音楽を宣伝するという仕事

エストニアでいただいたルバーブケーキ。

今、まさに日向敏文さんの7月27日に発売になる新譜のプロモーションの仕事をしているのだけど…

下記に貼り付けてあるポッドキャスト「南青山の片隅でクラシック酔談」を聞いたら、思うところがとても多かったので、自分用の考察をここに書き留めておく。

今回のテーマ「そのレビュー記事、誰がどう読んでる?」は、「音楽を言葉にして説明する」そして、今まさに自分がやっている「音楽を宣伝する」、ってどういうことなんだろうかとあれこれ考えるきっかけとなったよ。


宣伝。それは非常に面白い作業。私は宣伝が好きだ。よく知ってる媒体さんやライターさんに「こんなおもしろいものがあるんですよ」「どうです? すごいでしょ?」「めっちゃいい音楽でしょ?」と宣伝してまわる。

運良くそれが雑誌にのったりラジオでかかったりすれば、とてもうれしい。その先にはまたより多くの人が、その情報を受け取ってくれる。

確かに雑誌やラジオで褒められれば、それでお墨付きがついて、お客さんが安心してCDやチケットを買ってくれるだろう。

お客さんは買うべきかの判断を他人にゆだねている…ということなのか? 配信などで音楽がうんと気楽に聴けるようになった今、果たしてそれは正しいことなのか?

このポットキャストで話題に出たフランスの雑誌では、雑誌編集部がCDを気に入ると「推薦ステッカー」がもらえるのだそうだ。そのステッカーが貼られたCDは実際レコード店の店頭でもよく売れている。

そして、実はその貼られているステッカーはこの雑誌社がメーカー側に1枚いくらで売っているそうで、この話は非常に面白いと思った。それは確かに合理的な宣伝方法かもしれない。

また番組内で語られているS社さんの話も懐かしい。確かにスイングジャーナル社は(あっ、言っちゃった)、広告がらみ以外載せない徹底した商業誌だった。

でも、それでも中には広告に関係なく編集部員が自由に決められるページがあって(真ん中のザラザラしたページのところ)、私はお金を払わずに、いっつもそこですっごいお世話になっていた。

私が初めて印刷される紙に文章を書いたのもアドリブ(スイングジャーナル社)さんだった。宣伝にネタを持っていったら編集の山崎さんに「自分で書いてみて、xxx文字」なんて言われたりしたんだ。たぶん95年ごろ? 

キングレコード勤務時代の宣伝会議を思い出しながら書いてみるが、広告といってもそれほど露骨な広告の請求はどこの媒体からもなかったと思う。なんとなくレコ社側が対象商品を宣伝しつつ、媒体さんと話していく中でなんとなーくそう言う話がでてきて、良き場所に落とす。そういう高度な忖度の上のことなのだ。

確かにレコ社時代、制作会議の時点でJAZZの担当者が「これはSJ社のほにゃららディスクが決まっています」とか言うことも多かったけどさ。

でも私ときたら最後の最後まで、そういった恩返しをすることもできず、(つまり自分では広告展開をすることもできず)、ザラザラページに無料でお世話になりっぱなしのまま、ジャーナル社の方がなくなってしまった。けれど、今でもそれを感謝している。

そして恩返しできなかった自分を悔やむことも。だって、それは社会的に協力していないということにもなるから。音楽業界に貢献していないことになるから。

まぁ、でもあんなに広告とタイアップしている雑誌は、本屋で買って購読している読者に対してはいったいどういう姿勢なのよ、という思いはある。

あそこまで明確に広告との連動がはっきりしていると、読者の方も気づかないわけないよと思うけど…。某ロキノン社もそうだし。

本当に難しい。

そしてポッドキャストにも出てくる情報解禁問題。これもあるよね。おっしゃるとおり、クラシック・ファンは500人として、トラッド・ファンは200人くらいか?(笑) そんな少ないパイを相手に情報に規制をひいいてどうなのよ…という事はある。

ジャーナリストの地位が欧米よりも低い。これは私も確かに感じる。

とはいえ、例えばその200人の信頼を手放さないためにも、公式ページでまずは最初に情報解禁…というのは、当然だとも思う。数の多い少ないではない。公式ページのお客さんを一番に大切にしているか、そういうこと。

うーーんー。が、でもそれがジャーナリズムを萎縮さえているのは、まぎれもない事実だと私ですら思う。

それこそこのポッドキャストを主催している曼荼羅の津山さんなんて、いつもそれとの調整だろう。公演の詳細は、主催者が一番に発表する。アーティストや事務所さんやライブハウスを借りている人の意向は尊重しないといけない。

でもそんなふうに音楽の広報の場の、いろんな場所に、なんとなくの「忖度」が存在しているのも、これまた日本社会なのかな…とも思う。

そして1億総評論家時代…だよねぇ!! ほんと。まさに。今やリスナーは自分の体験をもとめている。自分はこんな公演に行ってきました… こんなものを聞きました。すべて自分主体。音楽への感想はほとんどない。それはそれでいいことなのかもしれないが…

