない…と。そういう歌詞です。
G:これはどういう人が書いた曲なんですか?
M:二人のウルグアイのアーティストが書いていて、そのうちの一人のフェルナンドさんはウルグアイのラジオ番組を持っているので、最近そこに私も出演したりしてすごく仲良くなりました。ウーゴはOPAのバンドの時に、この曲を歌っていたんです。そして、もう1曲「Hurry!」は、ウーゴ・ファトルーソの作品で、名曲中の名曲です。
♪ La selva – Esa luz 密林、その光
♪ Hurry!
G:松田美緒さんのサウンドというとアコースティックなものという印象が強かったんです。だから松田美緒さんみたいなヴォーカルと、今回のアルバムの電子音を多用したものって、ともすると似合わないような気がしたのですが、まったくそんなことがなく、それどころかピッタリなんですよね。
ウーゴさんのサウンドが…僕はシンセサイザーのこと詳しくないんですけど、懐かしいアナログ・シンセみたいな、70年代を思わせるような… 例えばスティービー・ワンダーが使っていたようなそんな印象です。
M:なんというか、人情味があるような感じですよね。
G:こういうのってちょっと匙加減が違うと全然違うことになっちゃう。
M:やはりウーゴが本当に素晴らしく、そこにプレゼンスがあるというか、ウーゴがそこで弾いているという存在感ですね。彼の指から伝わってくるエネルギーがすべて入っているし。
G:音の選び方からタッチからすべて。本当にあのリズムとサウンドと、そして松田美緒さんのヴォーカルが本当に素晴らしいです。
今回特にサウンド… ヴォーカルのサウンドという意味でも素晴らしいと思うんですけど、去年からこういう世界になってしまって、直接会って海外の人とコラボレーションするということは難しい時代になっちゃいましたけど。今回の制作は?
M:はい、リモートですよ、流行りの(笑)。
G:…ですよね。でも、今は技術的にもそういうことはできるし。
M:10年前の2枚のアルバム作ったり活動したりしてきたから、信頼関係というのもあって、ウーゴもこうやって一緒に作ってくれたんです。本当に今回はウーゴに全部お任せして。最初は配信のために1曲作ってくれて、本当に一緒に音楽ができるのが嬉しかったので、「ウーゴの曲ばっかりの、そんなCDを作りたいなぁ」ということを話したら、そしたらウーゴが自分の曲もいいけれど、ウルグアイの他の作曲家のものを入れてつくろうよ、と。「それは、めっちゃ嬉しい!ぜひ!」ということになって始まったんですね。
G:ウーゴさんのそういうところが懐が深いですね。
M:毎日曲が送られてきて、全部OKって言って、すべてウーゴにお任せして、そしたら、次はどんどんカラオケが届き始めた。それを私は携帯でならして、いつもカラオケ練習ですよ。そういうことをしながらだんだん慣れていって、2月にやっとスタジオに入って、滋賀県でヴォーカルを録音しました。
G:このBOSCOというスタジオは、沢田穣治さんが最近、レーベルを立ち上げられたんですが、そのレーベルも、ほとんどそこで全部録ってらっしゃるようですね。
M:私も最近のアルバム「おおいたの歌」の時もそこで録ったし、ビクターの「アトランティカ」の時も実はそこで録っているんですよ。
今回のマスタリング・エンジニアは、その時にマスタリングしてくれた小島KOTAROさんという方で、15年前の「アトランティカ」チームがここで再結成(笑)。素晴らしいところですよ。琵琶湖が見えるんです。
G:最近、気になっているんです、そのスタジオ。ヴォーカルの素晴らしい響きを聞くと、素晴らしいエンジニアとスタジオなのだろうなと思います。まず楽曲、そしてこのサウンド。その真ん中にいる松田さんのヴォーカルがものすごく素敵ですね。
そして今ね、CDがあまり売れない時代じゃないですか。ミュージシャンが集まるとすぐその話になるのは、本当はよくないのですが(笑)、そんな風に、なかなか製作費回収するのも大変な時代の中で、CDの板がただ入っているだけ…というデザインにすることも多いし、それを否定はしませんが、一方で、こんな時にCDを買ってくれるんだからちゃんとパッケージとしても満足してもらいたい、ということもありますよね。
M:そうです。本当にこれは創造すること、クリエイションで、一番本質的な音楽的なことなので、売れないから安くあげようとか思いたくないんです。ウーゴが宝物を私に託してくれたので、すごくこだわって、満足いくものを作ろうと思って。音質もそうですし、アートも。アートは、山田学さんという方が、1曲1曲にぴったりあうアートを作ってくれて…
G:これジャケットが本当に素敵で、デジパックっていうんだけど、上質な紙で作られていて、そこにプラスティックのトレイがあるという、ちょっと厚みがあるタイプのもの。これが本当によくこの時代に、ちゃんとかけるものをかけて作ったなぁ、という印象です。
これね、手にしたら、音ももちろんなんだけど、松田美緒さんの作品なんだなぁ、と。
M:はい、すごい美しいアートです。実はこのジャケットだけでも飾れるんですよね。