原さんが発言されている「撮影のホットスポットを作る」は、めっちゃなるほどと思った。これ、めっちゃ重要。これは基本中の基本だ。「ツイートしてください」、「みなさん紹介してくださいね」だけではダメなんだ。ホットスポットを作れ、と。

うーん、だからヴァーチャルだけではなくリアルで「場」を作るのって重要なんだよなぁ。レコ発ライブとか、収益がなくてもやらなくちゃいけないことではあるのかも。

「音楽を言葉にすること」…ということも本当に考える。あまりにすごいコンサートだと返って感想を簡単につぶやけない、という原さんの話に、めっちゃ納得。

そうなんだよねぇ。感想って、言葉にすると、なんかそこで一区切りついてしまう。片付いてしまう。消費されてしまう。感動が掃除されちゃう。

あるよなぁ、あるよなぁ…確かにある。

しかし例えばすごい音楽を目の前にして、これを言葉にして伝えようとしている自分の仕事って、いったいなんだろうと思ったりする。これはジャーナリストのみなさんも、私も同じだ。

宣伝の対象だけではなく、私だって、こうやって映画や本の感想を言葉にしてここに書いてるわけで、それって自分にとってはなんだろうって思うことある。感動をここで消費しているだけじゃないのか??

私的には、実はここのブログは備忘録的な存在で、読んだ本の内容とか映画の内容とか書いておかないと、まったくもってびっくりするほどすぐ忘れてしまうのだ。だから、やっぱりここに書くことが必要なのだった。ほんと書いておかないとすべて忘れる馬鹿な私。

でも書いて忘れてもいい状態であるからこそ、今、目の前にある次の新しいことに夢中になれる…という良い側面もある。だから、やっぱりこのブログも今のスタイルのまま継続していくのだろう。

それでいいのかという疑問はあれど… うーーーん、なやましすぎる。

またポッドキャストには出てこないけど、アーティストのインタビューや、そのやり方も本当にいろいろ考える。

多くの場合、インタビューはレコード会社が組むものだという意識はある。あれって、なんでだろう。来日してインタビューとっても、載るころにはコンサートが終わってて収益にならないから?

だからインタビューはプロモーターではなく、レコ社が組むことが多いけど、このレコ社も本当に最近しったのだが、インタビューにはいっさい立ち会わない方がいいと考える人がいるらしい。

私は自分が仕込んだインタビューに立ち会わないことこそ、媒体の皆さんやアーティストに失礼だと考えるのであるが、そういうことではなく…

いつだったか自分のfbのウォールでその話題になったのだが、レコ社やプロモーターには立ち会ってほしくない、取材対象と2人っきりにしてほしいと考えているインタビュアーさんが意外に多いのには、ちょっとびっくりした。

うーん、そういうものなのか。

でも、まぁ、わからないではない。特にうちのミュージシャンは、結構答えながら、質問をしてくれている初対面のインタビュアーさんではなく、立ち会っている私の方を向いて答えていることがよくある。

私は私で「うん、今の答え合格」「ナイスな受け答え」など、うなずいたり、「もっとちゃんと答えなさい」とか視線を送ったりするので、それも良くないのかも。アーティストの人たちも「この答えでよかったかなぁ」的な視線をチラチラこっちに送ってくるんだもの。

でも、そういうのが良くないのだろうか。

まぁ、でもインタビューはその場がえらい盛り上がって、いやー楽しかったねと終わったのに記事がなんかスカスカ…とか言うこともあるからね。一方で、インタビューは地味だったのに記事が抜群の時もある。インタビューって、本当に難しい。

そういや昔、とあるライターさんが某外タレ(女性)を海外取材にいったら、彼女は奥の部屋のベットにほぼ下着姿で寝そべり、その部屋からは全てのスタッフを追い出し、インタビュアーと2人きりになって取材を敢行したそうである…。 

頭がおかしいとしか思えないが。でもそういうのを素敵と思うジャーナリストもいるんだろうか。ちなみにそれはマライア・キャリーです。

媒体を通じて、1人ではなく多くの人へ、その音楽の存在を届ける。宣伝。音楽ジャーナリズム。言葉はいろいろあれど、いつもその作業はとても悩ましい。

それにしてもこのポッドキャスト勉強になった。

宣伝の世界では、4回そのことを目にすると、その対象の存在を知ることになるってよく言うんだよね。日向さんのアルバムが、いろんな人の目に4回とまるよう、少しでも多くの人に知ってもらえるよう、私としては日々努力していくしかないのである。

日向敏文さんの新作「Angels of Dystopia」はソニーミュージックレーベルズより、7月27日発売。配信も世界同時でリリースになります。

ドラマのサントラっていうけど、ドラマはよう知らんけど(笑)、この曲が本当に大好きで、しょっちゅう聴いていることは内緒。すごいよなぁ、こんなメロディ、よくかけるよなぁ。 

 
いつだったか日向さんがインタビューで答えてたけど、この曲は「急に走り出す感じ」が欲しいということで書いたのだそうだ。すごいよね、ドラマと一体化してる。