G:デザインを縦にしたんで、CDを休めの姿勢にすると自立してくれるんですよね(笑)
美味しいお酒でも傾けたから、アルバム聞くと、もうすぐにでも元がとれますよ。中のブックレットもフル・カラーで、1曲ごとの歌詞があって…
M:こういう翻訳も心をこめてしました。
G:不思議なデザインで、宇宙の密林というか、深海のようにも見える。
M:そう! これなんかイカみたい。
G:珊瑚のピンクの卵が浮遊しているようにも見えるし、すごい神秘的で美しいジャケットです。
M:ウーゴの音楽が密林なんだけど、これからの時代…人間とか時間とかすべて超えて、酸素がないけど生い茂っている宇宙の密林みたいなイメージ。
G:サウンドが確かにコズミックサウンドというか…。冨田勲さんの「月の光」を思い出すところもあるし。松田さんは世代的に知らないだろうけど…星の光みたいな…そういうのを思い出しました。なんというか宇宙的な…
M:星の光の音。
G:ビックバンの音もあるし…。
M:私はウーゴという人はビックバンだと思っていて、破壊して再創造していくような人だと思うんです。
あとこのCD、プレスがすごいんです。音質がすごく良いUHQCDというCDがあってメモリーテックという会社だけが作っているんだけど、そのCDをプレスしたんです。技術的なことは私はよくわからないんだけど、普通のやつよりも、ものすごく音が良い。いわゆる手焼き煎餅みたいな感じらしいんです…よくわかんないんだけど(笑) だから本当に一昨日、商品ができてきて届いた音を聞いて、もうびっくりしました。全然違うから。
G:確かにマスタリング終わると我々ミュージシャンは完成したと思うんだけど、プレスされて製品になってくるとちょっと違うことが多いんですよね。それが今回はプレスされてきたら…僕も詳しくないんですが、その技術によってものすごく良い盤の音としてあがってきたということなんですね。
M:そうです。マスタリングの時の最高のサウンドに限りなく近くなるという… マスタリング・ルームで聞くとすごいじゃないですか? それをCDで再現できるという最高のクオリティらしい。
G:技術に詳しくない二人が話してますので、なんですが…(笑)でもとにかくびっくりするほど音がいい。そこにもかけるものをかけた、と(笑)。
だからヴォーカルもより素晴らしく聞こえている気がします。インターネットを通じて、この番組で、そこまで伝わるかわかりませんが、ぜひCDを手にいれてチェックしてみてください。では、また曲をいきましょうか。
M:さきほどの配信番組のための新曲「トンボの旅路」と、あとこの曲は新しいから日本語の歌詞をつけてくれ、といって送ってきてくれた「La caricia」です。
♪ El vioje de la libelula トンボの旅路
♪ ラ・カリシア La caricia
G:「トンボの旅路」はちょっとブラジルのバイーヤみたいな感じ。「ラ・カリシア」の方は
ウーゴさんのサウンドが、ここではないどこかにフューッと連れていってくれる感じですね。松田さんの日本語が入ると、またそこでフッと空気が変わる感じがいい。
一般に流通するのは10月23日ということですが、一方で松田さんのオフィシャルストアは購入というボタンがあるので、先行で今販売しているということです。
M:はい。オフィシャルストアでは、アルバムと同じデザインのステッカーがつきますし、あと応援コースというのもあります。皆さんの応援があって出せているアルバムです。
G:番組情報のところにもリンクを貼ってありますので、ぜひそちらの方でチェックをしていただければ。今後、ライブとかは…ないんですよね…こういう時期だし。
M:はい。今、考えているところなんですけど… ウーゴもいないし。そうだ、でも明日イベントをやるんですよ。(OTTAVAでもおなじみの)林田直樹さんが聞き手で。出来たてほやほやのCDをそこで聴きます。エンジニアのKOTAROさんも来てくれて…。
実はここにくる前、ウルグアイ大使館にCDをプレゼントしに行ったんですが、そのトーク・イベントに急遽ウルグアイ大使もくることになって、そこでちょっと国の紹介をしてくれたりする予定です。
G:大使も自分が日本に就任している間、ウルグアイが世界に誇るウーゴ・ファトルーソが、「最高の歌手」と認める松田美緒さんとコラボしてくれて、それは嬉しかったでしょうね。ぜひ松田さんのホームページをチェックしていただいて、松田さんの今後の情報もチェックしてください。そして、その前にぜひニューアルバムを。ホームページ経由で。ステッカー付きです。アルバムから最後にもう1曲聴きましょう。
M:ありがとうございます。ウルグアイといえば、黒人の人たちの太鼓の音楽で「カンドンベ」という音楽があって、そのカンドンベの曲で「スティクとタンボリン」という曲です。カンドンベの音が星のように海と川を渡るよ、という。そんな曲。
G:ジャケットのイメージとも重なりますね。ありがとうございました。
♪ Palo y Tomboril スティックとタンボリン